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2018年05月10日

その1・2030年、3人に1人は認知症


この物語は、2030年に生きるある老人の独り言から始まります。
「2030年以降の日本はどうなっているのか?」

元ニューズウィーク日本版 編集長・藤田正美さんが日本人口の1/3が高齢者になると言われている2030年問題の実際を大胆に予測し、「社会保障」「医療と介護」「老後と貧困」という話題に切り込み、まさに2030年に生きる老人のリアルな生活の様子を老人の独り言という形で紐解いていきます。2030年という時代はどういうものなのか、想像しながらお読みください。


 

今年は2030年だ。

東京で2回目のオリンピックが行われたのが2020年だったが、わずか10年前だとはとても思えないほど、日本はすっかり変わってしまった。はっきり言えば、私と同じように老いてしまった。

 私は団塊の世代(1947年から1949年生まれ)の一人だ。今年82歳になる。団塊の世代すべてがいわゆる75歳以上の「後期高齢者」になって、医療費をはじめとする社会保障費が大変なことになると言われた、いわゆる「2025年問題」からもう5年だ。2015年当時、団塊の世代はおおよそ640万人もいた。1年齢で200万人を超えているのは団塊の世代だけだった。そう言われてもピンと来ない人も多いだろうが、この2015年に生まれた子どもの数が96万人に届かなかったと言えば、団塊がいかに多いか想像がつくだろう。

 長く続いていた高校の同窓会も、最近は集まることがめっきり減った。聞くところによるとクラスの友人たちで亡くなった人もすくなくはない。しかし、長生きをしている人も多い。平均余命でみるとやはり2015年で男性は81歳弱、女性は87歳だった。わがクラスでも生き残っているのはやはり女性が多い。

 私が住んでいるのは首都圏、それも日本の基礎自治体として最大である横浜市だ。昔は370万人以上もいた横浜市も、最近ではさすがに減っている。人口が減り始めるのと同時に人口動態も変わって、市が抱える借金がとたんに重くのしかかってくる。それはそうだ。稼ぎ手が減ってきて、介護やら何やらで自治体の財政を圧迫する人が増えているからだ。相変わらず3兆円もの借金を抱える基礎自治体をこれからどう運営するのか、その解決策はまったく見えない。

 かつて横浜市は拡大路線を突っ走ってきた。しかし神奈川県の中で、横浜、川崎、相模原と政令指定都市が誕生し、「拡大」に限界が見え始めたあたりから、微妙に路線が狂ったように見える。つまり税収を確保するために拡大してきたが、市民の生活を守るために必要な予算の増加のほうが上回ってきたのである。今では全歳出1兆6000億円の約半分は「福祉に関する経費」である。

私自身は「逃げ切り世代」であり、年金もまあまあもらっている。年金と貯蓄の取り崩しで生活は何とか成り立っているが、実際には、病院と縁が切れたことはない。20年ほど前だったろうか、ある医師がこんなことを言っていた。

「これからは、治らない、死なない時代です。昔だったら死んでいるような病気でも、治療することが可能になって、多くの人がいくつかの病気を抱えながら生きていくことになります」

この言葉は妙によく覚えている。確かに、私も高血圧と喘息という持病をもう何十年も抱えている。何年か前には前立腺にガンがあるということも判明した。しかしまあ歳も歳だから、「このまま様子を見ましょう」という医者のアドバイスに従っている。大腸ポリープも2〜3年に一度は検査しているが、こちらも「小さいものはあるが取るほどのことはない」と言われた。多病時代という言葉が昔あったが、いままさに私自身も病気と共に生きている。

ただ医療費は馬鹿にならない。75歳を超えてから自己負担が1割ということになったが、それでも毎月数万円が医療費として消えていく。ということは、残りの9割は国民健康保険などが負担しているわけで、これが医療費を急増させている原因の一つと思うと、ちょっと申し訳ない気分だ。ただ私も、若いころには年寄りの治療費を保険料という形で負担していたわけで、自分で「順送りなのだから」と納得させている。

健康寿命を延ばそうという掛け声が盛んだった。できればピンピンコロリでこの世とおさらばしたい。それは誰しも願っていることだ。私も佐久にあるピンコロ地蔵の頭を撫でたことがある。今でもあのお地蔵さんはあるのだろうか。昔、ネットテレビに出たとき、団塊の世代と社会保障の話をしていたら、視聴者から「団塊の世代はピンコロを目指せ」と投稿があった。私は大声で言いたかった。「ピンコロは万人の望むところ。ただ実際にはそうは行かないことも多いのだ」

団塊の世代が80歳を超えたことで、このところの話題はやはり認知症だ。何と言っても3人に1人は認知症を発症すると言われ、誰もが戦々恐々としている。「物忘れ外来」はそれこそ患者が途切れることのない超繁忙の診療科だ。認知症を予防する効果があるとか、軽度の認知症なら治せるという薬が開発されたおかげで、誰もがその薬を処方してほしいと求めるようになった。もちろん、認知症を緩和できるなら、その分、介護費用も浮くだろうし、それだけのコストをかける意味があるのかもしれない。しかしそれでなくても悪化の一途をたどっている健康保険の財政でその薬代を支払えるのだろうか。

いっそのこと処方薬ではなく薬屋の店頭で売る大衆薬にしてしまえばという議論もあるが、このところ偽薬やらどこぞの国から入ってくる怪しげな認知症治療薬で死者が出たりする事件も相次いで、政府も頭を痛めている。そうこうしているうちに、医療費は凄い勢いで増えてきた。

(次回に続く…) ※次回は6/11の更新を予定しています。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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