
イラン戦争の停戦合意協議が進展しています。イランの交渉目標であった経済制裁の解除、さらにイラン戦後復興資金として3000億ドル(約48兆円)支援の確約を条件にホルムズ海峡の即時解放と核開発を期限付きで縮小していく流れが発表されました。アメリカのトランプ大統領はイラン保有の海外資金凍結解除は停戦合意要件の履行確認次第とし、核開発縮小手続きでは国際原子力機関(IAEA)による核濃縮ウラン搬出廃棄の精査を要求しています。これまで繰り返されたイランイスラム革命防衛隊による湾岸諸国点在の米軍関連施設へのミサイルドローン攻撃に関してはイラク、クウェート、カタール、バーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)への復興支援金による補償を含めアメリカとの国家安全保証と経済連帯が再確認されました。

7月上旬にはイラン元最高指導者アリ・ハメネイ師の葬儀が執り行われました。2月28日のイラン戦争勃発直後にアメリカ軍の爆撃でハメネイ師は死亡。1979年イスラム革命の指導者ホメイニ師の後継者として30年以上厳格なイスラム慣習での統治体制を維持してきました。現体制下では息子のモジタバ師が最高指導者に就任しています。

これまでイランにとってトランプ大統領による軍事強硬外交は耐え難いものでありました。今回の第2次トランプ政権下でのハメネイ師殺害だけではなく第1次トランプ政権時にはイスラム革命防衛隊の国民的英雄ソレイマニ司令官が殺害されています。現最高指導者であるモジタバ師もすでにアメリカ軍の攻撃で重傷を負い表舞台に姿を見せることができない状況となっています。それでもイランが停戦合意に踏み切った背景には国民が苦しめられてきた経済封鎖の解除という最大の狙いがあります。イランは戦争初期の段階で世界エネルギー供給遮断戦術としてホルムズ海峡の完全封鎖を強行し世界経済に大打撃を与えました。この軍事戦略こそがイラン戦争での絶対的交渉切り札になることを確証していきます。爆撃による甚大な被害を被りながらも戦後は国際法に準じたイラン主導のホルムズ海峡管理体制を主張することで停戦協議での優位な立ち位置を保ってきました。イスラム革命防衛隊もホルムズ海峡というエネルギー供給大動脈の主導管理こそが最大の武器になり得ることを確信しています。アメリカ側はイランの戦術を知った上でホルムズ海峡南部を管轄するオマーンの船舶航行料徴収権を突きつけましたがイランはすでに海峡中南部地域に機雷を敷設しイラン側の航行回廊を使わせる軍事圧力を強めています。ホルムズ海峡の開放と自由航行、イラン核開発の縮小、イラン経済封鎖の段階的解除、中東諸国での戦闘停止を承認。14項目に渡り提示された合意要件を見返すと停戦覚書の輪郭はイラン優位に形成されたことが明確であります。トランプ大統領がいかなる言動を突きつけたとしてもイラン側が爆撃に長期間耐え抜き、停戦条件をイラン寄りに引き寄せたことこそがイランにとっての戦闘実績と言えるのかも知れません。


渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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