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コラム 政治・経済

2012年07月05日

ガラパゴス日本の生きる道

最近、経済記事を見ていて気がつくのは、日本企業が世界の市場の中で必死に生き残ろうとしている姿である。国内市場だけでは生き残れない。日本で作って輸出するというのはリスクが高すぎる。そういう条件下で企業に残された道は、海外に生産拠点を移し(あるいは新たに設け)そこで生産をするということだ。

無理はない。たとえば自動車。日本というマーケットでの新車の総販売台数は1990年がピークで約780万台。それが最近は500万台以下しか売れない。景気が悪いということもあるだろうがそれだけではない。要するに市場の構造が変わってしまったからだ。

僕(団塊の世代)らが学校を卒業したころは、欲しい物と言えば自動車だった。初めて給料をもらってからは頭金を貯めて自動車を買うのが夢だった。そして僕らのころは1学年の人数は270万人弱だった。日本の自動車ブームはわれわれがつくったと言っても過言ではない。自慢しているわけではない。それだけ人間(消費者)の数が多かったということである。

それが今はどうだろう。若者の数は1学年で120万人前後。しかも自動車はウィッシュリストの上位に上がってこない。調査によってはベスト10からも落ちてしまうほどだ。エントリー層と呼ばれる消費者がこんなに減っている上に、昔ほど欲しがらなければ国内で車が売れる道理はない。

日産がカルロス・ゴーン社長になってコスト削減に乗り出したとき、不採算(あるいは非効率)の国内工場を閉めた。そのときはコストカッターと呼ばれて不評だったが、日産は見事に立ち直った。昔のビッグ3と言えば、GM、フォード、クライスラーだが、今のビッグ3はフォルクスワーゲン、現代そして日産・ルノー連合だと誰かが書いていた。

日本企業にとって、日本の国内市場は幸か不幸か、巨大だった。だから自動車メーカーもその巨大な国内市場を足場に海外に打って出ることができた。日本だけでトヨタ、日産、ホンダと世界の大メーカーと競争できる企業が3社もあること自体がむしろ不思議といえば不思議なのである。

ガラパゴス携帯とは、隔絶されたところで「独自進化」を遂げたという意味だが、それは日本の1億3000万人という市場があったからだ。しかし、日本だけで成立してしまうほどの市場だったからこそ、ガラパゴスになってしまった。これが隣の韓国のように4000万人の市場しかなければ、外で勝負する以外に企業が大きく成長する道はなかった(そして韓国は1990年代後半の外貨危機でウォン安になったことが企業の成長を押し上げた)。

ここからが、問題だ。それでは日本企業はいったいどうやって成長すればいいのか。もちろん一つの解答は、海外の需要を取り込むということだろう。製品を輸出するのではなく、自らを輸出するのである。ただ工場を輸出するというよりは、そこにおける生産のノウハウも含めて輸出するということだ。そしてそこから得られる収益で日本の国際収支を潤すということである。

実際、昨年、32年ぶりに貿易収支が赤字になった。しかし経常収支は黒字を維持した。海外投資に伴う収益が大きく、所得収支が大幅な黒字であるためだ。日本は何といっても世界最大の債権国なのである。

しかしそれだけで日本の国内の雇用は維持できるのだろうか。研究開発など高度な部門を残せばいいと言われてきたが、果たしてそうなのかどうか。一部では研究やデザインといった部門も海外に移す動きがある。

そうなるとやはり海外に生産拠点や研究拠点を移すということだけではなく、日本から輸出をすることを考えなければならない。新たな輸出産業を探せ、これが二つ目の解答だ。

ある人が言っていた。外国から日本という国を見ると、生活がこんなに清潔で快適な国はないのだという。確かに、世界一美しい街と呼ばれるオーストラリアのパースを見ても、清潔感という意味では東京のほうが優っていると感じる。この快適さとか清潔をシステムとして売ることはできないか、そこを真剣に考えてもいいと思う。

それを発見したときには、日本が「人口の壁」を超えて新しい地平に立つことができる可能性が生まれるかもしれない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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