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コラム 政治・経済

2011年04月11日

復興に必要なものとは何か

日本経済全体にダメージ
 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から1ヶ月が経った。いまだに多くの行方不明者が見つかっておらず、約15万人もの住民が避難生活を強いられている。被災された方々には心からお見舞いを申し上げたい。
 経済への影響も甚大だ。被災地の経済的損失だけでも膨大な金額に及ぶと見込まれるが、影響は全国、さらには海外にまで広がっている。その中でも重大な影響は、東北地方の部品メーカーからの部品供給がストップして生産休止に追い込まれる工場が全国的に続出していること。例えば、半導体の素材であるシリコンウエハーで世界トップシェアの信越化学は、白河工場(子会社の信越半導体)が被災して操業再開のメドが立っていないという(4月11日現在)。同社が今後もシリコンウエハーを生産できなければ、世界中の半導体の生産、ひいては半導体を使用する家電製品や自動車、通信機器など幅広い製品分野での生産にも支障が出かねない。政府の試算によると、同社を含め半導体関連の生産が1ヵ月半止まった場合、世界で40兆円の生産に影響が出るという。
 東北や北関東には特に自動車や電機の部品工場が数多く立地しており、それだけに日本の産業全体への影響が大きい。これまで日本の産業は、部品メーカーの高い技術力・品質と効率的な供給体制に支えられて強さを発揮してきた。そこがダメージを受けたことで、日本経済全体のダメージも大きくなっている。

あまりにも遅い政府の対応
 これに加えて、福島原発の事故が事態を一段と深刻なものにしている。地元・福島県住民だけでなく国民全体に不安が広がっており、首都圏の停電・節電が企業活動や消費・レジャーなどの制約となっている。今後、電力不足の長期化が予想されるため、経済への影響も長期化する恐れがある。首都圏に限らず全国的に消費の冷え込みや株価下落など、経済の停滞が現実のものとなっており、せっかく回復軌道に戻りつつあった景気が再び落ち込む可能性が強い。
 こうした事態にもかかわらず政府の対応はあまりにも遅い。被災者救助や生活支援、それに原発事故のあらゆる面で初動の立ち遅れが目立ち、危機突破へのリーダーシップも見えてこない。ようやく4月11日、「復興構想会議」を立ち上げたが、これまでの政府の対応ぶりを見ていると、ヘタをすると同会議も単なる”会議”に終わるのではないかとの危惧の念を抱いてしまう。
 今まず必要なのは、危機突破に対する強い決意とリーダーシップだ。そのためには第一に、地元の意見を反映させた形で復興のグランドデザインを一刻も早く策定すること。それは「復旧」ではなく、地域社会と地域経済を立て直す復興計画でなければならないし、将来への希望の”旗”になるものでなくてはならない。
 第二は、それを実行するための体制の構築だ。政界や有識者の間からは「復興庁」あるいは「復興院」を作るべきだとの意見が多く出ているが、これもヘタをすると単なる調整機関になるおそれがある。新組織を作るなら、期限を区切って強力な権限を与え、トップにはリーダーシップを発揮できる人を据えるべきで、その下に官民の有能な人材を集める必要がある。法律や制度の改正・整備も必要で、被災地域を「復興特区」にして予算を優先的・集中的に投入するような方法も導入すべきだ。
 第三は、財源の問題だ。政府は4兆円規模の第一次補正予算を編成する方針だが、もちろんこれだけでは足りない。復興費用の総額はまだ不透明だが、第二次、第三次の補正が必要なのは確かだし、来年度以降も継続して必要になるだろう。そのための財源として、まずすべきことは子供手当や高速道路無料化などの棚上げだ。だが民主党は「これらはマニフェストに掲げた目玉政策」として、いまだにこだわっている。その一方で、「復興のための増税」が議論されている。これでは話の順序が逆である。震災によって議論の前提が変わった今、政治的なこだわりを捨てて、政策の優先順位を冷静に見直すべきだ。子供手当などを棚上げするだけで数兆円の財源が捻出できるのである。同時に子供手当などだけでなく、既存の予算も大胆に見直して復興事業の財源を生み出し、その上で国債発行、増税の順番だろう。国債については、通常の赤字国債とは別建ての特例国債として、日本国債の信認低下に歯止めをかけるような手立てが欠かせない。

「復興基金」創設のアイデアも
 財源についてはもう一つ。復興財源を補う一助として「復興基金」を創設するアイデアがある。大和総研が提言しているもので、政府保証をつけた復興基金債を発行して機関投資家や金融機関、さらに個人に広く購入を呼びかけるという構想だ。これで集めた資金を被災地自治体への投融資に回すことを提案している。注目すべき構想ではなかろうか。現在、全国から被災者支援の多額の募金が集まっていて、それはそれで貴重だが、国民のそういう支援の気持ちを基金という形でさらに大きくしていくことにもつながるといえるだろう。
 こうした復興事業を長期的な視点で、かつ迅速に進めていかなければならない。計画は長期的に、行動は迅速に。被災地の復興だけでなく、日本経済全体の「復興」も同時に必要だ。
 日本はこれまでも多くの危機に直面しながらも、国民が一体となって力を発揮して困難を乗り越えてきた。今から約150年前の安政時代、3度にわたる大地震と津波によって、江戸をはじめ各地で甚大な被害を受けたが、当時の日本人はそれを乗り越えて明治維新を成し遂げた。関東大震災の後には、後藤新平が大胆な都市改造を実行して東京の復興を成し遂げた。先人のこうした経験にも学びながら、国民が知恵と力を合わせれば、必ずやこの国難を乗り切っていくことができると確信している。

岡田晃

岡田晃

岡田晃おかだあきら

大阪経済大学特別招聘教授

1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…

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