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コラム 政治・経済

2009年01月05日

世界同時不況

新年早々、暗い話で恐縮だが2009年はどう考えても真っ暗な年である。とにかく日米欧という先進国の景気が同時に戦後初めてマイナス成長になることはほぼ確実だ。アメリカの低所得者向け住宅ローンであるサブプライムローンの返済不能から始まった金融危機は、アメリカがゼロ金利を採用するという「海図なき航海」にまで発展した(日本はゼロ金利を体験しているが、アメリカは初めて)。そしてアメリカの消費の落ち込みの影響は予想をはるかに上回っている。アメリカの年末商戦は惨敗だったし、とりわけ高額の商品、典型的には一部例外はあるが、ほとんどの自動車各社は前年比20%を超える販売減となっている。

アメリカのGDP(国内総生産)の70%に達する個人消費が落ち込んでいるのは、マクロ的に言ってしまえば、家計の負債が大きく、消費よりも返済あるいは貯蓄に傾いているからだ。毎月何十万にという人々が新たに失業していることを思えば、それも当然だろう。ヨーロッパの状況も決してアメリカよりいいとは言えない。国よっては家計が抱える負債がアメリカよりも大きいと言われている。たとえば住宅バブルがひどかったイギリスやスペインだ。

欧米が不振でもアジアは大丈夫だという議論が昨年はあった。いわゆるデカップリング論である。しかしその議論も、現実の前にあっけなく崩れ去った。アジアの中でも、成長のシンボルだったのは中国とインド。とくに中国は、購買力平価で換算するとGDPで日本の1.5倍もある「経済大国」。アメリカに次いで第2位である。その中国は8%成長をしなければ毎年労働市場に参入してくる新しい労働者を吸収できないとされ、中国人のエコノミストに言わせれば「8%成長がゼロ成長と同じ」なのだそうだ。しかし現実には、5%程度の成長しかできないのではないかとされている。実際、11月には発電量が7%のマイナスになったと伝えられた。統計がずさんとされる中国の数字の中で、発電量は信頼できる数字とされるだけにこの7%マイナスという数字は気になる数字である。

最近では、失業した労働者による暴動などが散発的に伝えられているが、それよりもはるかに頻繁に暴動が起こっているとされる。来年の成長率がどの程度になるか、むずかしいところだが、世界銀行の11月25日の報告書では約7.5%と予測している。しかし日を追って悪化している経済の現状からすれば、この数字も怪しいかもしれない。

インドも同様の状況だ。自動車産業を中心に悪化の度合いがひどい上、繊維産業などインド経済の底辺を支える超零細産業ではすでに100万人近い人々が失業しているとも言われる。原油価格の値下がりでインフレ率が低下しているのが救いだが、GDPにおける輸出依存度が20%を超えるだけに、アメリカや欧州の景気後退の影響をもろに受けるはずだ。成長率は大幅に減速して年5%前後に落ちるものと見られている。

こうした新興国の景気減速が気になる兆候を生む原因ともなっている。11月中旬、ワシントンでG20のサミットが開かれた。直接的には金融問題を話し合うサミットだったが、そこでの結論で重要な部分は、金融問題と並んで自由貿易体制の維持である。現在、WTO(世界貿易機関)のドーハ・ラウンドが行われているが、先進国と新興国の対立が激しくまとまりそうにない。そうした状況の中で、インドやロシアは一部の製品に関して関税率を引き上げた(たとえばロシアは中古車の輸入関税を引き上げ、これへ抗議するデモが行われたとき、治安部隊を投入して数十人を拘束している)。

これが世界的に「関税戦争」を引き起こすことになるのかどうか、それが2009年の最大の注目点と言ってもいい。それでなくても来年の世界貿易は2%のマイナスになると予測されている。これは1982年以来のことだそうだが、関税引き上げが相次げば、さらにマイナス幅が広がることは確実だ。1929年の株価大暴落が世界恐慌に発展したのは、1930年にアメリカが大幅に関税を引き上げ、自国の産業を守ろうとしたことも一因だ。

景気後退がデフレにまで発展するのか、世界に保護主義の嵐が吹き荒れないか、その兆候が見えたら警戒を強めることが必要だ。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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