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コラム 政治・経済

2010年08月05日

メディア

日本の政治が混沌としている、というより劣化している状況について、いろいろ議論していると、メディアに対する不満がよく出てくる。先日もそうした場があって、メディアが政局ばかりを取り上げて、政策の議論をなかなかしないという声を多く聞いた。

政局論議というのは、少し乱暴に総括してしまえばインサイダーの情報である。もっと分かりやすく言ってしまえば、永田町だけで通用する論理だと言ってもいい。何人かの重要なキーマン(例えば派閥の領袖のような立場の人)がいて、その人たちの意向で物事が決まっていくような場合には、ある意味で有効だったかもしれない。

宇野宗佑元総理が女性問題で失脚した後、「誰か女性問題のない総理候補はいないか」という相談が自民党有力者の間でなされ、「海部俊樹がいい。あれは女房の尻にしかれている」ということで海部内閣が誕生したという話を読んだことがある。もしこれが事実だとすれば、まさに「政局」に鼻の効く記者だけが、スクープをものにすることができたということだ。

しかしそうした時代はすでに終わってしまったと思う。自民党の派閥ももはやそんな力は残っていないように見える。カネを調達してカネを配ることができたからこそ派閥の領袖であった。その懐を潤してきたのは国の予算である。予算をどう配分するかを左右できたからこそ、政治資金も集まった。その肝心の予算が少なくなれば、それはすなわち派閥の政治的影響力の低下につながる。

そうなったとき、いわゆる「政局分析」も従来のような説得力を失うのは当然である。政治を動かすダイナミクスが変化しているからだ。その流れは小泉政権で後戻りできないところまで進んだと思う。小泉首相は、自民党の派閥力学の間隙を縫って出てき自民党総裁だった。そして持論である郵政民営化を唱え「自民党をぶっ壊す」と叫んだ。そして国民から高い支持を得ると、それが派閥の論理を超えた力になったのである。政策課題を提起し、それに対する「抵抗勢力」をつくりだすことが政権浮揚につながった。

そう考えると、小泉政権後の安倍、福田、麻生という3人の総理がなぜ短命だったかが理解できる。要するに国民に対する問題提起がない、あるいはピント外れのどちらかだったからだ。それに「小泉改革を継承する」と言いながら、やっていることは逆コースというように見られたのも影響している。言葉を換えれば、小泉首相が「ぶっ壊した」ものを理解していなかったということだ。

だからこそマスコミも変わらなければならない。政局よりも政策を論じるべきなのである。大連立とか部分連合とかだけではなく、菅政権の、強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現にどれだけの現実性があるのか、みんなの党の国の資産売却論にどれだけ根拠があるのか、そういったことを検証し、読者にもっと伝えるべきだと思う。

いま最大の問題は、今年度末に1000兆円に近づくとされる国や地方自治体の借金が、どこまで持続可能なのかということだ。学者やエコノミストによって、いくら借金しても大丈夫という楽観論から、後2~3年のうちに手を打たなければ大変なことになるという悲観論までいろいろある。そのどれがいったい正しいのか。元大蔵相財務官だった榊原英資氏は、まだ国債を発行する余裕があるのだから、どんどん発行して問題はないとこれまたとてつもなく強気のことを言っている(その一方で日本は没落するという本を書いているからどこまで本気なのかよくわからないのだが)。ここはメディアの出番だと思う。かみ砕いて国民に伝え続ければ、国民の間にもより深い理解が生まれてくるだろう。

メディアの役割はどれが正しくてどれが間違っているかを判別することではない。どれが論理的に納得できてどれが納得できないかを読者や視聴者に伝えることである。そこでメディア同士が競争してこそ、いい記事や番組が生まれるだろう。政治を変えるためには、政治家だけが変わればいいわけではない。有権者も変わらなければならないし、メディアも変わらなければならない。もしそれができないとメディアはインターネットというブラックホールに呑み込まれてしまうかもしれないのである。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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