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コラム 環境・科学

2012年08月24日

注目される燃料電池

 燃料電池は省エネ機器であるとともに、新エネルギー源として普及してきました。ただ、装置の価格が高いことなどもあり、これまではもっぱら工場や大型商業施等で利用されていました。昨年の原発事故以降、燃料電池は都市ガスを利用して発電できる点に関心が持たれ、最近では住宅用の装置としても注目されています。今回は燃料電池の特徴や将来の展望について触れてみます。

■燃料電池とは
 燃料電池には電池と言う言葉が含まれていますが、乾電池や蓄電池(充電池)とは全く異なる装置です。燃料電池は発電機に近い装置と考えて下さい。乾電池のように使い捨てではありません。

 燃料電池は水の電気分解と逆の原理で発電します。水の電気分解は水に外部から電気を通して水素と酸素に分解します。燃料電池はその逆で、水素と酸素を電気化学反応させて電気を作ります。酸素は空気中に沢山ありますので、燃料として水素があれば燃料電池を用いていつでも電気を作りだす事ができます。燃料電池の燃料となる水素は都市ガスから作ることができます。

 燃料電池の装置は主に次の4つの機器から構成されます。

(1)燃料電池本体:水素と酸素から電気を作ります。
(2)燃料改質装置:都市ガスから燃料改質により水素を製造します。
(3)インバーター:作りだされる直流の電気を交流の電気に変換します。
(4)排熱回収装置:燃料改質装置やセルスタックから出た熱を回収する装置です。

 回収した排熱で水蒸気や温水を作ります。これらは給湯等に利用されます。燃料電池は電気の他に発生した熱も有効に利用できますので、コージェネレーションの一種でもあります。燃料電池では給湯や暖房で熱が必要なときに運転され、発生した電気も使います。熱が必要ない時は運転されず、必要な電気は通常の電力会社からの電気を使う事になります。

■燃料電池の種類
 燃料電池には様々な種類があります。少し専門的になりますが、主な4種類の装置を紹介します。

(1)固体高分子形燃料電池 (PEFC) 
 一番実用化が進んでいる燃料電池です。イオン伝導性を有する高分子膜を電解質として用いる燃料電池です。作動温度は常温~90℃で、家庭用、小型業務用、自動車用、携帯用等で利用されています。

(2) りん酸形燃料電池 (PAFC)
 電解質としてリン酸水溶液をセパレーターに含浸させて用います。動作温度は200℃程度で、発電効率は約40%です。工場やビルなどの需要設備に設置するオンサイト型コジェネレーションシステムとして利用されています。

(3)溶融炭酸塩形燃料電池 (MCFC)
 水素イオンの代わりに炭酸イオンを用いる装置です。そのため、水素に限らず天然ガスや石炭ガスを燃料とすることが可能です。動作温度は600℃~700℃程度で、発電効率は約45%です。工業用や分散電源用としての用途があり、現在日本では実証段階中です。

(4) 固体酸化物形燃料電池 (SOFC)
 電解質として酸化物イオンの透過性が高いイオン伝導性セラミックスが用いられます。動作温度は800℃~1,000℃で、60%を超える発電効率を達成している例もあります。工業用や分散電源用としての用途があり、現在試験研究段階にあります。

■燃料電池の特長
 燃料電池の主な特長は次の通りです。

(1)高い発電効率
 例えば火力発電では、まず燃料を燃焼させた熱で水蒸気を作ります。その水蒸気でタービンを回して発電を行います。すなわち、化学エネルギー→熱エネルギー→運動エネルギー→電気エネルギーとエネルギーの形を何度も変えますので発生するエネルギー損失が多くなります。しかし燃料電池では、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変えますので、エネルギー損失は少なく、高い効率で発電を行う事が出来ます。

(2)発生する熱の有効利用
 燃料電池の装置から発生する熱を給湯等に利用できます。使用する都市ガスのエネルギーの約40%が電気に、約40%が温水や蒸気になります。合計すると約80%が有効に利用でき、燃料電池は省エネルギーの点で優れた装置です。尚、火力発電所や原子力発電所でも熱が発生していますが、その熱を一般に遠く離れている工場やビル、家庭に送ることは大変困難ですので、利用せずに捨てられているのが現状です。

(3)環境にやさしい
 水素と酸素を反応させて発電する燃料電池では、生まれる物質は水だけです。大気汚染の原因になるチッ素酸化物などはほとんど排出しません。尚、燃料として水素を作る際に二酸化炭素が発生しますが、総合効率が高いので、同じ量の電気や熱を使った場合の発生量は他の装置に比べて少なくなります。

(4)静かな装置
 燃料電池はエンジンやタービンなどの駆動部を持ちませんので、騒音や振動が発生しません。空気を取り入れるファンなどから少し音が出ますが、他の発電装置と比べると大変低騒音、低振動です。

 これまで、家庭用の燃料電池は停電時には運転することはできませんでしたが、最近は蓄電池を併設して、停電中でも使用できる機種も売り出されています。原発事故以降、節電や省エネに一層関心が寄せられており、太陽光発電や風力発電とともに、燃料電池の普及の促進が予測されます。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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