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2003年12月05日

可能性のドアをたたく

 以前、Vol.10で千葉在住のALS患者、船後靖彦さんを紹介したが、そのALS国際会議が11月にイタリアのミラノで開催された。世界中から医療関係者や患者などが100人規模で参加する。今年は日本から患者2名が参加した。私も同行したのだが、今回、僕はふとあることを疑問に思った。

「なぜ、人工呼吸器をつけている患者さんが少ないんだろう?」

1.人の尊厳とは?
 再度簡単に説明すると、ALSとは(筋萎縮性側策硬化症)のことで、全身の筋肉がだんだん衰えていく原因不明の難病だ。イギリスの宇宙物理学者、ホーキング博士もこの種類の病気だ。

 徐々に手、足、頭など全身の筋肉の機能が失われ、やがては肺の筋肉も衰え呼吸ができなくなるため、ある時点で究極の選択をしなければならない。それは「人工呼吸器をつけるか否か」だ。

 もちろん人工呼吸器をつければ、命は長らえることができる。しかし、自分の力ではだんだん何もできなくなるため、24時間介護の体制が必要だ。

 また、言葉を発したり、物を食べたりという人としての基本的な動作ができなくなる。ゆえに、この病気にかかると「生きる意味がない」と静かに死を受け入れる人が世界ではまだ大多数のようだ。たしかに「そこまでして生きたくない」と思うのもわかる。

 僕が不思議に思ったのは、世界的に見たときに「人工呼吸器をつけても生きたい」と言う人が、なぜこんなに少ないのだろうということだ。世界の価値観は多様なはず。ならば半々くらいに分かれてもよさそうなものだ。その理由はどこにあるのだろう?宗教観の違いなのか?

2.生きることを選ばない理由は?
 そこで僕は、国際会議で出会う各国の関係者に、2つ質問をぶつけてみた。

1. あなたの国では、人工呼吸器を選択する人は多いですか?
2. もしNOならその理由を教えてください

 下がその結果である。

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 質問を投げかけた11カ国のうち、患者の多くが人工呼吸器を選択する(または最低でも選択したいと考える)と答えたのは、日本とトルコだけで、残りの9カ国の人の答はNOだ。

 イギリスのある神経学者は「人工呼吸器という選択は、はじめから存在しない」とさえ言う。その主な理由として、QOL(Quality of Life:生活の質)が下がる、倫理的理由(人の尊厳が失われる)が挙げられる。

 もちろん、アメリカのように費用が問題となる国もあるが、多くの場合、お金や面倒をみる家族の負担を気にしているのではなく、患者本人の「呼吸器をつけて人間らしい生活ができなくなるなら、そんな状態で生きていても意味がない」という考えが推測できる。

 つまり「人としての尊厳は、自分の意志で動いたり、食べたり、意志の疎通を自由にしたりできることで、それがなくなる=死」と考えている人が多いということだろう。

 しかし、この考え方に一石を投じている人がいる。それが船後靖彦さんだ。

3.船後さんがおそらく伝えようとしていること
 
船後さんはこの国際会議に昨年から参加しはじめた。なぜ体の自由がきかない不便さを乗り越え、はるばる世界まで出向いていくのか。

 船後さんには自分の考えがあると思うので、ここでは私の個人的考えを述べるにとどめたい。船後さんは、きっとALS患者の新しい生き方を世界に向けて発信しているのだと思う。

 「呼吸器をつけてもなお、これだけ人生は楽しめる。できることがある。この生き様をみてくれ。だから世界のALSの皆さん、もう一度生きるという選択について考えてみませんか」といいたいのではと思っている。(船後さん、違ってたらごめんなさい)

 実際、船後さんは、ALS発症後、新しい患者さんの心のケア、講演、作詞など、次から次へと活動範囲を広げており、ラジオ、テレビにも登場したりしてちょっとした有名人だ。

 そして、その生きる姿勢がまわりの人を動かし、勇気や感動を与えている。国際会議では、自らがかつて作詞した曲が入ったCDを参加者に配ったりもした。

 僕は思う。もし、世界中の患者さんが、呼吸器をつけても船後さんのようにアクティブな人生を送っているのをみたとき「ん、呼吸器の人生も悪くないのかな」と思うようになったとしたら…。

 会議で出会ったあるイタリア人は僕にこう教えてくれた。
「船後さんは勇気がある。イタリアでもしこの病気になったら、みんな外に出たがらないから」 おそらく世界の多くの人は、呼吸器をつけたときの人生のプラスイメージが持てず、どうしても悲観的になってしまうのだろう。その意味では、船後さんのような人は最高のロールモデル(模範となる人)と言っていいだろう。

 もちろん、どう生きるかはその人の自由だ。他人がとやかく言うことではない。

 しかし、最低限呼吸器をつけてもこれだけ人生、できることがある、楽しめることがある、こんな生き方ができる…という選択肢の情報、生き方のモデルが十分に提示されていないのではないか。それを知った上で、それでも死を選ぶならそれは自由だ。

4.人の可能性のドアをたたく
 船後さんはこうして「ALS患者の新しい生き方」を創造しているのだと思う。これは私がいつも講演で心がけている「人の可能性のドアとたたく」ことと通ずるところがある。

 僕のメッセージはこうだ。
 「いまのままでいいっていうけど、本当にいいんですか?もし何かをやってみたいなあと思いながら、そのままにしている人がいるとしたら、ぜひ僕を見て。ほら、こんなに自分でするのって楽しいですから…」

 僕の場合は独立するということが恐かった。不安でいっぱいだった。でもいま、こうして頑張っている日々の充実感や生きている実感は、なにごとにも変えられない。これを知らずして死ななくてよかった。震えながら一歩を踏み出してよかった。自分に感謝。

 多くの人は日々仕事に追われ、またごく一部の偏った情報にまどわされ、自分の可能性のドアを閉じている。でも、人には誰でもまだ使っていない可能性があり、そのドアが開かれるのを待っているのだ。

 僕はこれからも、人の可能性のドアをたたき続けたい。
 「コンコン、まだ使ってない能力がありますよ」…ノックされたい方、ぜひ講演を聞いてください。

<今月のレッスン:あなたには、まだ使っていない可能性が必ずある。>

川村透

川村透

川村透かわむらとおる

川村透事務所 代表

「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…

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