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コラム 環境・科学

2013年09月10日

地球温暖化問題とポスト京都議定書

 近年、西日本を中心に春から秋にかけて大雨による水害が頻発しています。今年は北陸から東北、北海道においても豪雨による洪水が多発しました。これらは進行する地球温暖化が原因ではないかと言われています。東日本大震災と原発事故により、日本では温暖化問題は忘れ去られたような状況ではありますが、今回は地球温暖化問題の国際動向を述べてみます。

■京都議定書と約束実行状況
 1997年に定められた京都議定書では、温室効果ガスについて、1990年を基準として、日本は6%、アメリカは7% 、EUは8%の削減目標が掲げられました。米国は結局、京都議定書には参加しませんでした。京都議定書の約束実行年は、2008年から2012年です。EUにおいては、ドイツ等の主要工業国では1990年以降に石炭から天然ガスへのエネルギー転換が進んだことから、比較的容易に京都議定書の目標値を達成できる見通しです。1970年代の2度にわたるオイルショックを経験した日本はエネルギー源の多様化を進め、早期に天然ガスを導入するとともに、強力に省エネルギー対策も進めました。その結果、京都議定書の時点では、日本においては二酸化炭素のなどの温室効果ガスの排出を削減することは乾いたタオルを絞るような事といわれました。

 日本の約束実行状況については次の通りです。2007年までは温室効果ガスの排出がマイナス6%ではなく、プラス9%の厳しい状況でありました。しかし、リーマンショックによる経済後退の影響で2008年以降は排出量は1990年並みに減少しました。さらに、森林吸収源増、京都メカニズムの活用で日本は京都議定書の目的を達成できる見通しとなりました。そのような中、2011年の東日本大震災による原発事故により状況はまた一変しました。原子力発電に代わり、火力発電に依存することになり、2011年、2012年は二酸化炭素の排出が急激に増加しました。
さて、京都議定書においては、ロシアや東欧諸国、中国、インドなどは、削減義務量はゼロでした。京都議定書に2004年に参加したロシアは、石炭から天然ガスへのエネルギー転換やエネルギー機器の高効率化で、二酸化炭素排出は30%以上の削減ができました。その結果、ロシアが保有する排出権は推定580億ドル(約5.8兆円)相当になりました。このロシアの例のように、そもそも京都議定書は不公平な約束事であるとの指摘があります。

■ポスト京都議定書
 2012年12月にカタールのドーハにおいて、地球温暖化問題を協議するCOP18が開催されました。そこで決定された主な内容は次の通りです。結論を先に述べますと、何も具体的な事を決めることができず、結論を先送りにしたという感じです。

1.京都議定書を延長して温室効果ガスの削減を先進国に義務づける第2約束期間を、2013年から2020年の8年間とする。
2.あらゆる国が参加する新たな枠組みに関する交渉を開始し、2014年内に素案をつくって2015年のCOPで採択する。
3.途上国への資金援助については、先進国全体で2015年までに2010年から2012年までと同じ水準を維持する。

■地球温暖化問題の今後の展望
 一昔の国際会議においては、日米欧で同意ができれば議事はスムーズに進行して結論が得られました。特に環境分野においては、日本は常にイニシアチブを持っていました。しかし、現在では中国がイエスと言わなければ、あらゆる国際会議で重要な決定はなされないと言っても過言ではありません。中国は世界第二位の経済大国であり、また世界第一位の二酸化炭素の排出国です。中国は2020年までに、単位GDPあたりの二酸化炭素の排出量を2005年より40~45%削減する目標をあげています。排出総量を削減するのではなく、GDPあたりで削減目標を設定している点に注意しなければなりません。現在のような中国の高い経済成長率が続きますと、中国の排出総量は増加することになります。

 地球温暖化が問題になる前までは、日本や米国、ヨーロッパの先進国は大量のエネルギーを消費しながら経済成長を遂げてきました。中国の主張の根底には、まず先進国がこれまで排出した二酸化炭素に対して責任をとるべきであり、それが行えないのであれば、日本などの先進国が行ってきたのと同様に、これから中国も大量の二酸化炭素を排出して経済を発展させる権利があるという考えがあります。中国以外のインドなどの新興国や途上国においても、根底には中国と同じ考えがあります。このようなことから、最近の地球温暖化に関する国際会議では重要なことは一向に決まらず、年月のみが過ぎている状態です。今、世界の人口は爆発的に増加しています。過去に国連などで人口問題が熱心に議論されました。しかし、途上国の人口を減らせということになり、結局、南北問題に発展し、それ以上の議論はなされず現在に至っています。地球温暖化問題も同様な経過をたどる可能性が大いにあります。

 日本はかつて高い二酸化炭素の削減目標をあげていました。その手段の一つとして電力の原子力依存度をあげていく計画を示していました。しかし、原発事故以降は、ほとんどの原発は停止状態にあります。現在、電力会社全体では90%以上を火力で発電しています。日本は京都議定書改正案の第2約束期間に参加しないことを既に表明しております。また、今後も温室効果ガスの削減に努めるものの、その具体的な目標値は国際社会に提示しておりません。やや厳しい見解かもしれませんが、日本の現状を直視しますと、日本が地球温暖化問題の解決で世界をリードすることは、今後はないことと思います。それよりも、これから十年、二十年と時間をかけて原発事故で生じた様々な問題の解決と、電力の安定供給の確立に全力で取り組んでいかなければならないでしょう。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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