第3回「人を動かす力」
さて今回のテーマは「AIは人を動かせるか」です。ここで言う動かすとは、人を動機付けさせる、何らかの行動に移させる、ということを意味します。そもそも人はどんなときに動くのでしょう。AIに聞いてみると:
- 価値観
- 人との信頼関係
- 前提を覆す問いがあるとき
に大きく分けられるとのことでした。
価値観によって動く
これは仕事の価値観や人生観といったものです。「自分はなんのためにこの仕事をしている?将来自分はどうなりたいのか?」という答えはインターネットの中には答えはなく自問して見つけなくてはなりません。事例はたくさん出てきますが、それを選ぶのは自分ですし、前例のない価値観もあるはずです。これを見つけ出すのは人個人の判断ですし、自分でできなければ他の人(コーチやメンターなど)の問いかけを活用してもよいでしょう。
ちなみに自分は、自身の吃音のハンディや母の認知症などから、「認知=ものの見方」こそが人の人生を変えるということを実感し、それを伝えることが自分の仕事の価値だと思っており、そこに立ち返ることで自分を動かすことができていますが、こうした答えはAIでは得られないでしょう。
人との信頼関係
また人は誰かとの関係性のなかで「よし、がんばろう」という気持ちにもなります。「○○部長のために頑張りたい」「~さんを喜ばせたい」など、これらは相手との関係性の中に生まれる感情ですが、AIとこうした関係性を結ぶことは難しいと思われます。いまでもAI上司というものが存在し生身の上司よりも素直に聞きやすいなどのメリットはありますが、どこかで「やっぱり相手は機械なんだな」と冷めてしまうのではないでしょうか。悩み相談などは過去の解決事例からある程度の答えが出そうなのでよいですが、動機付けという点においては少し弱いかなと思います。自分が頑張った結果をAIに報告すれば、最大限の賛辞の言葉を返してくれるかもしれませんが、上司の笑顔や涙ほど自分の琴線に触れるものではないはずです。
前提を覆す問い
人は、大きく前提が動くとき、動こうという気持ちになることがあります。しかしAIは与えられた条件の元に情報を集めてくるので、そもそもそれが必要か、というように前提を疑うことはありません。例が適当かどうかはわかりませんが、幕末の坂本龍馬のようにそれまで犬猿の仲だった薩摩藩と長州藩を結び付けようという発想はAIには絶対に成しえなかったと思います。坂本龍馬がそれを問い行動したことで多くの人が共感して動き新しい日本の形が作られたのです。
自分にとっての意味づけはAIにはできない
仕事の場面で言えば、人が動くときには「その仕事をなぜやるのか」という意味付けが大切です。もちろんAIはそれをサポートするツールとしてとても有効です。すべき作業を洗い出したり進捗を管理してタスクを見える化する部分はAIの得意分野でしょう。ただ「この仕事は自分にとってどういう意味があるのだろう」という深いところの意味を見つけることはAIにはできません。前回のテーマである問いを立てる力が必要で、これは自問自答したり他人(上司やコーチ、メンターなど)が関わることでより明確化してくるものです。また、本人には興味のなさそうな仕事をやってもらうときなどは上司の腕の見せ所です。本人の興味や将来のビジョンなどを把握している上司なら、いま目の前の仕事と相手の将来のビジョンとをうまく結びつけることもできるはずです。ここはAI にはできません。仕事をやりたくないとAIに聞くとまず同情してくれ、次にやりたくない理由を分析してくれ、どうすれば心のエネルギーを回復できるか、たとえば甘いものをとったりとその方法を提案してくれます。でもここで「では仕事っていったい自分にとってはどんな意味があるのか?」「そもそもこれはやる必要があるのか」「自分はどうなりたいのか?」という深い問いはしてくれません。じつはここが人が動く上では一番重要な肝なのではないでしょうか。
仕事をすることによってどんな自分になりたいのか?いま目の前の仕事にどんな意義を見出せるのか。そう問われることによって人は内省し、意義を見出し動いていくものです。
今回、人を動かすというテーマでAIを考えてみましたが、AIはそのサポートツールにはなるが、本質的な肝の部分、内面からの動機付けにはやはり人の力が必要、というのが私の結論です。


川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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