2017年11月10日

日米経済対話と日本の構造改革

本年4月より日米経済対話が始まりました。従来より米国は日本に対して様々な要望を出しています。今回は日米対話の展望と、日本経済や構造改革への影響についてふれてみます。

トランプ政権の動向

トランプ大統領は本年1月の就任直後にTPP脱退の大統領令に署名しました。そしてTPPの代わりに再交渉で日米二国間協定を主張しています。近い将来、TPPに代わり新しい日米自由貿易協定(FTA)が結ばれる可能性があります。日本はTPPの発効を望んでいます。

また、20年以上機能している北米自由貿易協定(NAFTA)についてもトランプ大統領は「全くの災害」として見直しを主張し、本年8月からメキシコ、カナダと交渉を開始しました。

米国は2012年に米韓FTAを締結していますが、米韓FTAについても見直しの交渉を韓国に強く求めています。なお、米韓FTAについては、韓国が約束を守らず貿易不均衡が拡大していることに、米国は大きな不満を持っているようです。

なお、トランプ大統領が属する共和党は、従来から自由貿易の推進に積極的でした。自由貿易の推進は米国の大企業に有利であり、これまで自由貿易の推進の利益を一番受けて来たのは米国です。

国際社会において、それぞれの国が相対的に割安で生産できる物を、互いに多く生産して輸出しあうということで、互いの国家において生産する場合よりもコストを削減することを目的として行われる体制を国際分業といいます。国際分業は世界の経済厚生を得る大きな手段であり、現在世界は自由貿易の推進により国際分業が進んでいます。なお、世界の経済厚生とは、世界が共に経済的に発展していき、豊かな社会を築いていくことです。

米国は世界一の農産物輸出国であり、日本の米国からの農産物輸入量は世界一です。TPPからの離脱に対して、米国の農業団体はトランプ政権に強く抗議しました。自由貿易協定は、変化する各国の産業構造に合わせてギブアンドテイクでバランスをとることがウィン-ウィンの結果を得るものです。

また、低賃金のメキシコが米国から工場と雇用を奪っているとして、米国で売る自動車は米国内で製造をトランプ大統領が強く要求しています。しかし、それでは価格が高くなり競争力を失うとして、米国の自動車業界は反対しています。

トランプ大統領のこれまでの言動や政策についての率直な感想としまして、トランプ大統領は国際分業や自由貿易協定の本質を理解していないきらいがあるように感じます。

トランプ政権との日米経済対話

米国のTPP離脱を受けて、本年4月より日米経済対話が開始されました。今後の日米対話では、1.貿易と投資のルール等に関する共通戦略、2.経済と構造政策の分野での協力、3.インフラなど分野別での協力、という3本の柱で議論を進めることになりました。日米経済対話においては、日本側は日米間の協力関係に重点を置いた協議を望んでいます。一方米国側は、貿易不均衡の是正にむけて個別分野の市場開放に関心を示しています。日本と米国の主張や基本的な姿勢は表1の通りです。

表1日本と米国の経済に関する主張と動向

TPPから離脱している米国は、日米間の貿易に関して日米FTAの締結を要求してくる可能性がありますが、その協議は日本にとって大変厳しいものになりそうです。

年次改革要望書の交換

今回始まった日米経済対話は、日米間で初めてのものではありません。日米間で相手国が改革するべき点について、お互いに要望書を交換する形で対話は始まっています。最初の要望書は1994年に交換され、2008年まで続いています。日本で実施された改革において、日米間の年次改革要望書が影響したのではないかといわれる事例は次の通りです。

1997年 独占禁止法が改正され、日本において持株会社が解禁された
1998年 大規模小売店舗法が廃止され、大規模小売店舗立地法が成立した
1999年 労働者派遣法が改正され、人材派遣が自由化された
2002年 健康保険において本人3割負担を導入された
2003年 郵政事業庁が廃止され、日本郵政公社が成立した
2004年 労働者派遣法が改正され、製造業への派遣が解禁された
2007年 新会社法の中の三角合併制度が施行された(親会社の株式を交付する合併が可能に)

日米経済調和対話

年次改革要望書の交換は2008年で終了しました。それに代わり、2011年からは日米経済調和対話が開始されました。その対象分野は、貿易、高速鉄道、稀少資源に関する協力、知的財産権、弁護士、医療、保険、通信、郵政、農業、相手国の規制など、多岐にわたります。その協議内容例は次の通りです。
・食品の残留農薬基準の緩和
・医薬品の新薬登録の承認期間の短縮
・医薬品認証で海外臨床データの活用
・通信事業者への競売方式を導入
・NTT改革を通じた新規参入の促進
・過去の相手国に対する規制条項撤廃

日米経済対話と日本企業

上述の通り、日米間の経済に関する対話は20年以上も前から行われてきたことです。TPPに関する2010年からの協議や、トランプ大統領の誕生に伴う本年からの協議によって始まった訳ではありません。

これまで米国側から日本に出された要望においては、一層の市場開放、規制緩和の推進、公共工事の慣行の改善、さらに「カルテルや談合への対応強化」などに関することが重要事項です。

日本においては、一般の銀行は金融庁の所管ですが、JAバンクは農林省の、郵便貯金は総務省の所管です。保険も同じで、一般の保険会社は金融庁の、農業関係の保険は農林省の、簡保は総務省の所見です。様々な共済はそれぞれ所管の省庁が異なります。

真の競争環境を作るためには同じ所管官庁の下で、同じ法律の下で競争するべしとの国際的な感覚と大きくはずれています。また外国企業が日本の金融、保険市場に参入しようとしても多数の法律、多数の所管官庁があるでは、まさに参入を阻む大きな壁となっています。

例えば、2011年に締結した米韓FTAでは、農協の共済事業、郵便局の保険サービス等は、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いにすることとされています。

さて、今は特に表立った話題にはなっておりませんが、「カルテルや談合への対応強化」は過去にも指摘されています。市場の開放や規制緩和の推進などが達成された後には、米国側からの最終目標として「カルテルや談合への対応強化」が厳しく求められてくるのではないかと大変危惧しております。産業の種別毎に存在する日本の業界団体は、米国の基準によればまさにカルテルであるという厳しい指摘も聞かれます。

国際社会に認められるような、日本の各業界の改革と健全な発展を心よりご期待言いたします。