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コラム 政治・経済

2024年01月23日

農福連携の意義と動向

農業従事者の減少と障害者の雇用の二つの課題を解決する手段の一つとして、現在農福連携が推進されています。今回は農福連携の動向や実施例などについて触れます。

農福連携の役割と動向

農福連携とは農業と福祉が連携して、障害者の農業分野での活躍を通じて農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出して社会参画を実現する取り組みです。年々高齢化が進む農業現場で障害者が貴重な働き手となることや、障害者の生活の質の向上などが期待されます。
現在、農業や農村が抱える課題として、毎年新規就農者と同程度の基幹的農業従事者が減少しています。また、耕作放棄地など荒廃農地は全国で約9万haあります。農福連携により農業、農村が得られるメリットとして、農業労働力の確保、農地の維持と拡大、農地の荒廃防止、地域コミュニティの維持などがあげられます。
農福連携は様々な目的の下で取り組みが展開されており、これらが多様な効果を発揮されることが期待されています。持続的に実施されるには、農福連携に取り組む農業経営が経済活動として発展していくことが重要で、個々の取り組みが地域の農業、さらには日本の農業、国土を支える力になることが期待されます。

農福連携、国の取り組み

農福連携を全国的に広く展開して裾野を広げていくためには、「知られていない」「踏み出しにくい」「広がっていかない」といった課題に対して、官民挙げて取り組みを推進していく必要があります。また、ユニバーサルな取り組みとして、高齢者や生活困窮者等の就労や社会参画の支援や、犯罪や非行をした者の立ち直り支援等、様々な分野にウイングを広げ、地域共生社会の実現を図ることが重要です。これはSDGsにも通じるものでもあります。農福連携等の推進については、引き続き関係省庁等による連携の強化が進められます。

次に、農福連携の関連予算でありますが、農山漁村振興交付金のうち農福連携対策として計上され、令和4年度予算概算決定額は9,752百万円でした。
この対策事業のポイントは、農福、林福(林業と福祉)、水福(水産業と福祉)連携の一層の推進に向けて、障害者等の農林水産業に関する技術習得、多世代・多属性が交流・参加するユニバーサル農園の開設、障害者等の作業に配慮した生産、加工、販売施設の整備、全国的な展開に向けた普及啓発、都道府県による専門人材育成の取り組み等の支援です。事業目標として、農福連携に取り組む主体を令和6年度までに新たに3,000件の創出を目指します。

農福連携の関連予算による事業の内容は以下の通りです。

  1. 農福連携支援事業:障害者等の農林水産業に関する技術習得、作業工程のマニュアル化、ユニバーサル農園の運用等の支援。事業期間は2年間で、交付率は定額(上限150万円等)。
  2. 農福連携整備事業:障害者等の作業に配慮した生産施設、ユニバーサル農園施設、安全・衛生面にかかる附帯施設等の整備を支援。事業期間は最大2年間で、交付率は1/2(上限1,000万円、2,500万円等)。
  3. 普及啓発・専門人材育成推進対策事業:農福・林福・水福連携の全国的な横展開に向けた取組、農福・林福・水福連携の定着に向けた専門人材の育成等を支援。事業期間は1年間で、交付率は定額(上限500万円等)。

農福連携、農業協同組合の取り組み例

農福連携は農協のほか、企業や法人、団体等で実施されており、農水省の資料で多数の取り組み例が紹介されています。その1例として、2020年にノウフクアワード審査員特別賞を授賞した松本ハイランド農業協同組合の取り組みを次に紹介します。
⻑野県松本市や塩尻市ほか3市5村の松本ハイランド農業協同組合の主力商品は、野菜(レタス、キャベツ、はくさい、トマト、すいか等)、果樹(りんご、ぶどう、なし、桃等)、きのこ、⽶、⼤⾖、⻨、そば、花卉などです。
松本ハイランド農業協同組合では、農業者と障害福祉サービス事業所との「マッチング事業」を実施しており、作業内容をメニュー化して請負報酬を明らかにすることで、農業者と障害福祉サービス事業所双⽅の不安を軽減しています。
農協組合員にとっては繁忙期に労働⼒を確保でき、農協の農産物集出荷施設では作業の安全性に配慮した農福レーンを設置して労働⼒の確保に繋げています。また、障害福祉サービス事業所としても、馴染みのある農協組合員の農作業を毎年受託するなど、農福連携の輪は徐々に広がりをみせています。
松本ハイランド農業協同組合の取り組みの概要は、組合員は依頼したい作業内容を農協に申し込み、農協本所を介して障害福祉サービス事業所に仕事を依頼しています。農作業の請負契約は組合員と障害福祉サービス事業所が直接締結します。農協は作業内容をあらかじめメニュー化することで、障害福祉サービス事業所の不安を軽減します。メニュー化した作業は、時給制でなく、作業内容・作業量に応じた単価制とし、作業の報酬単価を明確化しています。作業単価については、毎年、事業者や県の担当者などの関係者を集めた会議を開催して改定しています。

松本ハイランド農業協同組合の取り組みの成果

松本ハイランド農業協同組合の農福連携の体制は次の図のとおりです。

松本ハイランド農業協同組合の農福連携の体制

組合の取り組みの成果は以下の通りです。

  1. 農家の⻑時間労働の解消やスポット的な作業についても労働⼒の確保が容易になり、経営⾯積の維持や拡⼤、農地の荒廃発⽣の防⽌に貢献しています。
  2. 障害者の労務管理は、障害福祉サービス事業所の職業指導員が⾏うため、組合員⾃らの労務管理は不要で、請負作業増加に伴い⼯賃が向上します。
  3. 農作業⼯程を分割して、誰でも⾏いやすい部分を障害福祉サービス事業所に委託していますが、このことにより、組合員は、単発的に労働⼒を必要とする際に労働⼒を確保できるとともに、⾃分しかできない作業に集中することで、⽣産性が向上しています。
  4. 農家と障害者、地域住⺠等との交流により地域の⽀合いの意識が成熟しています。

コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けました。旅館等の従業員の雇用を引き受けるなど、農業はコロナ禍対策で重要な役割を果たしました。そもそも農業は食料自給や国土保全に貢献していますが、さらにはコロナ禍の日本を救い、そして今また農福連携により日本社会の発展に貢献しています。これからも様々な形で農業が日本の発展に寄与することを期待いたします。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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