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コラム 環境・科学

2013年06月10日

TPPの影響と企業の課題

以前のコラムで食の安全・安心や環境問題についてTPPの影響を述べました。TPPでは日本社会や産業経済に様々な影響が懸念されています。TPPに対して単に受け身になるのではなく、TPPのメリットや日本企業の特長を最大限に活かす取り組みが望まれます。今回は、TPPに対する企業の課題と対策を考えてみました。

■TPPで影響を受ける業界や企業
TPPの特徴として、関税の撤廃や非関税障壁の除去があげられます。TPPに参加した場合、輸出型製造業や貿易に携わる企業には多くのメリットが期待されます。また、海外で生産する企業もメリットが大きいです。一方、安い外国の農産物の輸入により農業などは不利益を被る事になります。自由貿易の推進においては規制緩和のほか、種々の制度が共通のルールに従うことが求められます。日本独特の商習慣や制度を持つ業界も、不利益を被る可能性があります。ただ、TPPの内容は既に決まっているのではなく、今後参加国による協議で決まります。

民主党政権下の2010年10月に、TPPの経済影響予測が関連の省庁から出されました。内閣府は、TPPに参加すると10年間で日本のGDPが2.4~3.2兆円増加すると、経産省は、日本がTPPに不参加の中で韓国が米・中・EUと自由貿易協定を締結した場合には、参加した場合に比べて10年間でGDPが10.5兆円減少し、雇用が81.2万人減少すると予測しています。一方、農水省は、TPPに参加し廃業農家による代替の生産活動が一切行われない場合は、10年間で11.6兆円の損失と、雇用が340万人減少すると予測しています。

また、2013年3月に安倍内閣は、TPPに参加しない場合に比べTPPに参加した場合、約10年後にはGDPが3.2兆円増加するという統一見解を出しています。

■TPPの期待されるメリットと懸念されるデメリット
TPPにより、日本製品の輸出が増加したり、貿易が効率化して促進されます。その結果、日本経済が発展して地域経済も活性化されると期待されています。

一方、TPPに参加しますと一層のデフレを引き起こす可能性が指摘されています。医療制度の混乱の可能性もあります。日本の環境や衛生に関する安全基準が後退する懸念があります。また、農業は大きな打撃を受けることになります。農林漁業等への影響克服の対策が絶対に不可欠です。そのためには、日本の独自に発展した集約型農業の特長を活かし、農産物の輸出促進、また農業者戸別所得補償の充実、農商工連携事業の推進強化などが望まれます。

■韓国のFTA(自由貿易協定)
韓国ではGDPの43.4%を輸出に依存しています。内需の強い日本はGDPの輸出依存度は11.4%です。韓国では米国やEUとのFTAの締結で輸出を増やすことを国策とし、農漁業へのさまざまな補償を行っています。

2011年7月に韓国とEUのFTAが発効しました。EUの経済危機で貿易量が減る中、FTAの恩恵を受けEUむけの輸出量が2012年10月までに、自動車で15.2%増、自動車部品で6.6%増、石油製品で17.0%増加しています。FTAによる輸出効果が数字に表れています。

■TPPの公共事業や環境基準への影響
TPPの交渉作業部会の議題に、公共事業や物品における政府や地方自治体の調達自由化が含まれています。従って、上下水道事業や廃棄物収集事業等の公共事業においては開放を求められる可能性があります。具体的には公平な競争の確保のための民営化、そして海外企業の参入等です。日本独特のランク別の入札方式や地域要件なども撤廃も求められる可能性があり、入札の競争激化が予想されます。

日本は機器や設備に対して国際的にも厳しい基準を持ちますが、その環境政策の緩和を求められるかもしれません。省エネや環境ビジネスに自治体が不況対策として制度融資などを行った場合、これを協定違反とされることも可能性もあります。日本では当然の制度である、行政から企業への補助金や融資は不公平な行為とみなされるのです。

■TPPのメリットを活かしてビジネスチャンス
TPPのマイナス面をかなり述べましたが、TPPが推進されるとなりますと、関税がかからない分、日本の輸出品の値段が下がったり、また技術や知的財産が守られて利益が上がる、海外で日本企業の利益が守られる、海外での事業展開が容易になり促進される、インターネットの活用が促進される、などのメリットがあります。TPPのメリットを活かして積極的にビジネスチャンスをつかむことが期待されます。

TPPで海外での事業展開が容易になります。具体的には、通関手続きがスムーズになり、日本企業の輸出入が促進される、外国政府が突然規制を変更することを禁止し日本企業が守られる、日本製品の模倣品や海賊版を流通させないようにする、などがあげられます。

貿易に国境は益々なくなり、人、モノ、カネの一層の交流が進む中、日本の特長を活かしたビジネスの促進が期待されます。すなわち、日本企業の高い生産性や、高い品質管理を活かすビジネスの展開が期待されます。

TPPに目を奪われている間に、東アジアでは、日中韓とアセアン10カ国、インド、豪州、ニュージーランドの16ヶ国により、自由貿易協定の一つであるRCEPが2015年にスタートする予定です。自由貿易の推進は、抗することのできない世界の大きな潮流です。自由貿易のメリットを最大限に活かして日本企業が大いに発展していくことを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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