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コラム 政治・経済

2010年08月25日

日本企業の中国進出 前編

●蘇州での開発取材へ
 7月18日から1週間、出演しているテレビ番組の取材で上海へ行って来た。
初めて上海を訪れたのは2000年。今回で18回目になるが、行くたびに景色が変わっていて、その変化のスピードの速さには毎回驚かされる。
 今回の中国取材の目的は、大阪に本社を持つ住宅メーカーの取材だった。上海から高速道路を使って車で1時間半。世界遺産で有名な蘇州という都市で、その住宅メーカーがマンションを建設、販売しているというので、その様子を見に行ってきた。
 ご存じのとおり、リーマンショックをきっかけに中国政府は沿岸部の輸出産業を軸にした産業政策から、内需拡大政策へ思い切りシフトした。その結果、中央政府から内陸部の地方都市に大量にお金が流れて、中国全土で社会インフラ整備が猛スピードで進んでいる。中国全土で都市開発が進む中、今回取材した蘇州の開発は少し特殊なプロジェクトだ。このプロジェクトは97年からシンガポール政府と中国政府の合同事業として始まったもので、中国唯一の政府間合同事業だ。288平方キロメートルの広大な土地をすべて整地して「蘇州工業園区」と呼ばれる経済特区をゼロから作り上げた。
 この「蘇州工業園区」はただの工業団地ではない。工業、物流はもちろんのこと、住宅、商業、交通、文化施設がそろった街で、すべて最先端技術、一流ブランドにこだわった。事業パートナーであるシンガポールの人工的で合理的な街づくりの思想が取り入れられており、綿密な設計図をもとに、すべて事前に計画された上で開発がスタートしているので、いわゆる”完璧な人工都市”が出来上がろうとしている。園区内に入った瞬間、緑豊かになり、電柱、電線などはすべて地中に埋められているので景観も美しい。信号機やバス停もデザイン性が高く、欧米の良いところをふんだんに取り入れられている。思わず「本当にここは中国?」とつぶやいてしまうほどだ。

●外国企業が中国で成功するには
 なぜこの住宅メーカーが蘇州に来ることになったのか。もともとこの会社の中国進出は1972年と古く、上海で外国人駐在員向けのレンタルハウス事業をおこなっていたので、もう40年も中国でビジネスをしてきたことになる。当時は今とは違い、外資系企業は中国市場で自由にビジネスできる環境にはなく、中国経済は長期的に低迷したので、ほとんど利益は出ていなかったという。同時期に進出した多くの同業他社は事業を売却したり、撤退していったというが、この会社は中国に居続けた。創業者が中国市場の可能性を信じていたという話だが、同時に、中国側のパートナーに恵まれたという幸運があったようだ。「中国に根を張ってビジネスをする」。そのような態度を示したことが結果的に中国で信用を築いていった。中国は大変厳しい競争社会だ。13億人のなかで成り上がっていくのはとてつもない努力と運が必要になり、日本とは切実さが違う。中国人は人生を掛けてビジネスをしているので、すぐに撤退してしまう企業とは付き合いたくない。出世の流れに乗っている優秀な役人ほど長期的な目線を持っており、「この日本企業とパートナーを組んで大丈夫か、途中で事業を放り出して逃げ帰ったりしないか」と考える。このような中国側の目線を忘れると中国でのビジネスはうまくいかない。
 そのような経緯で2000年、この住宅メーカーは大連での大型マンションプロジェクトに参加できることになった。このマンション建設は中国のデベロッパーとの合弁事業で、地元のゼネコンや農民工を使って建設が進められた。この住宅メーカーはこの合弁事業を行ったことで、日本とはまったく違う、中国での建設基準、法律関係の手続き、地方政府との付き合い方、ローカルスタッフの採用、農民工の管理、販売方法などの経験値を積み上げることができた。そのプロジェクトの完成後、中国における2度目のマンション建築の話が蘇州市政府から舞い込んできた。蘇州市の工業園区担当の役人が大阪の本社にやってきて「ぜひ、園区に進出してほしい」と誘ってきたという流れだ。

 担当役員が実際に園区へ視察に行ってみると、金鶏湖という園区の中心にある、美しい湖が目前に広がる。非常に景観のよい優良な土地がその住宅メーカーのために用意されていた。これは販売には非常に有利であり土地価格も悪くない条件だった。この蘇州工業園区が中国の国家プロジェクトであり、中国全土から注目されている都市開発。中国各省や市の政府役人が視察に訪れる場所なので、ブランドを中国に広めるのに絶好のチャンスであることは間違いない。これから本格的に始まる中国人の住宅ブームを考えれば、これを断るという理由はなかった。しかも、今回は独資での法人設立が可能になったことも魅力的だった。園区側の強い要請を受けて進出することになったのだ。このように書くと、住宅メーカーに有利な条件ばかりと感じるかもしれないが、もちろん園区側には狙いがあるのだ。

『財部誠一ビジネス研究所』 BS日テレ 木曜22:00~
<TBL特集> メイドインジャパンの技術力~日本式マンション 中国での挑戦~
 放送日:8月26日(木)22:00~22:54
       8月29日(日) 9:00~ 9:54

内田裕子

内田裕子

内田裕子うちだゆうこ

経済ジャーナリスト

大和証券勤務を経て、2000年に財部誠一事務所に移籍し、経済ジャーナリストの活動を始める。テレビ朝日系「サンデープロジェクト」の経済特集チームで取材活動後、BS日テレ「財部ビジネス研究所」で「百年企業…

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