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コラム 政治・経済

2012年11月15日

米大統領の2期目は景気拡大・ドル高?

オバマ再選も株価急落の洗礼~「財政の崖」で景気後退の懸念

 アメリカの大統領選はオバマ大統領が再選された。選挙前の報道では接戦と伝えられていたが、ロムニー候補に予想以上の差をつけての勝利となった。しかし再選が決まった翌日、7日のNY株式市場はダウ平均が312㌦安と今年最大の下げを演じ、その翌日も121㌦安となった。市場はご祝儀相場どころか、2期目に不安を突きつけた形となった。

 特に市場が懸念しているのが「財政の崖」だ。「財政の崖」とは、今年の年末と来年初めに(1)ブッシュ時代に実施された減税の期限切れ(2)財政赤字削減のために定められた強制的歳出削減措置の発動――を迎えることを指す。それによる緊縮規模は6000億㌦にのぼり、このままでは景気が落ち込む恐れがある。これを回避するには、減税の一部延長や歳出削減の緩和、財政再建策などを議会で合意する必要があるが、今のところ合意のメドは立っていない。

 オバマ大統領が熱気と期待をもって迎えられた4年前とは様変わりだ。景気への懸念が広がる中、オバマ大統領の2期目は厳しい前途が待ちうけている。

レーガン、クリントン、ブッシュ~「2期目は景気拡大」の”法則”

 ただ過去を振り返ると、大統領の再選と米国景気の関係には実はある”法則”が存在する。1980年代以降、再選に成功した大統領はレーガン、クリントン、ブッシュの3人だが、3人とも2期目は景気が拡大しているのである。

 まず1981年1月に就任したレーガン大統領の場合、就任間もなくの1981年7月から1982年11月まで不況に陥ったが、レーガノミクスと呼ばれる経済政策を打ち出し、景気回復に成功した。そして2期目の4年間(1985~1989年)は全て景気拡大が続き、景気拡大期間は8年近くに及んだ。レーガン就任前の米国経済は2度の石油危機によって不況とインフレが並存するスタグフレーションに陥り苦境にあえいでいたが、レーガンはそんな米国経済を立て直したと評価されている。

 クリントン大統領は1992年に当選し、1996年の選挙で再選を果たしたが、在任期間中の8年間は景気拡大が続き、一度も景気後退に陥ることがなかった。クリントンの前任であるブッシュ(父)の時代に不況となり、クリントンの1期目は景気回復が始まったと言ってもまだ力強さに欠けていたが、2期目は景気拡大に弾みがついた。結局、景気拡大期間はクリントン時代の8年間を含めて10年に及び、「未曾有の好景気」「ニューエコノミー時代」と言われた。IT産業が花開いたのも、この頃である。当時の経済政策の中心となったのはルービン財務長官とグリーンスパンFRB議長で、この2人による絶妙な政策運営が長期間の景気拡大を実現したといえる。

 ブッシュ大統領にもこの”法則”はある程度あてはまる。2001年の就任早々、ITバブルの崩壊と9.11によって景気後退を余儀なくされたが、大型減税などを実施した結果、その年の12月から景気回復が始まり、2期目(2005~2009年)も景気拡大が続いた。特に住宅ブームが盛り上がり、景気拡大を牽引した。ただこれがその後のサブプライムローン問題とリーマン・ショックを引き起すことになり、2期目の任期の最後の1年は不況に突入してしまう。

 こうして3人の大統領を見ると、いずれも1期目から取り組んできた経済政策の効果が2期目になって表れ、それが景気拡大の要因となったといえる。

為替は2期目で転換~クリントン、ブッシュはドル高に

 もう一つ興味深いのが為替との関係だ。3人とも、1期目と2期目では為替政策が正反対の方向に転換したのだ。

 レーガンの1期目はドル高政策だった。当時の米国経済はスタグフレーションに悩んでいたので、まずインフレを抑えるために金利を引き上げるとともに、ドル高政策を採ったのだった。しかし間もなくしてインフレは収まり、逆に高金利・ドル高の弊害が目立つようになってきた。そこで2期目に入ったレーガン政権は為替政策の転換を図った。それがプラザ合意である。「ドル高を是正」(つまりドル安に誘導)するため先進5カ国が一斉にドル売り協調介入を実施するとともに、連続的な協調利下げに踏み切った。それまで1㌦=240円台で推移していた円相場は、プラザ合意によって劇的に円高・ドル安が進み、2年後には1㌦=120円まで上昇したのだった。

 クリントンの場合は1期目がドル安、2期目はドル高だった。1期目は日米経済摩擦が激化し、日本に対して円高圧力をかけ続けた。大統領自らが何度も円高誘導発言をしたほどだ。しかし1995年4月に円が1㌦=79円台の最高値(当時)をつけたことをきっかっけに急激なドル安への懸念が強まり、円売り・ドル買いの日米協調介入に踏み切った。明らかにドル安政策からドル高政策への転換だった。2期目に入ると一段とドル高政策の姿勢を鮮明にする。前述のように当時の米国は未曾有の景気拡大となっていた一方で、日本は大手金融機関が相次いで破綻するなど金融危機に陥り、アジア通貨危機の影響もあって、ドル高・円安が進んだ。一時は1㌦=150円近くまで円が下落した。

 ブッシュ政権の為替政策はレーガン、クリントン両政権ほど明確ではなかったが、それでも1期目はITバブル崩壊や9.11による不況などで為替相場はドル安傾向が続き、ブッシュ政権もそれを容認。2期目に入るとサブプライム問題以前は景気拡大でドル高傾向となり、政権もドル高重視の姿勢に変化していった。

オバマの2期目は?~景気拡大・ドル高の可能性も

 ではオバマ政権はどうか。1期目のオバマ政権はリーマン・ショック後の不況を乗り切るための一環として「輸出倍増」を目標に掲げ、ドル安政策をとった。日本は円高・ドル安で苦しんでいるが、オバマ政権にとっては望ましい展開だったのである。

 では2期目はドル高に転換するのだろうか。実はその可能性はあると見ている。前述のように米国景気は「財政の崖」が心配されるなど、不安や弱さばかりが目立つが、米国経済の実態を冷静に見ると、むしろ徐々に良くなっていることが分かる。企業の景況感を敏感に表すISM製造業景気指数は9月、10月の2ヶ月連続で上昇しているし、全米の消費動向を表す小売売上高は7月から3ヶ月連続で増加している。企業部門も個人消費も予想を上回る数字が相次いで出ており、雇用も徐々に改善している。米国経済というと、メディアも市場も「悪い」「弱い」材料の方に大きく反応する傾向があるが、現実は悪化に向かっているのではなく、逆に改善しつつあるというのが正確な評価だろう。

 米国の景気が良くなってくれば、それはドル高の要因となりうる。実際の為替
相場の動きも、よく見るとすでにドル安の進行は止まっている。ドルを円との関係だけ見ていると「円高・ドル安」のイメージが強いが、ユーロや他の通貨に対してはドル高になっている場面がしばしばあるのだ。ドルが主要通貨に対して総合的にどの程度の水準にあるかを示すドル実効レートで見ると、2011年8月に大底をつけた後、6.5%上昇している。つまり世界の主要通貨の中でドルはここ1年余りで相対的に高くなったということである。

 もちろん楽観は禁物。やはり当面は「財政の崖」が最大の懸念材料であることは確かだ。ただ現実問題として、議会が何の対応もせずに景気を悪化させてしまうとは考えにくいのではないか。何らかの対応がなされるとすれば、最近の景気改善の流れは持続できることになる。

 オバマ政権が「財政の崖」を乗り切って、過去の”法則”がオバマ政権でも当てはまることになるよう期待したいものである。

岡田晃

岡田晃

岡田晃おかだあきら

大阪経済大学特別招聘教授

1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…

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