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2010年12月24日

上海・日本人飲食店 取材レポート(3)

 多くの中国人にとって職場は単に給料をもらう場なので、日本のようにロイヤリティなどを期待してはいけない。中国人は日本人とはまったく違う価値観で仕事に携わっているということを理解することが、中国ビジネスでは重要なポイントだ。しかし、その中でコラボの離職率はかなり低い。スタッフが長く勤めてくれることで、経営効率は大きく上向くわけだが、では、なぜコラボには中国人スタッフが居つくのだろうか。

「レストランの給仕というのは中国では社会的地位がとても低いのです。僕らは『コラボ賞』というものをつくって頑張ったスタッフをみんなの前で表彰しています。その人を褒め称えた文章を僕らがつくり、表彰状に印刷して読み上げるのですが、これは本当に喜びます。スタッフは貰った表彰状を正月に田舎に持って帰るのですが、両親は自分の子供が都会で頑張っていると知って誇りに思ってくれるのです」。

 コラボではとにかく中国人スタッフとのコミュニケーションを大切にしているのだが、そこで重要になってくるのが「言葉」だ。日本と中国では文化や価値観がまったく違う。日本式のきめ細やかなサービスを中国人スタッフに理解してもらうのは大変なこと。それを乗り越えるにはコミュニケーションしかないのだが、そこに言葉の壁が立ちはだかる。コラボのオーナー、黒木氏、中村氏、シェフの阿由葉氏、3人の日本人は、7年間で自由に中国語を話すことができるようになった。会話だけではなく、今では中国人スタッフと携帯電話でメールをやり取りする関係になっているというのだ。これは3人の努力以外のなにものでもない。

「僕らは通訳を雇うお金がなかったから、必死になって覚えるしかなかった。とにかくみんなとよく話をしています。問題のある子、ふてくされている子、仕事が終わって飲みに行きます。そこで改心してくれると、凄くバネがある子に成長してくれるのです」。

 彼らと話すことで、中国の若者が抱えている悩みを理解出来るようになったという。
「たしかに中国では”権利最大義務最小”のような考えがある。でも、それは仕事においての成功体験が日本のようにないからです。日本では戦後、貧しい中こつこつ働いた人間が大成功したという話をよく聞きます。日本人は知らないうちに成功の方法を教わっているのです。しかし、中国では成長のスピードが速すぎて、不動産が上がって手っ取り早く稼いだ人が成功者となっています。そんな上海で、朝から晩まで働いて、何でそんなに給料が安いんだ、と言われてしまうと、若い人は揺らいでしまうのです」。

 彼らは経営者というだけでなく、田舎から来た若い中国人のよき兄貴分という役割も引き受けている。彼らは中国人スタッフに対して、褒めたり慰めたりしながら、繰り返し何度も仕事の意味を教え、コラボのビジョンを語る。
「中国の若い子は早く成功しようとあせっています。だから、会社は自分のことを評価してくれないなどと言って、すぐにふてくされてしまうのです。長く勤めてもらうためには、そういう心のケアも必要になってくるのです」。

 このような話を聞いていると、なぜコラボが上海で成功したのかがわかってくる。
黒木氏は言う。

 「日本企業が中国で成功するには、やはり経営者が土着することです。僕らのような個人経営と大企業とはやり方は違うでしょうけれど、どちらにしても自分がこの上海での創業者だ、くらいの強い思いでやらないと、ここで成功することは難しいと思います。大企業であれば本社は思い切って現地に権限移譲しないとダメでしょうね。『どうせこの日本人は何も決められない』と中国人はクールに見ているんです。傍から見ていると、日本企業の駐在員は本社との調整ばかりに時間を取られています。もっと中国での仕事に専念させてあげないとダメですよね。頭の良い中国人は自分の人生について深く考えています。3年で帰国するとわかっている日本人には中国人は従いませんよね」。

 日本のサービス業が海外進出することについて、黒木氏はこう語る。
「日本のサービスは世界に通用するレベルの高さです。現地に合わせて少しカスタマイズするだけで、どこの国でも通用すると思います。日本のサービス業はこんなにも競争力があるのに、日本人はまったく勝負しようとしない。これは不思議です」。

 黒木氏は、日本人はもっと日本の価値を認識するべきだと言う。
「まず日本のパスポートは凄い。こんなにいろいろな国に行けるパスポートは見当たらない。日本の通貨も国際的に信用がある。日本人は本当に恵まれているのに非常に内向き。もったいないですよね」。

 戦後、日本人は外貨を稼ぐために、世界中に出かけていって日本製品を売った。その頃と同じ情熱とはいかないかもしれないが、世界経済が大きく変化している今、日本人は再び世界に、アジアに飛び出していく時期なのかもしれない。

内田裕子

内田裕子

内田裕子うちだゆうこ

経済ジャーナリスト

大和証券勤務を経て、2000年に財部誠一事務所に移籍し、経済ジャーナリストの活動を始める。テレビ朝日系「サンデープロジェクト」の経済特集チームで取材活動後、BS日テレ「財部ビジネス研究所」で「百年企業…

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