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コラム 人権・福祉

2016年11月18日

言論統制という恐怖政治

 トルコ情勢が大きく動いています。テロや軍事クーデターなど政権そのものが崩壊しかねない事件が多発している中、エルドアン大統領への権力集中が際立っています。もともとトルコはイスラム教国でありながら民主政治を並列できる希有な存在であり、中東諸国と欧米諸国の唯一の交渉架け橋になれる国家として期待が高まっていました。しかし、中東アラブ諸国の混乱が国境を接するトルコに飛び火し、トルコ国内にくすぶっていたクルド独立問題や反政府左翼組織までもが蜂起する事態に陥りました。
情勢を引き戻したいエルドアン大統領は、首相であった自らの立ち位置を大統領に昇格させます。本来、トルコの大統領は政治体制の監視人のような立場であり、政治への介入力は薄いものでありました。しかし、エルドアン大統領は大統領の権能を拡大させる法整備を進め大統領の一声で突発的に危機管理体制が施行されていく政治システムを創り上げました。

トルコ国旗トルコ市民

 その結果、エルドアン大統領を批判する立場にある新聞などのメディア、教育関係者、さらに政敵の立ち位置にいるクルド人組織やエルドアン大統領に対峙する野党関係者が拘束、逮捕、免職される事態となりました。こうした流れはエルドアン大統領の信条以外の存在は認めないという恐怖政治のメッセージであると認識されています。

エルドアン大統領街雑踏風景

 かつて、トルコは世界に門戸を開いた民主国家であるとして欧州連合(EU)に入ることを国の指針としてきました。しかし、今回のトルコ国内の混乱を経て、エルドアン大統領はEU入りへの願望を拒否する姿勢に切り替えてきました。自らが保持する権力基盤が、EU諸国から非難されることを想定していると考えられます。権力を集める大統領を監視できる存在を許さないことで強権を維持していくことを選んだともいえます。こうした状況はトルコという国への信頼や連携に疑問符がつかざるえない状況であります。
世界各国からの強権へのブレーキの声が届かない中、トルコ政府はロシアとの国交を再認識する姿勢を強めました。トルコ軍がロシア軍用機を撃墜した事件で一時トルコとロシアは断交状態が続いていましたが、エルドアン大統領はプーチン大統領へ謝罪を伝え、イスラム国掃討作戦を大義とした軍事、金銭的な支援を引きよせることに成功しました。今後のトルコの動き方次第で、さらなる中東の混乱が広がっていくことが想定されます。

店先銅像

渡部陽一

渡部陽一

渡部陽一わたなべよういち

戦場カメラマン

1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…

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