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2016年04月25日

ポジティブは先天的なものだけではない

4月4日から4月10日まで競泳のリオデジャネイロオリンピックの代表選考会が東京国際水泳場で行われた。
私は、取材をするために毎日会場へ足を運んだ。

2012年ロンドンオリンピックで引退してから初めて、こんなにレースを間近で見た。それまでは、セカンドキャリアを歩むべく様々な準備や勉強が忙しく、今回の試合のように、水泳漬けになったのは久々だった。

率直な感想を言えば、エリートアスリートのエリアにおいての、スポーツを「やる」立場から、「支える」もしくは「見る」立場に変化したことを実感した試合になった。決勝のレースに入場して来る選手、全員を尊敬してしまった。
4年に1度の選考会は、何と言っても異様な空気なのだ。

私は、2004年アテネオリンピックの時、1度代表選考から漏れるという経験をした。確実にいけると言われ、落選した時の自分の不甲斐なさを昨日のことのように思い出すことが出来る。
当時の記者の方に聞いても、「絶対行ける」と思っていたと、話してくれた。
私自身も行けると思っていたし、こんなにもオリンピックが選手の人生を左右し、本当の自分の弱さが出るものだとは思わなかった。
その気持ちは2008年北京、2012年ロンドンとオリンピックに行けたことで少しは克服できたのかもしれない。

「戦う」覚悟が出来ている選手だけが、そのオリンピックへの切符を手にするのだ。

今回のリオのオリンピック選考会で、素晴らしいレースをした選手たちがいる。

日本の真のエースとして飛躍しつつある、個人メドレーの萩野公介選手。
400m個人メドレーと200mは見事な日本新記録で代表権を獲得。

リオオリンピックでチームキャプテンに決まった金藤理絵選手。
2008年の北京オリンピックに出場し、2012年のオリンピック代表を逃し、200m平泳ぎで今年世界ランキング1位の成績を残した。
輝かしい成績を見ると、「苦労なんてしていない。才能があるから」と思いがちだが、彼らの頑張りや努力には脱帽だ。

萩野選手は、17歳で迎えた2012年のロンドンオリンピックで見事銅メダルを獲得してから、「怪物」「和製フェルプス」と言われて来た。
日本の期待を一心に受けただろう。
「萩野は強い」こんな印象を周囲は持っていたはずだ。
そんな中で、2015年合宿先で、肘を骨折という診断を受けた。不意の事故だった。大きな挫折は、初めてだったのではと思う。
その年にあった、カザンで行われた世界選手権は欠場。真面目で頭もいい萩野選手は心の底から悔しい気持ちと申し訳ない、という気持ちに陥った。

元々、物怖じしない大物が来たという印象だった。
競泳界を成績、人間性ともに引っ張ってきた北島康介選手が引退したことも重なり、挫折を乗り越えた今回の試合では萩野公介選手は本物のエースへ成長していることが伺えた。
「もう先輩に頼ってるだけじゃだめなんですね」
こんな萩野選手の言った言葉の中に、日本を引っ張るという自覚が垣間みることができた。

一方で、金藤理絵選手は、文句無しの日本新記録で現在世界ランキングトップだ。彼女は、2008年北京オリンピックで代表入り200m平泳ぎで7位という好成績を残している。
しかし、2012年ロンドンオリンピックは若手の渡部香生子選手、鈴木聡美選手が飛躍的な成長を遂げ、オリンピックは落選してしまった。
彼女の担当コーチの加藤コーチは「1度逃すと4年じゃなくて8年も頑張らないといけない」と話していた。8年間、オリンピックの為に頑張り続けるということだ。

1度だめだと次は4年先。
落選のあと、3年くらいは金藤選手も何度も4年、頑張り続けるのは無理だと思っていた。しかし、加藤先生コーチが一生懸命指導したのだろう。
「去年くらいから自分から意欲的に頑張るようになった」と話していた。
1度どん底を見てから這い上がる彼女の生き方を、本当に素晴らしいと思った。
諦めなければ、年齢は関係ないんだなと。

競技人生は長い人生の縮図だ。
紆余曲折。その中に一生懸命やるアスリートのひた向きさ。
自分を信じ抜く強さを感じる。

彼らは強いんじゃない。
弱い自分に出会った時に、自分を受け入れる強さがあるのだ。
アスリートから学ぶことが多いと、心から思う。

伊藤華英

伊藤華英

伊藤華英いとうはなえ

競泳オリンピアン(北京/ロンドン五輪 水泳女子日本代表)

べビースイミングから、水泳を始め、15歳で日本選手権に初出場。女子背泳ぎ選手として注目される。2008年日本選手権女子100m背泳ぎで日本記録を樹立。初めてオリンピック代表選手となる。その後、怪我によ…

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