第5回「判断・決断する力」
今回の内容のポイント:
- AIは企業で業務支援、意思決定支援ツールとして活用されている
- 経営判断はすべてが合理性に基づくわけではないのでAIには不向き
- AIの答えは玉虫色のことが多く、最終的判断は人に求められる
- AIを参謀として従え、人が決断をしていくのが望ましい
先日、米国政府が新興の民間AI企業アンソロピック社が開発するAIの輸出規制措置を発出しました。これはAIの性能が国家の安全保障を揺るがすレベルに達しているということでしょう。もちろんいますぐにターミネーターの映画のようにAIが意思を持ち、人を攻撃するような段階ではありませんが、AIの力を人が活用すれば、国家を攻撃しうるレベルに来ているのは間違いないようです。今回のテーマは判断・決断する力。ではもう少し身近なレベルに落とし込んで見ていきましょう。
AIに会社経営は任せられるか
いま多くの企業でAIが導入されています。個人業務の効率化(文書作成、資料たたき台)、部門業務のサポート(市場調査、提案書作成)、そして意思決定支援(データ分析等)といった場面でAIが活用されることが多いようです。ただ経営とは意思決定です。さまざまな判断、決断を下さなければなりません。もちろんAIに「A案とB案どちらがよいか」と聞けばAがよい、という答えは返ってくるでしょう。しかしそれは過去の出来事の蓄積から類推される判断であって、決してドラスティックに常識を変えるような判断は出てこないでしょう。経営はときに合理的でない判断が必要な時もあります。たとえばかつてトヨタがカンバン方式を発案したころは、在庫を持つのが当たり前でした。もし当時AIがあっても「必要な時に必要なものを」というアイデアは生まれなかったでしょう。またAmazonの設立当初、短期的にみれば投資過多に見えるフェイズもあったはずです。AIなら少しペースダウンを提案したかもしれませんが、これは規模を拡大するための準備期間であり、いまとなってはこの時期があったおかげで他社の追随を許さないほどのスケールを確立しています。
AIの答えは非断定的
ためしに「AIにからめて自分の講演テーマを新しく追加するのはどうか?」と聞いてみました。答は「追加する価値は高い。ただAI専門ではなく、いまの専門分野にAIを掛け合わせるとよい」「最初、小出しにしてみて、反応がよければ関連テーマを増やしたらよい」ということでした。これは至極あたりまえの答えで人に聞いてもおそらく同じような答えが返ってきます。今度は外国為替の取引について聞いてみました。「いまドルを買うのはどうか?」と聞くと「全額つっこむのはすすめないが、分散投資ならあり」という答えでした。こちらもまあ想定内の答えです。次は結婚相手の相談です。「年収1000万の人と年収300万の人とどちらを結婚相手に選んだらよいか?」と聞くと「お金だけでみれば1000万の人だが、人として嫌な人だったり家族との時間を大切にしないリスクもある」「300万の人でも、一緒に成長していける期待感はあるかも」「端的にいうと、1000万のダメな人より、300万でも誠実で堅実な人のほうが良いことは十分にあります」とのことです。結局はどっちつかずの答えになりがちですね。でもここで面白いのは、おすすめの判断基準、というのを提示してくれたことです。それらは順に「誠実さ、金銭感覚、働き方の安定、話し合える力、年収」だそうです。これは相手を選ぶ際に役立ちそうな気がします(笑)。このようにAIに判断を求めると、「Aのほうがよいかも」「AもBもそれぞれこんなメリットデメリットがある」などと提案はしてくれるものの、最終的な決断をするのはやはり人なのです。
名参謀としてAIを使いこなす
今回色々と考察してきましたが、結論としては「AIには最終的な決断、判断はできないが、その意思決定の過程においてAI を使い、判断材料を揃えることは極めて有効」ということです。工場の生産ラインのように常に同じようなタスクで、データの逸脱やエラーを検知するような仕事であればAIで代用が可能でしょう。ただ日々環境が変化し、合理的な判断だけでなく、相手との関係性や経営者の理念など、数値化できない要素を含むような判断は人にしかできません。また人を選ぶような場面でもそこには非定性的な要素が多く含まれるので、これも人がする作業です。こうしたAIの得意分野を知り、人は判断、決断の質をあげるよう努めていきたいものです。


川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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