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2021年11月10日

カーボンニュートラルと石炭火力の廃止の動向

地球温暖化対策としてカーボンニュートラルの達成が国際的に取組まれています。カーボンニュートラルは二酸化炭素の除去や処分により、二酸化炭素の大気中への排出をプラス・マイナスゼロにすることです。その中で、石炭による火力発電の廃止も国際的に議論されています。今回は石炭火力の廃止問題に触れてみます。

石炭火力廃止の潮流

火力発電の廃止は世界の潮流となっていますが、強く主張しているのはヨーロッパです。米国やカナダも州や都市単位で賛同しています。脱石炭連盟という団体がありますが、主な参加メンバーは国、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スイス、このほかにニュージーランドやコスタリカなど欧州以外の国と、カナダの4州およびバンクーバー市、米国のワシントン州などです。

火力発電には石炭のほか、天然ガス火力、石油火力があります。またボイラーなどの熱源の燃料としてLPGなども利用されます。これらは、いずれも化石燃料ですが表1に示す通り、燃焼したとき石炭が最も二酸化炭素を発生します。

天然ガスとの比較でその理由を説明します。まず石炭の主成分は炭素で代表的な化学式はCです。天然ガスの主成分はメタンで代表的な化学式はCH4となります。石炭は炭素の塊とみなすことができ、燃焼した場合に発生するのはCO2のみです。天然ガスの場合は炭素のほかに水素も含みますので、CO2とH2Oが燃焼で発生します。燃焼における同一発熱量あたりのCO2の排出量を比較しますと、石炭が1に対して天然ガスは0.55です。これは、石炭の代りに天然ガスを燃料として使用すれば、CO2の排出を45%削減できることを意味します。

表1 エネルギー転換によるCO2の削減

かつて石炭は燃料の優等生であった

昔は、火力発電の燃料として石油も使われていました。しかし、石油は輸送や貯蔵に便利ですが、石炭に比べて埋蔵量の少ない石油は火力発電に使わず、代りに石炭を使おうと国際的なコンセンサスが作られました。日本では石油火力電源が電力の59%を占めていた時代もありました。しかし、1970年代のオイルショック以来、石油火力は原則として新設が行われず、石炭による火力発電が行われてきました。当時は、石炭火力は世界でも日本でも、貴重な石油資源を守るという意味で言わば優等生でした。

さて、エネルギー資源に乏しい日本においては、エネルギーの確保は極めて重要な課題です。石油の3分の2が中東地域に偏在しているのに対して、石炭は世界で広く産出されており、また石炭は熱量当たりの単価も化石燃料の中で最も安価です。このように、安定供給性や経済性に優れた石炭による火力発電を、日本では重要なベースロード電源としてきました。

石炭火力に代わる方法としては、日本では天然ガス火力があります。しかし、日本では天然ガスの殆どは輸入します。国外で産出される天然ガスを液化して、タンカーによって日本まで運んできます。日本で天然ガスを利用する場合は高価な燃料となります。天然ガス利用の大きなメリットの一つは、燃焼してもほとんど有害な排ガスを出さないことです。

世界のエネルギー事情

ヨーロッパでは石炭資源が豊富で、長い間石炭火力が盛んに行われてきました。しかし現在、ヨーロッパでは縦横無尽にパイプラインが敷設されており、産出地の北海やロシアから天然ガスが運ばれてきます。ヨーロッパでは早いスピードで石炭火力から天然ガス火力に転換が進みました。

北米においては、カナダでは天然ガスが豊富に産出され、国内で使用されない分はパイプラインで米国に輸出されています。現在、米国でも石炭火力に代わって天然ガス火力が進められています。

ヨーロッパや北米では、天然ガス火力を推進し、石炭火力の廃止は着実に進んでいます。対して日本では石炭火力を廃止して天然ガス火力に代替することは容易ではありません。エネルギー資源の乏しい日本では、エネルギー源の多様化と、輸入先の多角化に努めています。エネルギー安全保障の観点から石炭火力を廃止することは躊躇されるところです。

四苦八苦する日本

日本では電力の石炭火力が占める比率は32%(2018年)です。そのうちの約8割が電力会社で、残りの約2割は企業の自家発電です。電力会社は国の資金援助があれば、石炭から天然ガスに転換することが比較的容易にできるかもしれませんが、企業の自家発電の石炭火力を廃止して、天然ガス火力などに転換することは大変困難なことです。

経産省の資料によれば、自家発電企業を持つ日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会、日本製紙連合会、セメント協会に対するヒアリングの結果、企業から次のような声があがっています。

自家発電は副生ガス利用や事業所の停電防止機能といった役割があり、生産活動と一体不可分である。系統電力に転換する場合、系統容量の確保に課題がある他、電気料金の高騰により国際競争力に影響を及ぼす。自家発電を含む製造プロセス全体で既に省エネ法の規制を受けており、新たな規制を設ける必要はない。石炭火力を休廃止した場合、熱・蒸気不足によりLNG火力やバイオマス発電への転換が必要になるが、設備投資や燃料価格差による追加的な生産コストで競争力が悪化する。石炭火力の休廃止が先行した場合、災害時の系統への緊急電力供給ができなくなるリスクがある。

いずれの意見ももっともなことです。なお、日本では、2018年に定めた新しいエネルギー基本計画で、2030年には電源源構成の中で石炭火力を26%とする目標を立てています。この基本計画と石炭火力の休廃止の整合性をとることも容易な事ではありません。

日本の現状を冷静に見つめますと、石炭火力を2030年までに休廃止することは極めて困難であると思われます。日本の伝統の欧米追従主義に従いますと、石炭火力の休廃止に突き進むことになります。

石炭火力は途上国では安価で簡便な発電装置です。国の発展には電力は絶対必要です。石炭火力の廃止は多くの途上国や新興国、いわば国際社会の弱者である国々を苦しめることになります。それでいいのでしょうか。日本はここで一度立ち止まり、世界と日本の為に、どのような対策を採ることが良いのか、冷静にこの問題を考えてみるときではないでしょうか。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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