第6回「0から1を生み出す」
今回の要約:
- AIは過去にあった出来事でネット上にある情報しか判断材料がない
- 村おこしにガチャ、コンビニ、宅配便――すべては前例のない事業でAIには発想できなかったと推測する
- ゼロからイチを生み出す発想は人にしかできない。このスキルを人は磨いてほしい
AIは使い方によってはとても優秀で強力なツールです。しかし、一つ弱点があります。それは、世の中のインターネット上に情報がないものについては答えが出せないということです。過去に起きた出来事かつその情報がデジタル化されネット上にあれば、その膨大なデータの海を検索して最適解を見つけてくるのは得意中の得意、人が及ぶものではありません。しかし、いままでにないアイデア、常識に抗うようなビジネスなどは、AIに聞いても答えはでてきません。ここが0から1を生み出す、人しかできない視点なのです。
白馬村の村おこしで使われたもの
試しに「村おこし 村民と観光客を交流させるアイデアは?」とAIに聞いてみました。
すると「見る観光ではなく一緒にやる観光にすること」との答えがあり、畑作業を一緒にやる、祭りや行事の準備参加、また村民が案内役になって川遊びガイドや空き家見学をするなどの提案がかえってきました。また定期開催にしてリピーターを増やしたり、春は田植え、夏は川遊び、秋は収穫というようにまた来る理由を作る、という案もでてきました(Agent i より)。確かにこれらもよさそうな案です。
しかしもっと面白い事例があります。長野県白馬村在住の佐藤さんという方がいて、移住してきた方なのですが、白馬を盛り上げようと考え、なんと「村ガチャ」という方法を思いつきました。これはよくあるガチャマシンのカプセル内に、村人の写真入りのプロフィールを入れたもので、その村民はレストランのオーナーだったり駅長さんだったり農家のおばさんだったりします。ガチャを回して運任せで出てきたその人に会いに行く、というシステムです(2026年現在は終了しています)。旅に出ると一番おもしろいのは人との出会い。それを偶然的なガチャに任せ、観光客と村民との出会いにつなげるという、なんともユニークなこのアイデア。これを知ったとき「なんとすばらしい!」と思い、実際に白馬村に行って体験してもきました。このように「ガチャを人の交流に使う」という発想はおそらく過去にはなく、当然ネット上にもなかったはずですから、この村ガチャが存在する前、AIに尋ねてもこのアイデアは出てこなかったでしょう。これぞゼロイチの発想です。
今では当たり前にあるが…
いまロードサイドにはコンビニがたくさんあり、ちょっと飲み物を買おう、荷物を発送しようというとき大変便利です。1974年セブンイレブンが最初の店舗をオープンしましたが、当時はまだスーパーが全盛期で「スーパーに行けば安く買えるのに、誰がわざわざ高いものをコンビニで買うのか」という懐疑的な声のほうが多かったようです。社内や流通業界からも猛反対を受けたとのこと。もしこの時代にAIがあって、創業者がコンビニの可否を問うたら、きっとAIもNOの回答を出したと思います。今はなき創業者鈴木敏文氏の思いと勇気がコンビニを日本に定着させました。これもゼロイチです。
またいまや個人売買で荷物を送るのに不可欠な宅配便。ヤマト運輸は当初、三越など法人需要をきっかけに配送網を拡大していきましたが、1976年二代目の小倉昌男氏のとき個人向けの宅配便を始めます。当時は経営も悪化していて赤字寸前であり、このアイデアは社内の大反対に合い、全社員が反対し「1対役員・社員5000人」の孤立無援の戦いだったと言われています。それにも負けず、自分の理念を貫いた小倉氏。50年たったいま宅配便は私たちの生活に欠かせないものとなっており、小倉氏の判断が間違っていませんでした。このケースも、当時もしAIに尋ねていても、それで成功した事例はないし、まずNOの回答しかでてこなかったと思います。
ゼロイチ発想は人にしかできない
白馬村の村ガチャ、コンビニエンスストアそして宅配便の事例を見てきましたが、このような過去に事例のないことを生むゼロイチの発想は人にしかできません。AIを使えば色々な事例を出してきてくれますが、すべては既存の考えや出来事。これまでにないものを思い付くことはできないのです。
これに加え、最後は何としてもこれをやろうという熱い思いや信念。自分がすべてを背負うという責任感。AIには信念や責任感はありません。この部分を私たちは磨いていかねばならないと思います。


川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
