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2016年11月25日

トランプ・ショックの波紋広がる ~経済政策は意外に期待できる?

一転して株高・円安に

「トランプ・ショック」が世界に波紋を広げている。トランプ氏の排外主義や差別主義的な姿勢に対し米国内で反発が広がっているほか、世界各国はトランプ新大統領の登場に身構えている。
トランプ氏の政策は米国の国力強化を最優先する「アメリカ・ファースト」がすべての基本となっている。それは、外交・軍事面では国際的な問題への関与をできる限り減らし、海外の米軍駐留を削減して同盟国に負担を求めるという政策で、孤立主義の色彩が強くなっている。経済面では、TPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)などが米国製造業と雇用を空洞化させているとして、TPPからの脱退とNAFTAの再交渉を主張する。メキシコ、中国、日本などからの輸入品に高い関税を課して国内産業を守るとしており、典型的な保護主義である。
こうしたトランプ氏の勝利に、日本でも戸惑いが広がっているのは当然のことだろう。ところが意外なのは、市場では株高・円安が進んでいることだ。
選挙前、私は「トランプ勝利なら株価下落・円高」と予想していたが、トランプ氏の勝利が決まった11月9日の東京市場では日経平均株価が900円余りの急落、円は一時1㌦=101円台まで円高となった。ここまでは予想通りだったが、その日の海外市場から株価は上昇、為替は円安に反転し始めた。翌10日の日経平均株価は1000円を超す上昇となり、その後も株高・円安が続いている。NY市場でもダウ平均株価は大幅高となっており、世界的に株高が連鎖している。
ではなぜ株高・円安が進んでいるのか。その理由は、①トランプ氏が穏健な姿勢に変化したこと②同氏の国内経済政策への期待が高まったこと――の2つである。
まず①の姿勢の変化だが、確かにトランプ氏は勝利が確定した9日未明(現地時間)の勝利宣言演説で、イスラム教徒の入国禁止やメキシコ国境の壁の建設などについては全く触れず、比較的穏健な内容に終始していた。その後のオバマ大統領との会談でも紳士的な態度を見せるなど、変化した印象を与えている。
選挙期間中のあの過激発言は単なるパフォーマンスだったのか、それとも勝利決定後の反発に配慮しているだけなのか、その本音は変わらないが、今後は現実路線に軌道修正していく兆しならば好材料と市場は受け取ったのである。

インフラ投資、減税、規制緩和で経済成長めざす

それ以上に市場が評価しているのが、②の国内経済政策の内容だ。その主な内容は、1兆ドルのインフラ投資、連邦法人税率を現行の35%から15%に引き下げ、個人所得税引き下げ、エネルギー産業や金融などの規制緩和――など。これらの大筋はいずれも選挙期間中から掲げていたのだが、同氏の過激発言や女性蔑視発言などに焦点が当たっていたため、経済政策についてはあまり注目されてこなかった。しかし投票日直前に同氏が改めて政策を明確化し、勝利宣言演説でさらに強調したことによって、その効果への期待が高まったものだ。
同氏の国内経済政策は、財政出動と規制緩和によって当面の景気押し上げと中長期的な経済活性化をはかることをねらいとしている。米国の公共インフラは老朽化が目立っており、トランプ氏は「高速道路、橋、トンネル、空港、学校、病院などのインフラ整備は最重要課題」と発言している。これは現在の米国経済にとっては妥当な政策と評価できる。
また規制緩和は経済活性化に効果がありそうだ。米国のエネルギー産業はシェール革命に対する厳しい環境規制に加えて、原油価格の下落で大きな打撃を受けている。エネルギー産業の動向は米国経済の中で占めるウエートが高いため、同業界の活性化は経済全体の活性化につながることが期待される。金融も同様である。特にリーマン・ショック以後、オバマ政権が金融危機再発防止を大義名分として金融機関への規制を強化したが、規制が緩和されれば金融機関にとっては大いにプラスとなる。

レーガノミクスと似ている「トランプノミクス」

このようなトランプ氏の経済政策は、かつてのレーガン大統領(1981~89年)が実行した経済政策=レーガノミクスを思い起こさせる。当時の米国はインフレと不況が同時に進行するスタグフレーションに陥り、ベトナム戦争の後遺症で治安も悪化するなど、経済的にも社会的にも苦境に立っていた。レーガン氏は「強いアメリカ」を掲げて共和党の候補に指名され、現職で再選を目指したカーター大統領(民主党)を破り勝利したのだった。
レーガン大統領は就任早々に「強いアメリカ」実現のためソ連への強硬姿勢を打ち出すとともに、経済面では「強いドル」をうたい、ドル高・高金利政策をとってインフレを抑えると同時に、減税と規制緩和によって景気のテコ入れを行った。これが功を奏し、2~3年でインフレは沈静化し景気も回復し始めた。景気はその後8年間にわたって拡大を続けることになる。
こうしてみるとレーガン大統領とトランプ氏には、勝利の背景においても経済政策の内容でも共通点が感じられる。最近は、トランプ氏の経済政策を「トランプノミクス」と呼ぶメディアも出始めている。レーガノミクスのうち高金利という点だけは「トランプノミクス」に当てはまらないように見えるが、FRB(米連邦準備理事会)は12月に利上げを決める可能性が高く、来年以降も段階的な利上げを志向している。これはドル高要因だ。金利水準は1980年代に比べてはるかに低いものの、金利上昇との方向性とドル高の可能性という点では、それも共通していると言える。
トランプ氏の掲げる国内経済政策、「トランプノミクス」が順調にいけば、米国経済の成長が期待でき、そうなれば日本経済にとってもプラスとなるだろう。輸出増加や米国でのビジネス拡大が見込め、円安・ドル高も追い風となる。

保護主義など3つの問題点

しかしその一方で、トランプ大統領への懸念がそう簡単に消えそうにないことも事実だ。ここでは3つの問題点を指摘しておきたい。
第1は、インフラ投資と減税の財源がはっきりしないことだ。米国の財政はすでに大幅赤字であることは周知の通りである。さらに国債発行を急激に増やせば、米国債の信認低下と金利の急騰を招きかねない。そうなれば景気を腰折れさせ、ドルの急落につながるおそれがある。
第2は言うまでもなく、その保護主義的政策だ。TPP脱退やNAFTA見直し、さらには高関税の実施は自由貿易を阻害し世界経済にとってマイナスになることが懸念される。
もちろん日本にとっても影響が大きい。トランプ氏は「日本の自動車に38%の関税をかける」を発言しているが、もし本当にこれが実行されれば自動車産業はかなりの打撃を受けることになるだろう。各社はさらなる米国現地生産の拡大など対米戦略の見直しを迫られる可能性がある。
しかし保護主義は自国経済の利益を優先して自国経済と企業が有利になるようにしているつもりが、実は結局のところ自国にも不利益になるものなのだ。現実際、例えばアップルがスマホを中国で生産し、GM(ゼネラル・モーターズ)など自動車大手がメキシコで現地生産しているように、米国企業の多くが海外に生産拠点を移したり、国境を超えたサプライチェーン(部品供給網)を構築している。したがって、トランプ氏が言うように中国やメキシコからの輸入に高い関税をかけることは米国のグローバル企業を苦しめることになるのである。
保護主義はドル安への懸念につながってくる。今はドル高相場となっているが、もともと保護主義は自国通貨安を招くものであり、トランプ氏は米国企業の輸出増加を狙ってドル安政策をとる可能性がある。いずれドル安・円高に転換するのではないかとの不安がつきまとう。
第3は、米国内の亀裂拡大が懸念されることだ。すでにニューヨークなどでは、トランプ氏への反発から連日のようにデモが起きている一方で、トランプ勝利以後にマイノリティーに対する差別や攻撃が一部で激化していると報道されている。こうしたことがさらに拡大して深刻化するような事態になれば、トランプ政権の政治的基盤が弱体化する可能性もあり、そうなれば国内経済政策も十分に実行できなくなるだろう。
これら3つの問題点をトランプ氏が十分に認識して、現実路線に軌道修正することに期待したい。トランプ氏が実際にどのような政策をとり、どのような政権運営をしていくかが、今後のカギを握っていると言えそうだ。

岡田晃

岡田晃

岡田晃おかだあきら

大阪経済大学特別招聘教授

1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…

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