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2011年09月22日

なでしこ<考える力>が勝敗の差

 なでしこジャパンことサッカー女子日本代表が、来年夏のロンドン五輪出場を決めました。11日間で5試合を消化するアジア最終予選は、予想どおりハードなものとなりました。国際大会で当たり前となっているスタジアムでの前日練習を拒否されたり、ホテルの部屋のトイレが壊れたりと、ピッチの内外で様々な困難が待ち受けていました。

 それでも首位で予選を突破したのは、先のワールドカップでチャンピオンに輝いたプライドが、チームの隅々にまで浸透していたからでしょう。せっかく盛り上がった女子サッカーの人気を、一過性にしてはいけないという責任感も相当に強かったはずです。

 予選突破の要因となったものを、もうひとつあげたいと思います。「考える力」です。北京オリンピックから1年ほどが過ぎた頃でしょうか。なでしこジャパンの選手たちから、こんな声が聞こえてきました。

「監督が何も言ってくれなくなった」

なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、私の同期生のひとりです。高校、大学ともにチームは違いましたが、現在のU-20代表にあたるユース代表の合宿で一緒になったことがあります。いまでも同期の集まりがあり、年に一度はじっくりと話をする機会があります。

 佐々木監督によれば、北京五輪までは事細かに指示を与えていたとのことでした。それによって、ベスト4まで勝ち上がることができた。しかし一方で、世界のトップ3との間には、なおはっきりとした力の差が横たわっていることを痛感させられた。その差を埋めるには、どうしたらいいのか。佐々木監督が出した答えのひとつが、「考える力」を養うことだったというのです。

 目まぐるしく局面が変わるサッカーでは、瞬間的な判断を絶えず求められます。バスケットボールやバレーボールのように、タイムアウトを取って監督が指示を与えることはできません。ゲームが始まったら、選手自身が判断を下していかなければならない。

あらかじめ言われていたことをピッチ上でなぞるのではなく、自分自身で最良の答えを見つけていく。ゲームの主役は自分たちであることを、自覚してほしかったのでしょう。北京五輪をきっかけとする意識改革が、ワールドカップ優勝とロンドン五輪出場権の獲得につながっていったのだと思うのです。

 さて、なでしこジャパンのワールドカップ優勝以降、講演などで必ず訊かれる質問が増えました。「なでしこが世界一になれたのなら、男子もなれないのでしょうか?」

この質問に答えるには、男子と女子の環境の違いに触れなければなりません。

 なでしこジャパンが世界一を目ざすにあたって、越えなければならないのは欧米の身体的な強さでした。そこから派生するスピードやパワーに、どのようにして対抗するのかが命題となっていました。これが男子の代表であれば、国際試合を組むしかありません。国内では相手の真剣度が担保できないので、可能ならば相手国へ出向いてアウェイで対戦したいところです。

 女子は違うのです。男子の中高生と対戦することが、世界を想定した準備になるのです。スピードやパワーの対策になる。国内にいながらにして世界基準を体感できるのは、男子にはない大きなメリットでしょう。

佐々木監督はさらにひとつハードルを上げて、大学生の胸を借りることにしているようです。このところの注目度を考えれば、練習試合で負ければニュースになりかねません。大きく騒がれるかもしれない。批判を受けることもあるでしょう。佐々木監督はそうしたものも正面から受け止め、今後もチームを強化していくとのことです。

 五輪予選が終わっても、なでしこたちは相変わらず多忙なようです。地上波各局でのニュースバリューは、誕生したばかりの野田新政権にも負けていないのではないでしょうか。テレビのCFで彼女たちを見る機会も、これから増えそうです。女子サッカーの発展のために、メディアへの露出は必要なことでしょう。他ならぬ選手たちを突き動かしているのも、純粋で真っ直ぐな使命感だと思います。

 だからこそ、選手をしっかりと支えなければいけません。
心身ともに疲労を取り除き、充電をしなければ、パワーアップなどおぼつかない。女子サッカーの普及や発展を担っているとはいえ、なでしこたちにもオフは必要です。何よりも、日本国中の注目が集まる五輪での成功は、普及や発展をさらに加速させる。ロンドン五輪で表彰台の一番上へのぼるためにも、そろそろ選手たちを通常のスケジュールに戻してあげるべきでしょう。

山本昌邦

山本昌邦

山本昌邦やまもとまさくに

NHKサッカー解説者

1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…

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