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2003年02月05日

自分のプリンシプルを持つ

 プリンシプル=principleという単語を辞書で引くと、「主義、原則」などとある。要はどんなことがあっても揺らがない、譲ることのできない自分の筋、哲学といったところだ。

 ビジョン(vision)は、これから実現しようとする壮大な絵、またミッション(mission)は自分に与えられた使命だが、プリンシプルとは、日々、自分の行動規範となる基本的考えである。ところが、この単語の意味がよくわからない日本人が多い。

1.プリンシプルとは、絶対に譲れない自分の原則
 principleには、脊椎動物の背骨という意味もある(軟体動物にはprincipleがない)。
 背骨は人間の中心で、一本筋が通っているから、この言葉の持つ大事さがイメージできよう。英語では、たとえばIt’s a matter of principle .(そればかりは譲れない)(これは私のポリシーの問題だ)のように使ったりする。

 わかりやすい例でいうと、たとえば日本人女性が、尊敬するアメリカ人の先生から、どうしても一緒にホテルに泊まりたいと迫られたとする。たいていはNoと言えない。そんなときにはIt’s a matter of principleといえばよい。これで相手はまずあきらめるという。彼らにとってこのプリンシプルという言葉には絶対的なのだ。

2.プリンシプルのない日本人
 
ところが、このprincipleを簡単に譲歩してしまうのが日本人だ。

 小泉首相が公約とかかげた国債30兆円未満というのも、公約というからには「principle=ゆずれない原則」のはずだ。ところが、それを簡単に反古にしてしまう。

 また、ついこの前まで野党だったと思った人が、今度は与党側で演説をしている。つまり、自分の筋が通っていない。これも借り物のイデオロギーだ。

 かつて明治維新までの日本の武士階級の人達は、すべての言動はプリンシプルがはっきりとしている必要があるという教育を受けていたはずだ。これは朱子学が影響しているものらしいが、戦後、すべてを骨抜きにされてしまった日本人に、このプリンシプルへのこだわりを持っている大人は少ない。

3.プリンシプルある人、白州次郎
 ところが、近代日本にもこのプリンシプルを通した人がいた。「白州次郎」という人物だ。彼は、戦後の復興期に政財界で活躍した人だ。若くしてケンブリッジ大学に留学し、そこで紳士道を学ぶ。戦後、吉田茂首相との交流もあり、GHQとの交渉役も務める。マッカーサーに「唯一、従順ならざる日本人」といわしめた男だ。後に東北電力の会長もつとめている。

 彼は終始、プリンシプルを持った生き方にこだわった。晩年、軽井沢ゴルフ倶楽部理事長のときには、時の首相、田中角栄に対し「メンバー以外はプレーさせない」という原則をつらぬいて、総理大臣をもつっぱねたエピソードは有名だ。

 私は、こんな粋な男がいたのかと久しぶりに感動を覚えた。プリンシプルの大事さに共感する方は、ぜひ「白州次郎」を追ってみてほしい。

4.プリンシプルのないビジネス
 私が以前コンサルティング会社に勤めていたとき、自分が本当にいいと思えない製品でも、いいと言わざるを得ないことがあった。これは「本当に自分が納得して、いいと思うものを提供したい」という私のプリンシプルに反した。

 また、ビジネスをする相手でも、私はこのプリンシプルで相手を判断する。まず相手にプリンシプルがあるかどうか、もしあるならそれに共感できるか。つまり「この人は人生で何を大事にしているのか。なぜこの仕事をしているのか」という行動理由だ。私にとっては「カネになるか、ならないか」よりも「その人やそのビジネスの意義に共感できるか」が大事で、それがないと仕事に力が入らない。

 ただカネ儲けをしたい、前の仕事がうまくいかなかったから今度はこれをしているという人とは、あまり仕事をしたいと思わない。そういった人物が言っていることは借り物であり、会社や状況が変わればすぐに変わってしまうことが見えるからである。

 プリンシプルのない人は自分のポリシーがない。その場の状況や相手に応じて自分の意見を変えてしまう。そんな人は、軽々しくprincipleという言葉を使うべきではない。

5.自分のプリンシプルを持つ
 人生や仕事で成功しようと思ったら、まず自分の中にしっかりとした背骨、つまりプリンシプルを通すことが大事だと思う。それがあって初めて、相手も尊敬を払ってくれる。国際社会ではなおさらだ。それが見えないから、アメリカに大金を貢いでいても、いつまでもshow the flag:日本としての顔をみせろなどと言われ続けるのだ。

 あなたはどんな原則に基づいて日々動いているのか。人生で、仕事で、絶対に譲れない哲学は何か。まずはそれを見つけてみよう。それがわかってきたら、常にそのプリンシプルに自分の言動を照らし合わせてみればよい。その作業を続けるうちに、自分のプリンシプル(行動規範、原理原則)が培われていくものと思う。

 私のプリンシプルは、「人に勇気や、新しいもののみかたを与えられるかどうか」だ。これに沿うようなメッセージを今後も発信していくつもりである。

参考文献:
『交渉力の英語』 松本道弘 著 講談社現代新書
『プリンシプルのない日本』白州次郎 著 ワイアンドエフ

川村透

川村透

川村透かわむらとおる

川村透事務所 代表

「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…

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