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2015年01月08日

神戸エレガンスの復興

「中村さん、神戸が大変なことになってる」知人のカメラマンからの電話で飛び起きたのは、早朝5時台のことでした。あれから20年。節目の1月17日を迎えるにあたり、今年は神戸三宮にある生田神社の初詣から一年をスタートしました。   震災があった1995年は、VERY創刊の年。女子大生でJJの特派記者になって以来、地元のオシャレな女性たちを取材し続け、東京に負けないオシャレな神戸エレガンスを発信し続けてきただけに、震災直後に創刊号の予備取材で訪れた神戸の光景は、受け入れがたく信じられないものでした。ビルが倒れ、道路がふさがり、ボロボロになった街並みを目の前にして「こんな時にファッションの取材なんて出来ません」と、涙ながらに編集部に連絡したことを覚えています。 それでも、当時の副編集長から「JJ時代からお世話になってきた神戸に今こそ恩返しをする時ではないか。被災しても前向きな神戸の女性たちの元気な姿を取材して伝えることが大切なのではないか」とさとされ、すでに買ってしまっていた帰りのキップをキャンセルして、神戸取材を続行することに決めたのです。   いつの時代も神戸エレガンスの象徴は、舶来文化から生まれた「履き倒れの街」らしいきれいなヒール靴。そのヒールをこよなく愛する女性たちが、壊れた街を歩くために一斉にスニーカーに履き替えていたことが印象的でした。 それでもよく見れば、スポーツブランドの中でも、足がきれいに見えるデザインを選んでいたり、走ることが出来て尚且つ、脚長効果のあるウェッジソールのスニーカーを探していたりと、心が折れそうな状況でも足元にエレガンスを忘れない、神戸っ子の魂を見たような気がしました。 ビューティについても、巻き髪発祥の土地らしく、いつもふんわりカールしたロングヘアで読者モデルとして登場してくれていた女性が、潔く髪をひとつにまとめて、日常を取り戻す作業に取り組む姿はシャネルを着ていなくても輝いて見えました。   今、20年ぶりにVERY創刊号を取り出してみて、神戸の読者ページを開いてみると、その誌面から悲壮感はみじんも感じることがありません。実際には、家族や親戚、友人などを亡くしていたり、住む場所や学校の状況も不自由だった時に、神戸ファッションのリーダーたちは、皆、美しく、笑顔で登場してくれました。神戸の女性たちは、可愛いだけではない、強さに裏付けられた本物のエレガンスなんだ、と写真から伝わってきます。   震災後、復興をかかげて神戸コレクション、神戸ルミナリエと、ファッションイベントやエンターテイメントが催されてきました。しかし、残念ながらそこには、大人の女性に憧れることで、育っていった神戸エレガンスを感じることは出来ませんでした。 エレガンス文化がガールズコレクションに取って代わり、イルミネーションを目当てに集まる人たちは、ごみをまき散らして通り過ぎて行きました。震災で無くしてしまったもの、建物や道路は元通りになっても、神戸エレガンスは失われたままなのではないでしょうか。   そんな折に、創業100年を越える、まさに神戸エレガンスの生みの親と言われる会社から、新ブランドを育てていく仕事を依頼されました。震災から20年を経て、あの頃の私と同じ30代のリーダーたちと、もう一度ファッションの歴史を振り返りながら、今の時代に通用する神戸ブランドをつくり、神戸エレガンスの復興をすることが、神戸への恩返しになると信じています。

中村浩子

中村浩子

中村浩子なかむらひろこ

株式会社ヴィーナスプロジェクト 代表取締役社長

大学在学中より、光文社「JJ」において、ファッション・ライフスタイル担当の特派記者となる。その後、小学館「CanCam」を経て、光文社「VERY」、「姉VERY」、「STORY」の創刊記者を務める。オ…

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