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コラム 政治・経済

2012年11月09日

これから、中国とどう付き合っていくべきか

日中関係は重要な危機に直面している。しかし同じ危機でも日中両国の国民の間では、今回の危機に対する感覚がかなり違うと思う。中国人は「魚釣島(尖閣諸島)を”国有化”して占拠している日本が許せない、どんな手段を使っても日本に圧力をかけて懲らしめ、反省させなければならない、そのためには武力使うことだって厭わない」とほとんどの人が思っている。中国の現代の若者は、想像以上に洗脳されてしまっていると私は感じる。

しかし日本人の今回の事態に対する感じ方はまた違うだろう。「領土問題で自らの論理を押しつけて日本を恫喝する。まったく関係のない中国にある日系企業の破壊行為を黙認し、しかも政府のスポークスマンが平然と”責任はすべて日本にある”なんていう発言を繰り返す。中国という国は何と理不尽な国なのか」。改めて、中国は付き合うのがとても難しい国だと感じることになったのではないだろうか。

さて、こうした両国間の相互不信という事態に、我々日本人は今後、中国とどのように付き合っていけばよいのだろうか。今回は、長い間北京や上海で”間近に”中国の知識人らと交流してきた私の私見を書かせていただく。

「逃避することができない相手」

さて、学校の同じクラスや自分の職場に、とても自分と相性が悪い友人や上司がいたら、皆さんはどうしますか?別に常に喧嘩を吹っかけてきたり、露骨な意地悪をしてくるわけでもないが、一緒に何かをすると意見が合わないし、相手の態度も気に入らない。しかもその人とは今後、否が応でもいろんな活動を一緒にしなければならない。。。

対処方法は3つあるだろう。1つは意識的にその人を避けて、できるだけ接触しないようにする。2つ目は何とか対話の機会を見つけて、仲良くしていこうとする。そして3つ目は、その人の”人となり”を自分なりに理解、納得することで、自分に大きなストレスを感じさせないような方法を考える。

今の中国との付き合い方は、この3番目しかないと思う。なぜならアジアの両大国として国際舞台で中国との接触、協同を避けて活動することはできない。本来は2番目の「対話をして理解し合う」ことが必要なのだが、今回の領土問題や過去の摩擦の経緯を考えると、中国と対話をしても決して分かり会えるような関係にはなれそうもない。だから3番目が重要だ。この国がどういう国なのかを日本人自身が納得してしまうしかない。

「世界には、こういう国もたくさんある」

今回の事態にあたり、中国の現地の日本人駐在員がはっと気がついたことがある。それは中国が大きな経済発展を遂げ、上海や北京などの大都市で暮らしていると、生活様式も価値感も日本や欧米の先進国と何も変わらなくなった、と思い込んでしまっていたことである。しかし、やっぱり中国の政治や社会体制は特異なままで、実はほとんど変わっていない。そのことを現地にいる日本人ですら忘れていたというのだ。

中国という国家を全体で見た場合、我々日本人には理解不能、というより信じがたい行動原理があまりに多い。しかしここは広く世界を見渡してみよう。我々、特に明治維新後の日本は、欧米型のいわゆる「自由、人権、民主」という価値感を是として国家建設を進めてきた。今でもこの価値感が間違っているとは思わない。

しかし世界の国々の中には独裁国もあるし、民族間の争いを繰り返す国、独特の宗教観が支配する国などが多くある。いやむしろ、現代の新興国には欧米型民主国家のような体制の国は少ない。だから中国が如何に特異な国だと思っても、敢えて「世界には、こういうような国もたくさんあるのだ」と納得すればいいではないか。時代は変わってきたのだ。

「メディアの報道に踊らされない」

私は日本のマスコミなどのメディアの記者たちが、ここ北京でどんなに苦労をして取材活動をしているか、目の当たりにしている。だからメディアの人たちを責めることはできない。しかしそれにしても、日本での中国問題に対する報道は、相当偏っていると感じる。

例えば、今回の領土問題が原因で中国各地でデモが起こった。一部の地方都市では、デモ隊が暴徒化し、日系企業の建物や店舗にひどい破壊行為を行った。これはいずれも事実だ。しかしこの時期、テレビの報道はトップニュースでこの暴徒らの行為を繰り返し放映した。これを繰り返し見れば、普通の日本人なら、中国全土で日本企業や日本人がとても危険な目にあっていると感じてしまうはずだ。

しかし、今回のデモは、例えば北京について言えば、2005年の時より被害は少ないと言う。またデモが行われた場所は、北京の日本大使館周辺”のみ”であり、その他の場所はまったく平穏で、日常と何も変わったところはなかった。時々ビルの窓や店舗の玄関に「魚釣島は中国のものだ」といった赤い横断幕が張られているのを見る程度のものだ。

日系スーパーで破壊された青島だって、あの地域(黄島という開発区域)以外の青島市中心部の同じスーパーは、平常通り営業していたと聞く。ある日本企業では、本社から「駐在員を全員帰国させるべきか?」という打診を受けて、北京にいる従業員が驚いたという話も聞いた。日本から見れば、中国全土が燃え上がっているかのように思えてしまうのだ。

実は私も北京の日本大使館の近くに住んでいるので、”変装して”デモを見に行った。そして一見して、デモに参加している人たちが”普通の人ではない”ということがわかった。またデモ隊の周りにおびただしい数の”普通でない”人たちが座り込んでいたことにも気がついた。本当にデモを管理するつもりならこのような手の込んだことをする必要はない。今回の事態には相当部分が”演出”的なものが含まれていたのだ。

数年前になるが、日本のあるテレビ局の報道番組の取材班が上海にやって来て、私の中国人の友人が現地案内と通訳を担当した。そのとき友人が驚いたことは、その取材班の人に「中国の街で汚い場所を探して案内してください」と言われたことだ。私の友人はとても傷ついた様子だった。

繰り返しになるが、日本のメディアの果たす役割を全部否定するつもりはない。しかしここ現地にいてわかることは、日本における中国問題の報道は、やっぱり相当偏っているということだ。見たら誰でも反中になるような報道があまりに多い。

「日本人以外の人たちの見方も参考にする」

例えば、ドイツ人やオーストラリア人は今の日中の事態をどう見ているのだろうか。アジアのタイ人やインド人はどう見ているのだろうか?皆さんの身近に
いる中立的な国の人に意見を聞いてみると参考になるだろう。

この人たちは、中国と同じように「日本は歴史を反省していない」と言うだろうか?おそらく日中の”国益”がぶつかっているだけと感じるだけではないだろうか。どの国の人たちも日本とはまた違った形だが、国内や国外で紛争を経験している。国益がぶつかれば戦争になるのは、国際的に見れば異常なことでもない。戦争行為を肯定するつもりはないが、どの国も”国益”という観点に立てば、極めて現実的な発想をするのだ。

その意味で、日本人はちょっと”情緒的”過ぎると言えるのではないか。確かに中国の国家リーダーやスポースクマンは、ふてぶてしくて感じが悪い。中国政府高官がテレビの前で日本製品の不買運動を容認する発言をするなんて、あまりに稚拙だ。でも幾多の抗争と理不尽な事態を経験してきた国家の人たちは、みんな隙をみせず現実的な対応に終始する。日本人も、もっとしたたかにふるまわなければならない時代がやってきたのだ。

「中国と付き合うメリットを計算する」

学校や職場でいやな相手がそばにいても、そいつと付き合うメリットがあれば、それをしっかり計算して行動すればよい。日本には、巨大な市場を持つ中国と付き合うメリットが存在するのは明らかだ。日本はそれなりの大国なので、別に中国と付き合わなくても生きていくことは十分可能かもしれない。しかし付き合うとメリットがあるのだったらできる限り利用させてもらう、といった現実的な発想も重要だ。価値感や発展形態が多様化している今日の世界の外交舞台においては、こういった考え方が主流だと思う。

難しい相手と付き合っていくポイントは、相手にも目に見えるメリットを提示するということに尽きる。だからこれからも黙々と中国が必要としている商品を売り込もう。そのためには代替のきかない商品やサービスに絞り込んで商売をしていくべきだ。また商談の席では例え気に入らなくても、相手の触れられたくないことには触れない。中国の場合で言えば、品格とか民度とか、そういう相手が気にしていることは言わない。例え相手が言って来ても聞き流す。

みなさんの周りで言えば、日本に留学に来たり、日本企業で働く中国人の話をもっと聞いてみよう。少なくとも彼らは日本人や日本企業と付き合うメリットを知っているし、聞けば意外とはっきり言ってくれる。それは今後の我々の中国ビジネスの大きなヒントになる。

我々はテレビやネットばかり見ていないで、もっと相手の懐に飛び込んで行動するべきだ。日本本社で何十回と「中国リスク対策会議」を開くぐらいだったら、例えば中国の現地に赴き、日系企業で働く中国人の話をじっくり聞いた方が絶対役に立つはずだ。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立(野村グループで中国現地法人第1…

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