2017年04月10日

英国のEU離脱が及ぼす日本経済への影響

 昨年、大方の予想に反して英国では国民投票でEU離脱が決定し、また米国の大統領選挙ではトランプ候補が当選しました。激動する国際情勢の中、世界経済の将来は不透明です。今回は英国のEU離脱が及ぼす日本経済への影響について触れてみます。

EUと英国の離脱

 EU(欧州連合)は現在28ヶ国で構成され、総人口は約5億人です。EU全体の総GDP(国内総生産)は米国を抜く大きさです。EU域内では財やサービス、資本、人の移動が自由な単一市場を形成しており、多くの国が統一通貨ユーロを使用しています。経済・産業については共通の規則を採用しており、必要な場合には各国はEUの規則に合わせて国内法を整備します。
 EUは経済統合から将来は政治的な統合を目指しています。EU内においては、人口(8100万人)、GDPともに第一位のドイツが抜きんでた存在です。少なくともEUの経済政策はドイツを中心に進められています。
 英国はEU内において人口(6320万人)とGDPともにドイツに次いで第二位です。なお、同じEU加盟国のフランスの人口は6280万人、イタリアの人口は5990万人です。英国のGDPはEU内の17%を占めます。英国はユーロを使用しておらず、ポンドを使用しています。
 欧州石炭鉄鋼共同体(1951年)、欧州諸共同体(1967年)を経て、EUは1993年に発足しましたが、英国は1972年に欧州諸共同体に参加しました。なお、欧州石炭鉄鋼共同体はドイツ、フランス、イタリアの戦後復興を目的につくられました。
 2016年6月23日に実施された英国のEU離脱の是非を問う国民投票の結果、僅差ではありましたが離脱派が勝利しました。年代別の投票行動の分析では、若年層では残留派が多いものの、45歳を超えると離脱派が多数をしめます。特に18歳から24歳までの層では73%が残留を支持したのに対して、60歳以上では離脱派が60%を占めたという調査結果が出ています。

EU離脱が及ぼす英国への影響

 英国は2017年3月29日にEUに離脱を正式に通告し、その後に離脱の交渉が始まります。EU離脱の英国経済、世界経済に及ぼす影響は交渉による今後の枠組み次第です。離脱後にEUと新たに自由貿易協定を結べば良いというような英国に都合の良いことは認めないと、EUは表明しています。また、残留派が多数を占めたスコットランドが、今後英国から独立してEUに加盟する可能性もあります。
 EU離脱の英国経済に与える具体的な影響として、既に急激なポンド安が進行しています。英国の輸出の半分近くはEU諸国向けですが、離脱後は輸出品に関税が課される可能性があり、競争には不利です。現在EUが自由貿易協定を結ぶ50を超える国との貿易でも、協定のメリットが得られず、英国の輸出産業が打撃を受けるおそれがあります。
 EUの中心的な金融センターであるロンドンのシティーの地位が低下し、その機能がドイツのフランクフルト等に移る可能性があります。
 離脱の結果、英国はEUのあらゆるメリットを失うおそれがあり、英国のGDPが6.2%前後縮小する可能性があるとの指摘もあります。

英国のEU離脱が及ぼす日本への影響

 2015年の日本からの輸出総額に占める英国のシェアは1.7%で、これはEU全体の10.6%に当たります。一方、日本への輸入総額に占める英国のシェアは1.0%でEU全体の11.0%に相当します。これらは日米間や日中間の貿易額に比べると規模は小さいものです。
 しかし、日本の対外直接投資残高に占める英国のシェアは7.0%でEU全体の22.0%に当たります。日本の対内直接投資の英国のシェアは7.7%でEU全体の38.4%に相当します。このように英国は日本にとって重要な投資先、投資元となっています。

 さて、英国へは日本から1,000社以上の企業が進出しています。英国を欧州の橋頭堡としている企業も多く、これらの企業においては英国のEU離脱後には欧州戦略の見直しが必要となります。たとえば、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社は2015年には英国内で合計約78万台の自動車を生産しました。これは英国内の全自動車生産台数の半数近くになり、その多くがEU各国に輸出されているため、大きな影響が懸念されます。
 日立製作所は英国に鉄道車両の大きな工場を持っています。ここを拠点に高速鉄道用車両などを製造していく計画です。この工場は単に英国市場向けに鉄道車両を製造するために作られたのではなく、将来はEU諸国に車両を売り込むための戦略拠点としての役割も持っています。日立製作所はイングランド北部での雇用創出を期待する英国政府の要望に沿って進出ました。しかし、今回の英国のEU離脱によって事態は一変し、日立製作所は大変厳しい状況に直面する可能性があります。
 その他、ロンドンのシティーから日本の金融機関がフランクフルト等へ移転の可能性、新規に現地生産を目指す日本企業は英国ではなくスペインやアイルランドなどへの進出の可能性、日本企業のヨーロッパにおける拠点がジュッセルドルフやパリなどへの移転の可能性などが指摘されています。
 英国経済やEU経済の不調は、日本から英国やEUへの輸出を減少させます。また、ポンド安やユーロ安を引き起こし、その結果円高を招くことになります。英国やEUの経済低迷が世界経済に影響を与えますと、日本も含めた世界的な株価の下落につながります。以上のように、英国のEU離脱は日本経済にはマイナスの影響が大きいと考えられます。

 英国のEU離脱後の枠組みはまだ決まっていませんので、現時点で英国のEU離脱の日本経済への影響を見極めることは難しい状況です。当面はこれから始まるEUと英国との二年がかりの離脱交渉の経過を見守っていく必要があります。