2015年08月03日

世界水泳 日本シンクロ代表の活躍

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックでメインスタジアムになる新国立競技場の建設費問題で、デザインを含めゼロベースで見直すことが政府の公式声明で発表されました。報道各社、この問題について取り上げる時間も長かったですし、多くのコメンテーターがコメントしたり、あるいはアスリートの声を取り上げたり、かなりの関心を集めていたかと思います。私見としては、近代オリンピックが始まった1896年ギリシャでは、大きな広場と段々になった観客席というシンプルさで、選手が人間の能力の最大限を発揮するその姿に人は集まり、感動したと思うのです。なので、外観に贅を尽くすよりも、選手が最大限のパフォーマンスを見せてくれるような、走りやすくて、サブトラックからメイントラックまでの移動の動線がスムーズで、スーパープレーが沢山観られる、そんな機能的で使いやすい競技場であってほしいと思います。それこそ「TOKYO2020にはこれまでで一番の素晴らしい記録やストーリーがあったんだよ」と語り継がれるようなオリンピックになってほしい。それが、ある意味の成功なのかなと思います。

 それよりも、今月は私の中の関心事項第1位があるんです!そうです。そうなんです!世界水泳なんです!!本コラムを皆さんが読んで頂く時には、全ての結果も出ていることになりますが、現段階で日本チームは8年ぶりのメダルをデュエット、チームで獲得したのです。その立役者と言うのが、やはり闘将井村雅代コーチ、この方でしょう。女性に闘将というのもおかしな言葉の選び方かもしれませんが、いやはや、世界水泳のこれまでのコメントを聞く限りでは、真の勝負師です。選手を奮い立たせるその熱意と統率力は他の競技の指導者と比較しても一段上だと言って過言はないと思われます。日本チームの特に足技のキレは、研ぎ澄ました日本刀のように美しく、ある時は矢のように鋭く空間を刺し、その合わせた角度の精密さは形状記憶加工された機械のレベルに達して見えます。井村コーチ就任2年目でここまでの変化がもたらされたのです。ここまで一体どんなトレーニングを積んだのか、一体どんな言葉を選手達にかけていらっしゃったのか、今回は私の知る限りの範囲ですがお話したいと思います。

 大会3日目に出た日刊スポーツの記事に実によくまとめられた、これぞ井村イズムとも言える内容が書いてあったのですが、それに沿ってざっくり言うと、まず練習時間は毎日12時間平均。お休みは16日間の合宿だったら1日だけ。しかも、ウェイトトレーニングや個別に練習中に消化できていない部分があれば自主練習をする選手もいるので休みであって、休みでないよう。そして、泣くこと禁止!「泣いても疲れるだけで何の解決にもならん。親が死んだ時以外はなし」。さらに、馴れ合い排除!「今の選手はゆるキャラの極地。」と一刀両断。今の選手は優しく、調和の取れた選手が多く、例えば、昔の選手なら失敗した人がいたら「いいかげんにしてよ」と怒ったけど、今の子は言わない。怒ることで、言ったからには自分も失敗できないとの責任が生まれる。だからこそ無理をしてでも人間は頑張れる。最後は、肉体改造。今のシンクロに必要なのは、そして外国の選手より小柄な日本選手が必要なのは、昔のように浮力を身に着けるために体脂肪をある程度蓄えておくのはもう過去の話で、平均体脂肪率を5%減にして、腕や体幹、背中など上半身にさらにパワーをつけ、脚は尖った鉛筆の芯のように細く筋肉質になり、ロシアや中国などメダルに絡む国と渡り合える高さを身に着けていった。

 と、こういう取組が延々今年1月から続いてきたという訳なのです。デュエットテクニカルルーティンで日本第1号のメダルを獲得したときに、井村コーチは乾選手と三井選手に「これだけやったもんな。できひんはずがないもんな。」と私もほとんど見たことがない優しい笑顔で言葉をかけられていて、思わず私もこらえきれず涙が出てしまいました。

 思い返せば96年のアトランタオリンピックの年、私を含め10人の選手は、今回の選手達と同じように、かなり追い込まれることになりました。10人全員がオリンピック初出場。オリンピックに住む魔物の怖さを知っているのは井村先生だけでした。そして当時、ついに練習時間最長記録を更新し、その時は水中練習を平均10時間半行いました。練習の休みも同じくほとんど無し。コーチのおっしゃるイメージを理解しておらず、ただひたすらついて行くのみ。主体性のない選手達に唯一自信をつけさせてやれる方法があるとしたら、それは練習量だ、と。それは後日談として数年後に聞きました。とにかく辛かったし、早く終わってほしい、この苦しさから解放されたいということばかり考えていました。井村コーチもこんなに未熟な精神性の選手達を率いるのはきつかったと、今でもよくこのアトランタのお話を引き合いに出されます。今回の世界水泳派遣前の最後の公開取材日に私も伺わせて頂いたのですが、やはりアトランタのお話が出ました。「今回の選手も、最初は全く私の言葉が響かなかった。だけど、私はあのアトランタの苦い経験をしてるから、あれ以上のことはないから、全然やれる。」とおっしゃっていました。先生にそう言わしめる私達って・・・(苦笑)ですが、だからこそ次に向かう時、違う自分になって試合に臨みたいと本気で思えました。とにかく、このスパルタ式。いまだに根強く賛否が分かれていますが、私は引退して尚一層、この指導者に出会わせて貰えて幸せだったなと思います。自分以上に、私達選手のことを「できる」と信じてくれている人、親以外におそらく出会うことはなかなかないと思います。試合はもう少し続きますが、選手の皆さんには最後までワクワクさせる演技を期待しております!!