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2010年09月01日

全国の学力・体力テストに見る家族の形

 この夏は連日の猛暑と局所的豪雨による水被害、海外でもロシアの自然発生による山火事や中国の大地震など「どうなってるの地球は?」という心配なニュースが多かったのですが、それに加えて「どうなってるの日本は?」と思わず目や耳を疑いたくなるような衝撃的な事件が多く発生しましたね。日本は本格的に病んでしまっていると、私、結構シリアスに感じています。幼児が置き去りにされ半分白骨化した状態で発見された事件や、100歳以上の高齢者を調べてみれば何人もの親族が「どこにいるのか、生きてるか死んでるかなんてことは30年前から知らない」と答えた事件など…”家族観”や”近所づきあい”というような人の絆の在り方を考えさせられる夏でした。

 そんな中、文部科学省が実施する全国の小学6年生、中学3年生対象の学力テスト、小学5年生が対象となる体力テストの結果が発表され、学力も体力もその常にトップにいるのが全国47都道府県中、秋田県と福井県でした。学力テスト実施の是非が議論に上がったりもしますが、今回それは置いておいて、この秋田県、福井県がなぜ学力・体力でトップなのか?とある統計を取ってみると面白いデータが出てきたそうです。私はこの結果に興味を持ちました。今の病んでいる社会への処方箋にもなるヒントがあるのではないかと思いました。

 この両県、学習塾が全国の中でも特に少ないのだそうです。意外ですよね。単純に考えれば塾が多い方がテストの点数は取れそうに思うのですが。では一体どんな教育がなされているからこその結果なのでしょうか。教育関係者の分析によると「家庭や地域を巻き込んで学校の教育に関わってもらう点が共通している」とのこと。少人数学級を実現するために大勢のボランティアが支援体制を組んでいることや、国語の教科書の音読を家の人に聞いてもらう宿題が日課であることも印象的でした。

 また別のデータでは、三世代同居率とでもいうのでしょうか、この両県ともにおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住んでいる世帯が多いのだそうです。おじいちゃん、おばあちゃんと住むと自然と早寝、早起きの生活サイクルになります。すると子供達は学校の授業が始まる時間帯には脳が完全に覚醒し、物事に向かう集中力が高くなると言います。食事もお米粒、野菜、魚主体の和食が多く、しっかり噛みながら三食摂ります。家族団欒の時間も都市部よりはるかに多いのだそうです。世代を超えて会話をすることで言語能力も高くなり、様々なお話をする中で物事の善悪の分別などもいつの間にか会話の内容に盛り込まれていたりして養っていくようになりますし、家のお手伝いをよくする習わしがあるそうで、そうすることによって体を動かすことに繋がり、足腰が鍛えられ、運動能力も高まる。

あとは、学校と地域の連携もある上に、いたって普通の感覚として近所付き合いがなされているので、人が出入りするうちによそのお家の子供でもみんなどんな性格の子で、どんなことに興味があって、どんなことを頑張っているのかを知っているといいます。もちろん、おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなったときにはその日のうちに町内中が知っているという。いわば、昔ながらの日本文化がそのまま色濃く受け継がれているということなのかもしれません。

 では、なぜ『良い』とされている三世代同居や近所付き合いが少なくなってしまっているのでしょうか?今更言うまでもないお話かもしれませんが、生活形態の多様化によって、世代間で生活のサイクルが変わってきたからです。共働きの若い世代の夫婦とおじいちゃん、おばあちゃんが一緒に住むことの方がお互いにストレスを感じるようになってしまったことが挙げられます。かく言う私も仕事を持つ身。帰りの時間が毎日定時という訳ではないので、やはり嫁の立場からすれば、舅、姑と食事の時間帯や就寝時間帯の違いの部分には気を遣います。お父さん、お母さんの立場からしても、若い世代には至らないことがやはりたくさんあると思うのですが「無理をしてもらっているようだから、言いたいことがあってもあまりはっきりとは言い出しにくい」という見解もあり、我慢しながら生活するのは相当のストレスになると思います。

核家族化が進む理由を、私は否定も肯定もできません。上で述べさせてもらったように、子供の学力や、体力の向上に家庭が大きく関わっていることも事実ですし、しかし実際に多様化していく生活形態にはそぐわない部分があることも事実です。近所付き合いもそう。人口密度が高まる都市部の方では住宅が密集して立ち、マンションに住む人も増えています。そんな狭い中でする近所付き合いも今や命がけ!生活音の大きさにクレームが出て、それが火種で殺し合いになったという現代を象徴するような事件もありましたね。あたらずさわらず、誰が隣に住んでいるのかも知らないぐらいの方が心の平穏を保てるということなのでしょうか。

 ただ一つ、私はこう思います。全ての人間関係が希薄になっている今の時代に忘れてはいけないことは、人間が作るコミュニティとしての最小単位は『家族』だということです。そして嬉しかった出来事を話した時にそれを自分のこと以上に喜んでくれるのも『家族』です。私が子供の頃、大会でいい演技ができたとき「よかったなぁ。よかったなぁ。」と心から言ってくれるのは家族でした。嬉しい上に、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんが笑ってくれるのがさらにもっと嬉しくて、「私もっと頑張ろう!もっと笑ってもらいたい!」と、子供の頃はそんな当たり前の光景が一番目標を達成するための意欲になりました。そうです。頑張れる理由が『家族』だったのです。家族の笑顔を大切に思う人は、近所の子供達のことだって、おじいちゃん、おばあちゃんのことだって大切に思います。「あの人が困っているらしい」と自然とみんなに呼び掛けて連携を図ろうとなさいます。こんな時代になっていてもそれを忘れないでいることができたら、離れて住む祖父母、両親に、子供それぞれがお互いに「元気でやってる?」と声をかけたくなる関係になるのではないでしょうか。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

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