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コラム 政治・経済

2015年10月09日

世界経済、消えない不安

 今年夏の中国株暴落以来、世界経済は何となく不安の中にいる。震源はもちろん中国だ。株価が下がったのは、中国経済が明らかに減速しているからである。今年の成長率目標は、政府は7%としていたが、実態は5%位になるのではないかと見られている。このところ中国当局の「公式数字」は疑わしいという見方が強まっているようだ。

 2008年のリーマンショック以来、世界各国はあらゆる手を打って、経済を支えようとしてきた。2008年の秋にワシントンに集まったG20各国の首脳会議で一致して金融ショックに対応することを決めたのである。中でもアメリカや中国は世界を牽引する大国として巨額の財政支出を行うことを決めた。たとえばアメリカが7800億ドル(ざっと80兆円)、中国が4兆元(ざっと60兆円)、この両者を合計すると日本のGDPの4分の1ほどだが、これを2年にわたって財政から支出し、景気を支えてきたのである。

 それでも実は、景気を支える力が弱く、先進国の中央銀行は、金利を実質上ゼロにし、なおかついわゆる量的緩和を行った。量的緩和とは分かりやすく言ってしまえば、お札を刷ってそれを市中にばらまくということである。その結果、膨大なマネーがあふれて、有利な運用先を探して世界中を移動するようになった。

 中国をはじめとする新興国経済が順調に発展しているうちはよかった。実際、2008年以来、世界経済を牽引してきたのはこうした新興国である。しかしそれも息切れしてきた。中国は、もともと2010年の上海万博をピークに減速局面に入るのではないかと見られていたが、ヨーロッパがおかしくなったことの影響も大きい。

 ギリシャなどのいわゆる国家債務危機が表面化したのは2010年である。国が高いプレミアム金利を払わなければ借金できなくなるという事態になって、南欧の国(ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリア、アイルランド)を中心に歳出削減せざるをえなくなった。これでこれらの国の景気が大きく落ち込むことになって、失業率も高くなった。それによって中国が影響を受けた。つまり中国の対欧輸出が減ったのである。

 そうなると問題は中国が資源国から輸入していた原油や鉄鉱石などの商品市況である。中国やインドの経済成長を見込んで高騰を続けていた原油は、いまや高値の半分以下だ(実は日本はこのおかげで大きなショックを受けずにすんでいる。原油が安くなったタイミングと円安になったタイミングがたまたま重なったために、ガソリンなどのエネルギー価格の高騰にほとんど見舞われずにすんだからだ)。しかし資源国にとっては、原油価格の急落は大きな痛手だ。さらに鉄鉱石などの鉱物資源も中国への輸出が減った。

 インドネシアの高速鉄道プロジェクトを中国がしゃにむに獲得したのも、こういった中国経済の事情が背景にある。つまり輸出需要減に直面している中国にとっては、巨額の発注が見込める鉄道プロジェクトは当面の採算を度外視しても欲しかったのだと思う。

 日本にとって最も気になるのは、この先どうなるかということだ。ひとつの大きな不安要因は、アメリカの動向だ。現在、FRB(連邦準備理事会)は長年続いてきた非伝統的金融調節から抜けだそうとしている。すなわちゼロ金利、量的緩和といった非常手段から脱却し、金利の上げ下げで景気を調節できる通常の状態に戻りたいというわけだ。すでに昨年秋にFRBは量的緩和を止めた。ただゼロ金利という状態は続いており、できるだけ早く金利を引き上げたいというのがイェレン議長の立場だ。もちろんアメリカの景気、とりわけ雇用動向をにらみながらということなのだが、金利引き上げの影響は世界に及ぶ。

 ドルの金利が引き上げられれば、ドル資金の還流(アメリカへの回帰)が起こる。金利が稼げるからだ。そのため東南アジアなど、高い成長率を見越してドルが流入していた地域から、いっせいにドルが引き上げられ、結果的に、こうした地域は外貨不足と自国通貨の値下がりに悩むことになる。すでにそうした動きは出ているが、実際にドル金利が上げられたとき、その動きがどう加速するのかはよく分からない。

 新興国経済が外貨資金不足に悩むようになれば、商品市況は相変わらず低迷が続くだろう。資源輸出国にとっては打撃が大きい。新興国の低迷は先進国の輸出に打撃を与え、欧州も日本もその影響を受ける。だから世界各国はアメリカに対して、金利引き上げはもう少し先に延ばすべきだと働きかけている。

 こういった状況がどのように打開されるかはよく分からないが、いま言えることは、日本は日本自身の足腰を強くすることに専念すべきなのではないかということだ。マクロ的には、いろいろなしがらみや特権を排除してできるだけ公正かつ自由に競争できるような環境を整えることだろう。ミクロ的には、企業がそれぞれの中で、イノベーションを追求し、新しいものに挑戦していくということだと思う。その結果、生き残れるのかどうかはわからないが、少なくともじっとしていれば生き残れる時代ではなくなっていることだけは確かだ。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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