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2011年10月25日

海外移籍組は日本代表の戦力になり得るのか

Jリーグ取材の合間を縫って、スペインのバルセロナへ出かけてきました。わずか4日間の滞在でしたが、いまをときめくFCバルセロナのホームゲームを観戦することができました。

 帰国直後は時差に悩まされます。時差と言うと少し大げさかもしれませんが、そこはかとない倦怠感を覚えたり、思いがけないタイミングで睡魔に襲われたり、いつもとは違う時間に空腹感を覚えたりします。

 ヨーロッパでプレーする選手たちの苦労が、実感できる瞬間と言えるでしょう。心身ともにタフでなければ、国際舞台で戦うことはできないのです。

 ブラジル・ワールドカップのアジア3次予選を戦う日本代表、ロンドン五輪アジア最終予選を戦うU-22日本代表には、ヨーロッパでプレーする選手が少なくありません。U-22世代でも、宇佐美貴史(バイエルン・ミュンヘン/ドイツ)、宮市亮(アーセナル/イングランド)、大津祐樹(ボルシアMG/ドイツ)らがいます。しかし、U-22日本代表の関塚隆監督は、9月のマレーシア戦に彼らを招集しませんでした。

 フル代表にはインターナショナルAマッチデイというものがあり、世界各国のリーグ戦が中断し、同じ日にW杯予選などの公式戦を行っています。各国のサッカー協会には自国の選手を招集する権利があるのですが、五輪最終予選は国際Aマッチデイに行われません。選手を招集するには、所属クラブの了解が必要となります。宇佐美らの招集が見送られたのは、こうした事情も無関係でなかったでしょう。

 おそらくもうひとつ、理由があると思います。所属するクラブで、彼らはコンスタントにゲームに出場していないのです。クラブから招集にGOサインが出たとしても、チームに合流できるのは試合の数日前でしょう。実戦から遠ざかっている選手のフィジカルコンディションは、チームをあずかる監督からすれば未知数なところがある。ポテンシャルを評価できるとしても、わずか数日ではトップフォームに回復することはできない。

 これがワールドカップであれば、試合に出ていない選手の招集にも踏み切ることもできます。大会前にある程度まとまった準備期間が用意され、コンディションを仕上げる時間があるからです。大会が始まってから、さらにコンディションを上げていくことも可能でしょう。

 数日前に集まってすぐに試合を迎える予選は、そこまでの余裕はありません。ただでさえトレーニングでインプットできることは少ないですから、心身ともに戦える状態にある選手を選ぶのは大前提となります。私もフル代表のコーチや五輪代表監督として、私も海外組の招集を経験しました。試合に出ていなくても本当に必要な選手であれば、所属クラブへ出向いて選手と話をして、どんな状態にあるのかを確認したものです。

 国内、海外に関わらず、試合に出ていることを重要な選考基準としたい理由はまだあります。

 ヨーロッパのクラブへ移籍するほどの選手なら、高いポテンシャルを持っているのは間違いありません。だからといって、試合に出ていなくても代表にリストアップされたら、Jリーグで頑張っている選手たちはどう思うでしょう? 

 所属クラブでのパフォーマンスは関係ないのか。Jリーグでいくら頑張っても意味はないのか。どうやったら代表に選ばれるのか。モチベーションのダウンにつながってもおかしくありません。代表監督は自分の好きな選手をピックアップできますが、選考基準はできる限り明確であるべきでしょう。チームを停滞感から遠ざけ、つねに活性化していくためにも、です。

 海外移籍は留学ではありません。日本より厳しい環境であっても、代表の戦力となり得ることを証明していかなければならない。「練習から学ぶことがある」という言葉も聞かれますが、本田圭佑や香川真司らが放つ存在感は、ピッチで結果を残してきたからこそ身についたものです。海外でプレーするのはそれ自体が目的ではなく、あくまでも成長するための手段なのです。

山本昌邦

山本昌邦

山本昌邦やまもとまさくに

NHKサッカー解説者

1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…

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