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コラム 政治・経済

2015年02月25日

ウクライナ危機、出口が見えない

前回は経済で苦しむEUという話を書いた。ギリシャ問題である。もう一つ、ヨーロッパは重大な問題を抱えている。それはウクライナ危機だ。昨年の停戦はほとんど何の意味ももたず、戦闘が激化していたが、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領が精力的に仲介し、2月12日にはベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの4者首脳会談が開かれた。16時間という会談の末、2月15日から停戦ということで合意した。

停戦後もウクライナ政府軍が押さえていた交通の要衝であるデバリツェボを巡って激しい戦いが続いた。18日にはついにウクライナ軍が撤退し、ポロシェンコ大統領は国連の平和維持部隊の派遣を求めることを決めた。

ウクライナが危機的な状況に陥ったのは、1年前だ。ロシア寄り政権ヤヌコビッチ大統領を放逐して親西欧路線を掲げる暫定政府が発足した。これにすぐさまロシアが反応した。クリミア半島を事実上ロシアが「制圧」し、ロシア系住民は住民投票によってロシアへの帰属を決めたのである。そしてロシアはそれを受け入れ、クリミアをロシア領に編入した。もちろん欧米やウクライナはこの「武力による国境線の変更」を認められないと反発した。

クリミア半島は、18世紀、エカチェリーナ2世の時代にトルコから奪取した要衝だ。ロシアにとっては軍事上の意味が大きい。黒海艦隊の基地がおかれ、ボスポラス海峡を抜けて地中海に出られる。そのロシア帝国にとっての重要軍事基地をウクライナの領土にしたのはソ連時代のフルシチョフ書記長だ(1954年)。当時のウクライナはソ連の一部だから、大きな意味はなかった。

しかしソ連が崩壊しウクライナが「独立国家」になると話が違ってくる。そのためロシアは海軍基地のためにクリミア半島の一部をウクライナから租借していた。ウクライナの政権が「親ロシア派」であるうちはそれでもよかったが風向きが代わってきたのは2005年ぐらいからだ。

親西欧のユーシェンコと親ロシアのヤヌコビッチの間で戦われた2005年の大統領選挙はいろいろ事件があったが、結局は親西欧のユーシェンコ大統領が誕生した。ロシアにとってウクライナが親西欧になるのは安全保障上ゆゆしき事態である。

ソ連時代には、東欧諸国(ポーランドやハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニアなど)は衛星国として位置付けられ、西側に対する「防壁」となっていた。ソ連崩壊以降、こうした東欧諸国の多くはEU(欧州連合)に加盟し、かつ西側の軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)に組み込まれていった。つまりロシアにとっては防壁がどんどん失われたということだ。ロシアが安全保障上、神経質になったのも当然である。

さらにウクライナがEUに加盟し、やがてはNATOに組み込まれるという見通しになってはロシアもさすがに我慢しきれず、クリミア「併合」に踏み切った。それが欧米の神経を逆なでしたということだ。しかも資源大国ロシアにとって不運なことに、アメリカでシェール革命が起こったために、その分だけロシアのレバレッジ(てこ)は効かなくなっていた。

ただアメリカのオバマ大統領は激しい口調でロシアを非難するが、実際にはウクライナに軍事介入する気はあるまい。中東や北アフリカなどは不安定さが増すばかりだし、イスラエルとは関係が悪くなっている。アフガニスタンからも完全に足が抜けていない。そこでさらにウクライナに介入するのは考えられない。せいぜいウクライナに武器を供与するといったことしかできまい。

もっともアメリカが自国で介入することなく武器だけウクライナに供与するのは、ヨーロッパにとっては悪夢かもしれない。危機が長引く上、「代理戦争」の色彩を帯びてくるからだ。メルケル独首相とオランド仏大統領が動いたのにはそういった背景がある。

欧米に対して強腰のロシアだが、プーチン大統領の立場がそれほど強いというわけではない。支持率は高い。しかしそれはロシア国内の民族主義の高まりによるものだ。すなわちウクライナ東部の親ロシア派住民を支援することが支持の条件ということだ。

プーチン大統領がここで欧米に妥協し、親ロシア派住民への支援を止めると、支持率は急落するだろう。欧米から経済制裁を受けているロシアは、原油価格の低下によっても打撃を受けている。その意味ではプーチンにとっての支えはロシア国内の支持率の高さだ。しかもプーチン大統領は最長で後9年余り大統領を務めるチャンスがある。ここで支持率を失うことはそのチャンスをむざむざ放棄することになり、プーチンとしては受け入れられまい。

ウクライナ政府が東部のドネツクやルガンスクをどう扱うのか。自治の拡大で何とか親ロシア派をなだめることができるのか。それはまったく予断を許さない。ただロシアにとってはウクライナは絶対に譲れない地域であるだけに、妥協があるとしても相当時間がかかるはずだ。

※訂正(前回、ユーロ圏の国の数を18カ国と書きましたが、今年1月にリトアニアが加盟し、19カ国になっています。お詫びして訂正します)

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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