2009年10月15日

声を聞けば、どこに問題があるか、すぐにわかりますよ。

―――著書をお出しになられたきっかけは、どのようなものだったんですか?

 「若い人の言語的な伝達能力、コミュニケーション能力の低下については、いろいろなところで言われていますが、僕自身も感じるところでした。声と言葉のプロとして、伝達能力の訓練のお手伝いができるのではないかと早くから思っていたんです。

 それともうひとつ、もともと僕は高校生クイズを担当して、10年にわたって全国行脚をしていたんですが、高校生の喜怒哀楽の表現方法がどんどん希薄になっていることに危機感を持っていたんですね。全国大会に進出する各県代表の高校生が、あまりうれしくなさそうにしているので、うれしくないんだな、と思っていたら、実際には『チョーうれしい』と言う。喜びを伝える術を持っていないんです。言語的伝達能力はアナウンサーとしての訓練を活用することができますし、僕は大学在学中から劇団に在籍し、演劇の勉強をしていて、これが感情を出す訓練に活用できるんです。アナウンサーの訓練と、演劇の感情解放の訓練という2つのいわばクスリを融合させ、ブレンドさせて、飲みやすくしたのがこの本なんです(笑)」

―――伝達能力の低下や喜怒哀楽の表現力の低下は、どうして起きたんでしょうか?

iv46_03「異世代コミュニケーションが不足していることが大きいと思います。昔は家におじいちゃん、おばあちゃんがいたり、地域社会にも近所のおじさんやおばさんなどと話す機会が多かった。つまり、世代を超えたコミュニケーションがたくさん必要でした。若者言葉のような、特定の世代にだけ通用するローカルルールを使っていては、コミュニケーションが成立しないことを実感する機会が多かったわけですね。

  ところが今は携帯電話の登場などもあって、その機会が減ってしまった。かつては、彼女に電話するとなると自宅に電話をしなければいけなかったわけです。お父さん、お母さんが電話口に出るかもしれないと、ドキドキしながら準備することで、最低限の敬語や丁寧語が磨かれる機会があった。また子どもや赤ちゃんもたくさんまわりにいて、モノをわかりやすく伝えるという訓練が日常的にできたわけですね。音の高低、抑揚など、いろんな話術ものを使って子どもが飽きずに話を聞いてくれる伝達能力も磨けた。でも、今はそれもないでしょう。しかも学校教育でも、言語活動をバックアップする授業はない。訓練の機会がまったくないんです」

―――最近、話し方の本が次々とベストセラーになったりしていました。

「コミュニケーションや話し方を誰に聞いていいのか、実はみんなわからなかったんだと思うんです。だから本に走ったんでしょう。ただ、話し方の技術について触れた本はあまたあるんですが、コミュニケーションは言葉のテクニカルな部分だけで成立するわけではないと僕は思っています。心の震えであったり、思いであったり、喜怒哀楽であったり、そういうものがしっかりと相手に伝わって初めて、本当のコミュニケーションになる。実は足りないのは、テクニカルな話し方だけではない。ハートの部分も必要なんです。今回の本は、その両方をおさえることができたことが、大きな特徴だと思っています」

―――たしかにこれまでの話し方の本とはちょっと違うな、と思いました。

iv46_04「ありがとうございます。本もすばらしいと書いておいてほしいんですが(笑)、一方で演劇的な手法、アナウンサーの手法というのは、目の前にいるほうが何倍も伝わりやすい、というのも事実としてあったりするんですよね。僕自身、生でその人の声を聞けば、その人の声や言葉のどこに問題があるのか、すぐにわかります。200人、300人の方であっても、一斉に声を出してもらえば、何を矯正すべきなのか、把握できます。ここをこうしてください、とお願いして再度、声を出してもらうと集団でも大きく変わります。5分、10分で声の質、発声方法を改善させることができるんです」

ちょっとした意識と訓練で印象は変えることができるんです

―――講演などでは、どんなことから始められることが多いですか。

iv46_05「まずは、座ったままの状態で全員で笑いましょう、とにかく笑ってみましょう、ということから始めることが多いですね。明るいと照れくさいですから、会場の電気を消して。笑うとストレスも発散されるし、気持ちよくなれるんです。これは感情解放のひとつの訓練です。
  それから、あくびをしてもらうんです(笑)。人が起きているとき、一番力が抜けている状態というのが、あくびをしているときです。発声の基本は力を抜くことから、なんです。座っている状態で上手に力を抜くにはあくびがいい。あくびをしながら「あーあ」と声を出すのが、実は一番いい発声の形なんです。大きなあくびをして、大きな声をいっぱい出す。これは一番の発声練習です。

  そして今度は立ってもらって、身体をリラックスさせます。マリオネット・バランスと僕は名付けているんですが、頭の上から操り人形の糸が垂れて、それに引っ張ってもらっているつもりで力を抜きます。日本人は子どもの頃から、立つとついつい気をつけの姿勢をしてしまう。全身に力が入っているほうがいい姿勢だと思われている。でも、こと発声の場合には、だらしないくらいがいいんです。そして腹筋に力を入れる。これだけで声と言葉は変わりますよ」

―――ちょっとした訓練で、話し方の印象を変えるようなこともできるんですか?

「もちろんです。これは本でも紹介していますが、例えば、未使用のわりばしを1本、持ってきてもらいます。それを横向きにして奥歯で軽くかんでもらって、何でもいいからしゃべってもらいます。実は普通の人はこれではほとんどしゃべれません。唇にも舌にも異物がはさまっているわけですから。でも、それにあらがってしゃべろうとすると、口のまわり、舌のまわりの筋肉がどんどん開発されるんです。そして滑舌が劇的によくなる。

iv46_06早口言葉に『ブラジル人の ミラクル ビラ配り』というものがあるんですが、ラ行が多く難しい。でも、わりばしを入れて何度か練習し、はずしてやってみるとびっくりするくらいうまくしゃべれるようになります。

また、声が暗いと言われる人は「う」と「お」の音が弱いんです。それをより明瞭にやや強く発音するだけで、その人の日本語はすごく明るくなる。話し方が変われば、印象も大きく変わります。表情の作り方の訓練もあります。コミュニケーションは表情で印象が変わりますから。世界一酸っぱい梅干しを食べる顔と、満面の笑みで顔のパーツを全部外側に飛び出すくらいの顔とを交互にやる。これを何度もやるだけで変わります。絶対に隣の人の顔を見てはいけません、とは申し上げますが(笑)」

―――企業向けの研修などでも、使えそうな内容がありそうですね。

 「コミュニケーションの技術は本当にたくさんあるんです。プレゼンテーションなどでの上手な話の組み立て方。間の取り方。まゆげの使い方…。意外に好評なものに、『言葉の距離感』があります。全員後ろ向きに5、6人、1m間隔で立ってもらって、最後尾から特定の誰かに声をかけてもらう。声をかけられた人は手をあげてもらう。これ、言葉の距離感のない人がやると、全員の手が上がるんです(笑)。3番目の人に声をかけたつもりが、2番目の人の手が上がったり。この技術は、誰に向かってしゃべるか、というプレゼンテーション技術としても生きます。

また、『空気を読む訓練』もあります。5人が集まって、ランダムに「1、2」「3、4」「5、6」と一人ずつ数えていってもらう。できるだけ間を開けないようにするのがポイントです。しかし、順番ではなくランダムですから、どのタイミングで声を出すかが難しい。でも、慣れるとできるんです。誰が息を吸ったか、誰が声を出そうとしているか、わかるようになる。相手を感じられるようになる訓練です」

―――なるほど、テレビでおなじみの福澤さんですが、いろんな技術を持っていらっしゃって、それを伝えることもお仕事にしておられるんですね。

iv46_08「いずれやってみたいと思っているのは、話し方の訓練の授業を、小中学校、高校で行うことです。少子化が進む中、一人ひとりの能力を高めることは極めて重要な課題。そこに少しでもお役に立てれば、と思っています。それこそ、本に書けたことは僕の持っているノウハウのほんの一部。いずれはノウハウ全体を、福澤メソッドのようなものに体系化できれば、と思っています。日本人って、生まれてから一度も発声練習をしたことがない、という人も多いと思うんです。これでは、コミュニケーションの上達は難しい。でも逆にいえば、トレーニングをすることでこれから大きく変えられる、ということでもあります。ぜひ、トライしてみてほしいと思っています」

――本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

取材・文:上阪 徹 /写真撮影:野内 幸雄
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