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2002年12月05日

ALS患者から学んだこと

ALS患者が教えてくれた3つの勇気
 もし、「明日からあなたの体はもう動きません」と宣告されたら、あなたは生きる道を選ぶだろうか。「そんなの生きている意味などない」といって、死を選ぶだろうか。

 船後靖彦さんという45歳のALS患者さんがいる。ALSとは「筋萎縮性側索硬化症」という病気で、徐々に体中の筋肉が萎縮し、動くことも、食べることも、呼吸すらできなくなるという難病で、現在の医学では原因も治療法もわかっていない。イギリスの宇宙物理学者、ホーキング博士も同様の病気だ。今回、ひょんなことから、この船後さんのお世話をする機会に恵まれた。そこで私は、普段の生活では気づかないことを多く教わった。

1.人の機能が奪われる
 このALSという病は、人としての物理的な機能を徐々に奪う。自力で歩くことはおろか、食べることも、蚊が止まった顔を掻くことすらできない。しかし、脳と感覚神経は普通の人と変わらないという残酷な病気だ。

 船後さんは現在発症3年目で、ほぼ寝たきりだ。首の筋肉もおとろえ、赤ん坊のように首も座らない。動かせるのは唯一、足の指先、手の指先、そしてまぶたの筋肉だ。顔の表情はまだある。人とのコミュニケーションは、わずかに動く指先でパソコンに表示される「あいうえお」をカーソルで選ぶか、あるいは他人が指さす文字盤で、まぶたで合図をするという方法をとる。

2.生き伸びるか、命をまっとうするか-究極の選択
 この病は、さらに人に究極の選択を迫る。やがて呼吸器に障害が及んだとき、人工呼吸器をつけるか、そのまま死を選ぶか、いずれを選択しなければならない。

 人工呼吸器をつけると声を失い、食事も口からはとれなくなる。また痰の吸引などで、たえず誰かの世話にならねば生きていけなくなる。つまり、周囲の介護者の負担は大きい。経済的な問題もある。ちなみに、イギリスなどではほぼこの選択(呼吸器をつける)はないそうだ。あなたならどちらを選ぶだろうか?

3.引きこもり、自暴自棄に
 
誰でもこの病気の告知を受けたらショックで落ち込むだろう。なにせ10万人に5人、というような確率だ。宝くじに当たるようなものだ。船後さんも当初は落ち込み、外界との接触を絶って引きこもってしまった。しかし、あるドクターとの出会いが彼を変える。

 「君はただ生かされるのなら、社会の迷惑だ。君にもできることはある。新しい患者さんへのピア・カウンセリングをやってほしい」

 船後さんは、今、この難病を与えられた使命ととらえ、「患者」としてどう生きるか、という新たな命題に取り組んでいる。難病患者=かわいそう、生かされているだけ…という枠から飛び出し、「自分に何ができるか」、そのことを探している。そこに暗さはみじんもない。むしろ彼の生きる姿勢が、周りの人に勇気を与えている。「人はここまですごいのか」、私は頭をハンマーで殴られたようなショックを受けた。

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 今回、船後さんに出会い、私は3つの勇気を与えられた。

(1)目標をもつ勇気
 
船後さんは告知を受けた当時、引きこもり、生きる目標を失ったが、そのときの病気の進行は早かったそうだ。ところが目標を持ってから、症状の進行は極めて遅くなっている。目標を持つことは大事だとは良く言うが、彼が言うのは重みが違う。つまり、自分の考え方が、肉体という物理的な世界に違いを起こしているのだ。

 どんな状況でも目標を持つという勇気が、体中の全細胞の生き方を変えるのだろう。人の意識の力を改めて気づかされた。

(2)できることをする勇気
 船後さんは、わずかに動く指先で、人の数倍時間をかけてパソコンをあやつり、まぶたを使ってYES/Noをあらわすことで、自分の意志を外界に伝えている。パソコンの声を借りて全国各地で講演をし、オーストラリアの国際会議にも参加する。

 私達は何かと理由をつけてやるべきことをやらなかったり、すぐあきらめてしまう。でも、手も足も、声も出ない船後さんに比べれば、はるかにできることは多い。私は船後さんに出会ってから、「自分はできない」とは言えなくなってしまった。手足が動き、言葉がしゃべれる以上、できることはあるはずだ。

(3)自分をさらけだす勇気
 
普通、こんな難病にもなると、なるべく隠そうというエネルギーが働くが、船後さんは逆だ。自分の生い立ち、奥さんとの出会い、告知を受けて自暴自棄になってから立ち直ってきた心の変化まで、ホームページですべてをさらけ出している。

 人は、隠すものがないとき、強くなる。私達はふだん、建前の世界に生きているが、ここまでさらけだせる人はそういない。そういう潔さが人に勇気を与えてくれる。果たして自分にはそういった潔さがあるだろうか。

 私達は、日々しごく当たり前に生きている。それは「生きる」ことを特に選択したわけではなく、当然の権利として与えられているからだろう。そして日々、小さなことに思い悩み、時間を無駄に使い、物事を周りのせいにして文句を言っている。

 しかし、私達はなんと恵まれているのか。自力で行きたいところに行け、手足が動く。船後さんに出会い、私は目が覚めた思いがした。私も、生かされるより、自分で生きることを選んだ人間だ。その選択に責任を持って、人に勇気を与えられる存在になると心に決めた。

 お嬢さんが指す文字盤で会話をする船後さん

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※船後さんのホームページ:http://www1.odn.ne.jp/~aae03880/index.html

川村透

川村透

川村透かわむらとおる

川村透事務所 代表

「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…

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