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コラム 政治・経済

2012年01月13日

現地に見る欧州経済危機~2012年の最大の懸念材料~

 年明け早々、ユーロ安が進んでいる。昨年の取引最終日の12月30日、ユーロは10年半ぶりに1ユーロ=100円を割り込んだが、年が明けてもユーロ安は加速し、1月6日には海外市場で97円台までユーロ安・円高が進んだ。2012年の世界経済の最大の懸念材料が欧州経済危機であることを如実に示す年明けとなった。

意外に明るかった街角の光景――しかし危機の影響じわり
 昨年末、その欧州を駆け足で取材した。ドイツ、ギリシャ、スペインの3カ国を回ったが、少し意外だったのは、欧州で最も景気が良いドイツだけでなく、経済危機が深刻なはずのギリシャやスペインでも繁華街は華やかなイルミネーションで飾られ、夜遅くまで多くの人で賑わっていたことだ。クリスマス直前という季節的な要因を差し引いても、経済危機の渦中にあるとは見えないような光景だった。昨年10~11月にデモ隊と警官隊が激しく衝突したアテネの中心地・シンタグマ広場を訪れると、にぎやかなイベントが開かれ、すっかり平穏を取り戻していたし、同広場に隣接するデパートも買い物客で混雑していた。街中に溢れていると伝えられていたゴミもなく、ホームレスの姿も見かけなかった。こうした点は、経済危機にあえぐ中にあっても救いと言えるだろう。

 しかしよく観察すると、やはり経済危機の影が垣間見えた。シンタグマ広場周辺のビルでは、デモ隊が投石のため剥ぎ取った大理石製の敷石や柱の一部が破壊されたまま。アテネ中心部の商店街では、閉鎖されていた店舗もいくつか目に入った。街の人手は多くても実際の買い物には慎重になっているそうで、地元の経済関係者によると「みんな生活をワンランク落としており、消費は目に見えて落ちている」という。一時のような激しいデモは収まっているが、国民の不満は根強いようだ。

ギリシャ国民の根強い不満
 その一つが、固定資産税に対する不満。これはギリシャ政府がIMF(国際通貨基金)やEU(欧州連合)から財政支援を得る見返りとして導入したもので、不動産の所有者を対象に2011年と2012年の2年間にわたり臨時に徴収する。財政赤字を20億ユーロ(日本円で約2000億円)減らすことが目的で、昨年9月の導入決定の際は反対運動が起きたが、その後決定され、すでに実施に移されている。アテネ市内に住む主婦は「ウチは100㎡弱で、税額は400ユーロ(約4万円)。金額も痛いが、徴収方法がひどい。電気代に上乗せして一緒に請求されるので、払わないわけにはいかない。払わなければ電気を止められるんだから」と憤慨する。同じ声をあちこちで耳にした。

 このような不満や批判はギリシャ政府だけでなく、EU全体、あるいはドイツにも向けられる。EUなどがこうした合理化を押し付けて、自分たちに犠牲を強いていると受け取っているのだ。たまたま乗り合わせたタクシーの運転手は「今の仕事を30年やっているが、観光客も減って景気は悪い。妻は2年前に失業して以来、ずっと仕事がない。そもそもユーロに加盟してから物価が上がり、いい事はなかった。」と、まくし立てていた。ちょうど幹線道路を走っていた時だったが、今度は建設中のビルを指差して「あれは建設の途中で資金が続かなくなって工事が中断したままだよ」と教えてくれた。そんなビルが随所にあるのだという。

 こうした現状を見ると、財政再建の前途はなお険しいものがある。今の財政再建策は歳出削減と増税が柱となっているが、それだけではギリシャ経済が縮小均衡に陥ってしまいかねない。経済そのものを活性化させる成長戦略が必要なのだが、もともと観光と農業が中心産業のギリシャにとって、それは容易ではない。公務員が多いなど、非効率と言われる経済構造を改革し、民間経済を活性化させることができるかどうかがギリシャ経済回復の鍵を握っている。

スペインの財政再建は先行
 ギリシャに比べると、スペインの財政再建の動きは先行している。中道左派の前政権(社会労働党)時代に、すでに年金支給年齢の引き上げや労働協約の見直しなどに着手し、11月の総選挙で勝利して発足した新政権(中道右派の国民党)は、さっそく公務員削減などに乗り出している。財政再建を掲げた国民党が勝利したことに示されるように、ギリシャと比べると財政再建に対する国民の理解は比較的進んでいるようだ。

 しかし何といっても、新政権は失業率20%以上、若年層では40%台という経済状態を早期に立て直すことが求められている。そのためには景気テコ入れが必要だが、一方で財政再建も進めなければならない。その両方で早く答えを出すことは容易ではない。そのうえ、スペインも固有の構造的な問題を抱えている。スペインでは不動産バブルが崩壊し、まだその傷が癒えていないのだ。不動産価格は「ピークまでの10年間で3倍に上昇したが、今はピークの2~3割下落したぐらいで、まだ下落は続くだろう。ちょうど日本のバブル崩壊時と似ている」(ある日本企業駐在員)という。そうだとすれば、構造調整には時間がかかる可能性がある。

大きい欧州域内格差~国民の意識にもギャップ
 今回の取材でもう一つ感じたことは、ドイツと他の各国(特に南欧)との経済格差、それに意識の格差の大きさだ。ギリシャ国民の意識は前述の通りだが、反対にドイツではギリシャなどの自助努力を求める声が圧倒的だった。このギャップを埋めることができるのか。今回の経済危機は欧州各国間の経済格差が背景にあり、さらにはEU統合とユーロ統合の矛盾にも行き着くもので、根は深いものがある。EU統合・ユーロ統合が果たして正しかったのか、といった議論も出ており、そのあり方が問われている。2012年は欧州経済の行方を世界中が見守ることになりそうだ。

岡田晃

岡田晃

岡田晃おかだあきら

大阪経済大学特別招聘教授

1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…

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