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コラム 政治・経済

2013年05月07日

想像力が欠如した「危機管理」

東日本大震災からもう2年以上が過ぎている。しかしいつ来てもおかしくない大震災に備えているのだろうか。それを疑わせるような経験をした。4月の最初の週末に関東地方を襲った大雨のときだ。

4月6日、土曜日の夜、僕が住んでいる横浜市では大雨が降っていた。しばらく経験したことのないような大雨である。横浜市の防災メールに登録している携帯にひんぴんとメールが来る。「○○橋で××水位を超えました」というような情報である。ツイッターを見ると、その情報を受けた人々がどんどん流しているのがわかる。

メールがあまりにもたくさん来るので、もう少し詳しい情報をと思って、横浜市のHPを覗いてみた。そこで少し驚いた。HPのトップに何の警報も注意を促す情報もない。少なくとも、一部では今に溢れそうだったし、日産スタジアムのある新横浜公園は遊水池としての機能を果たしていた。つまり野球場などのグラウンドにも遊び場にも水が溢れていたのである。それなのに、トップページには何もない。せめて防災情報にアクセスするぐらいのリンクはあっても良さそうなものだ。

仕方なく、サイト内検索で河川とか水位を入れてみる。そうすると河川情報(特定地点のカメラ情報やその地点の水位の状況を示す一覧表など)が出てくる、はずだった。ところが、実際に出てきたのは、

“Service is temporarily unavailable. Try later.”

というサインだ。要するにサーバーが混み合っていてアクセスできないから、時間をおいて再試行しろということである。

そこで疑問に行き当たる。いったい横浜市は防災情報をどのように位置づけているのだろうかという疑問だ。できるだけリアルタイムで状況を知らせることによって、市民が自ら避難したり、あるいは情報をフォローしながら準備をしたりすることを望んでいるのだろうか、ということだ。

もし市当局が市民に自主的な行動をして欲しければ、サーバーがパンクするなどということはあってはならない。情報がなければパニックが起こったり、デマが飛んだりするからである。関東大震災のときの朝鮮人虐殺がその極端な例である。神戸のときも東日本のときもそこまで極端なパニックはなかった。ツイッターやメールなどで多くの人々が情報を得ることができていたからだ。

しかも今回の場合、あちこちで河川が氾濫するというような状況でもなかったし、大雨は予想されていたことでもあり、市民も慌ててはいなかったはずである。しかし大地震ということになれば状況はまったく異なる。数分の間に状況は一変する。交通は遮断され、電気や通信網も寸断されるかもしれない。有線の電話はあまり期待できない。

大地震の後でも動いているのは、携帯、スマホ、タブレットやノートパソコンなどの電池で動く機器だ。3.11の教訓もあって人々はネットに殺到するだろう。横浜市民が災害情報を得ようとすれば、横浜市のHPに行く。そうするとHPには何の警報も何もなく、サイトでキーワードを入れて検索しなければ、欲しい情報を得ることができない…欲しい情報とは要するに被害状況についてである。加えて避難場所、水や食糧などの支給、携帯端末の充電場所、そしてもちろん家族や友人の安否。

それにどう応えていくかが地方自治体の使命である。それが東日本大震災の教訓の一つであったはずだ。何はなくてもまず情報を提供すること、それもリアルタイムで。それこそが住民が落ち着いて行動できる最も基本的なインフラだと思う。

「危機管理」を担当する部署は、政府や自治体をはじめいろいろなところにある。しかし福島第一原発では、その危機管理がいかに役に立たなかったかを思い知らされた。東電がやっていた危機管理で役に立ったのは「免震重要棟」だが、オフサイトセンターと呼ばれる現地での指揮所は、停電で使えなかった(それに放射能汚染を防ぐ換気設備もなかった)。要するに、原発で事故が起きても、停電はしないし、放射能漏れもない。そんな自分たちにとって都合のいいシナリオを前提にした危機管理はいざとなると役に立たないということが身にしみたはずなのである。これは「想定外」というより「想像力の欠如」あるいは「災害対策の哲学の欠如」だと思う。

どうやって市民に的確な情報を届け、二次被害を少なくするか、それこそが基礎自治体に求められることだ。行政の人間も家庭や家族のある市民なのだから、大きな被害が発生しているときに十分な活動ができるかどうかも定かではない(時間帯によっては職場に行くことも大変になる)。そうすると情報を迅速に集め、それを市民に伝達するという単位は、できれば小さいほうがいい、という話にもなる。小さな市や町の首長が大活躍したというエピソードがそれを物語る。

わが横浜市は370万都市。基礎自治体としては日本最大だ。日本最大だからといって、最高の危機管理があるわけではない。それが今回の経験でよくわかったことなのだと思う。どこまで準備していても万全とは言えない防災対策、危機管理だが、進歩していない行政の危機管理で被害を被るのは市民なのだ。そのことを市長や市会議員はよくよく考えて欲しいものだと思う。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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