2009年07月31日

経験の差

 茹だるような夏の暑い日が続いています。かと思えば夕方になると一転、突然バケツの水をひっくり返したような豪雨に見舞われたり、この季節は生活するにも色々と大変ですね。そんな最中ではありましたが、国境を超え、イタリア・ローマでは夏の暑さに勝る熱い戦いが繰り広げられていました。7月19日から開催された世界水泳のことです。

大会日程初日から始まったシンクロ競技でも、後輩のマーメイドジャパンが奮闘してくれましたが、結果は残念ながらどの種目もメダルに届かず。しかし、今回のメンバーは全員が皆若い世代ばかりなので、これからしっかりと強化を図ればどんどん伸びるその可能性は他のどの国よりも有ると言えます。今回の武田ビジョンは、独断と偏見!?ではございますが、大会を振り返っての現状分析と、これからの日本に必要なことなど、私なりに思うことを少しお話させて頂こうかと思います。

 技術的なお話を細かくするよりも、まずはざっくりと今大会を見ていきたいと思うのですが、色濃く出たのは『経験の差』、ではないでしょうか。新しいチーム編成で、コーチ陣も新体制で、と、新しいことずくめの日本に経験がないのは当たり前なのですが、それでも現状の課題としてはこの経験の差を早急に埋めなければなりません。

何が言いたいのかと言いますと、"経験"の無さが今大会、結果にどんな差を生んだのか?ということを考えなければならないということです。経験を重ねることによって身についてくるのは、風格や貫禄という抽象的なものですが、王者ロシアや今や常勝国のスペインを例に挙げれば、登場した瞬間のあの圧倒的な存在感と、その風格と貫録に思わず息を呑みました。

この時点ですでに得点のカテゴリーのランクが追随するその下と違ってくる訳です。これは見る人それぞれが主観的に感じるものなのですが、この部分が勝敗の鍵を握るところが、採点競技の醍醐味だと言えるかもしれません。

 今回の日本チームは平均年齢がおよそ20歳。過去ナショナルA代表入りをした経験がある選手がたった1名という構成でした。フレッシュそのものです。その初々しさは好感度として目に映りますが、今回ばかりはインパクトに欠けてしまっていました。

ロシア、スペイン、そして力をつけてきている中国、古豪カナダの中に食い込んでメダルを狙っていくためには、登場するときからふてぶてしいまでの風格と貫録がどうしても必要です。でなければ得点のカテゴリーが演技する前から10点や9.9のランクとは違い、日本は9.5辺りからのスタートでもいいか...という値踏みをされることになります。

厳密なことを言えば、審判員が採点するのは音楽が鳴り、競技者の演技が始まってからということになるので、登場は関係ないと言えば関係ないのですが、私たちはよくコーチから「登場するところから戦いは始まっていると思え!」と言われていましたので、プールサイドに踏み出す最初の一歩から魂を込めて、意識の比重を置いていました。

話が反れているようですが、シンクロ特有のあの歩き方が確立されたのは、このことが理由です。極端に胸を張って腕を大きく振り、顎をツンと上に向けて勢いよく歩くのは我ながら不自然であると自覚はしていましたよ(笑)。

 話を戻しまして、さて、日本チームはこれから経験を積み上げなければならない訳ですが、どんな意識を持って取り組むのがいいのでしょうか。

もちろん試合でしか得られない経験もありますが、日々のトレーニングでもしっかりとした意識を持って臨めば経験値を積むことは可能だと私は考えています。水面上に上げる1本の足にしてみても、「今の世界のトップはどんな力強さが足に感じられるのか?」や、「この力強さはどこまで完璧に近い技術なのか?」など、世界基準を分析し、又それを自分達と比較し、自分達が体得しなければいけない技術に一つずつ着目する。それを徹底的に克服する。地味な事かもしれませんが、これを曖昧なまま練習しているようでは、いつまでたっても世界基準には追いつけません。

でもそうしていくうちに、世界基準を突破している技術が一つから二つに増え、さらに倍に増え、いつしかそれが「私は世界で戦える」という自信や確信につながり、風格や貫禄となって表に出てくるのです。

1日だって無駄にはできません。自分が進めば、相手も進んでいるからです。日本の選手の皆さんは世界のどの国よりもピッチを上げてそれに取り組まなければならないので、今まで以上に体力的にも精神的にも辛い時期を迎えることになろうかと思いますが、克服できたときの精神の高揚感は何物にも代え難い経験になります。それを自分なりに楽しめばいいのだと思います。

 今回は7月19日の世界水泳に関してお話を進めさせて頂きましたが、これはスポーツだけでなく他のジャンルでも共通する部分があるのではないでしょうか。「経験の差」を何かで感じる事があるのであれば、目標に向かって一歩一歩積み重ねていくしかないのです。それは、遠回りのようで確実な道です。でもそれをするからこそ生まれる「自信」があるのも確かです。

 ロンドンオリンピックまでのカウントダウンは始まっています!シンクロの後輩だけでなく、それに向けてトレーニングに励んでいらっしゃる選手の皆さんを心から応援しています。