2007年05月01日

「学校向け講演キャラバン」への想い

シンクロを通して、そして引退後の活動を通して、私は日々「進歩」する自分自身を感じています。特に昨年から挑戦しているショービジネスの分野に関しては、人との関わりや、コミュニケーションの大切さ、ひとつのものを大勢の仲間やスタッフと作り上げてゆく喜びが、いかに人生を価値あるものにするかを感じる日々です。今年は夏に松任谷由実さんのショー出演が決まりましたが、一つのショーを作るのに、想像を絶する人々が関わっている事実を知り、つくづく人との関わりの大切さを感じています。

人は一人では幸せにはなれません。喜びもシェアできる人たちがいてこそ、です。あとで詳しく述べますが、本来ストイックな性格ではない自分が、選手生活、そして今あるこの生活を前向きな気持ちで続けられるのも、支えてくださる皆さんのおかげであり、その喜びをシェアすることができるからだと、そんな風に思います。

「シンクロ以外の何かに取り組めたらな」ということは、引退後ずっと考えていたことです。特に引退後の活動を通じ、オリンピックデーランや講演などで、小さな子供さんたちとのお付き合いが増えましたが、「子供さん向けの何か」というのは、最も興味のあることの一つでした。今回、学校向け講演キャラバンが始動することになりましたが、これも私にとっては<幸運>そのものです。自分自身がまだまだ学ぶことばかりの毎日ですが、今まで学んできたこと、感じたことを、講演では少しでも多くのお子さん達と共有できたらいいな、と思っています。

キャラバンでは主に4つのことをお伝えしたいと思っています。まずひとつ目は、「一つの物事を徹底的に好きになること」です。初めは、あまり好きだと感じない事でも、その中に少しでも「好き」と感じる要素を見つけてみる作業を進めていくうちに、心の比重が「好き」に傾く瞬間があると思うのです。

私はよくこうお話します。「好きなことや楽しいを増やすと人は心が前向きになれる。嫌いな事の中にも必ず好きな要素があり、なぜ好きなのか?と自分自身にどんどんクエスチョンをつけていくと、<好き>とか<楽しい>とか、人にとっての喜びの感情の純度が上がる。これが一番頑張れることなのです。」と。これはシンクロを通じて学んだことの一つですが、この考えがどれだけ自分の人生にプラスをもたらしたかは計り知れないと思っています。

2つ目は、「自分の可能性を信じる」ということです。最近話題になっている渡辺淳一さんの著書『鈍感力』にも書かれていていましたが、「図にのる、調子のよさ」は、時に人間を大きく羽ばたかせる原動力になるそうです。

過去を振り返ってみると、このことも私自身の人生を豊かにした要因であるとつくづく感じます。私はおだてに乗りやすいタイプの性格で、昔はよく叱られました。しかし、ちょっと褒めていただいたことで調子に乗れるずうずうしさがあると、自分自身を信じ、限界だと思っていたところからその限界点を一歩突破できるのです。

3つ目は「やらされていると思うことから脱出すること」。私は、長く競技生活を続けてきましたが、シンクロという競技が好きだと思えたのは、この世界に入って初めの5年と引退前の4年です。21年間の競技生活の中の12年は、好きか嫌いか感じる間もなくひたすら泳ぐ毎日。時々、「なぜ私はこの生活を続けているのだろう?」と自分がわからなくなることもありました。

それはなぜか?シンクロを「やらされていた」と思っていたからなのです。いつしか知らぬ間に「今日が終わればそれでいい」という練習になっていた時期があり、その間は何も感じず、自分がどう成長しているのかも、その方向性も全く描くイメージがない日々だったのです。これでは何かが身につくはずがありません。

試合直前になって何も手応えが残っていない自分がプールサイドに立っていて怖気づくばかりでしたが、このままでは、全てを懸けてきたシンクロ人生が無意味になってしまう気がして、脱出しなければと思いました。そして、自分を見つめてみたのです。そうすると毎日に目的を持っていない自分を発見しました。好きだった頃、「今日はこの技ができるようになりたい」とか「あの動きができるかどうか実験してみよう」とか、幼いながらにとても発展的に物事を考えていた記憶がありました。照らし合わせてみたときに、当時の自分にはそれがなかったのです。

「自分が望んでいる状態」で何かに挑めるようになってからは、おのずと結果もついてくるようになりました。オリンピック3大会に出場し、結果として通算5つのオリンピックメダルを手にすることが出来ましたが、「やらされている」という思いのままだったら、きっとオリンピックという舞台にすら立てなかったのではないか、と思います。

最後にお伝えしたいこと、それは先にも述べたことですが「周囲に感謝をすること」です。真の幸せはそれを分かち合う人がいてこそ、だと心の底から感じます。 幼い頃、周囲には親はもちろん、私を導き、指導してくださる先生方がいつも私を見守ってくださっていたと感じます。浮き足立つときにはしっかりと地に足をつけるようにその都度教えて頂ける環境にいたこと...その誰一人がぬけても今の私は存在しません。

このキャラバンを通じ、さまざまなことをお伝えしながら、自分なりに真正面から子供達に接したいと思います。そして夢を見ることの素晴らしさ、それを叶えることの素晴らしさを、一人でも多くの皆さんと少しでも具体的な形でシェアできたらと願っています。