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コラム 人権・福祉

2009年02月27日

いい関係(5)

いつ誰の紹介で知り合ったのか不思議なほど思い出せないが、いまから22年前(1987年)、全国紙の文化欄を担当していたM氏と出会った。

いまでは友人というか人生の先輩として、何かに悩んだときはM氏に聞いてみようと思ってしまう。
さすがにベテラン記者だけあって、あらゆる分野で見識は広く、どんなジャンルの相談をしても的確な答えが返ってくる。

M氏は当時、文化欄の書評で『心に残る一冊』をぼくに書いてみないかと勧めてくれた。1600字とはいっても全国紙だ。北海道から沖縄まで行き渡る。まったく無名の障害者に、だいしょうぶ中村クンなら書けるというM氏も大胆だが、ぼくには初めて依頼されて書く原稿だったから、その緊張感たるや並大抵ではなかった。いま思えばM氏は、どんな原稿が出来上がってきても自分が手を入れて掲載しようと考えていたのかも知れない。

そして、ぼくが書いた内容は、芥川賞作家・季 偕成{り かいせい}氏の自伝的小説『またふたたびの道』だった。久しぶりにファイルを取り出して読み返してみたが、幾晩{いくばん}も寝ずに書き直しただけあって、M氏からの指摘は最後の一行だけだったことが、とても懐かしく思い出された。あのころの自分に合格点をやりたい気分だ。

翌月、1万8千円の振込みがあった。ぼくにとっては初めての原稿料だった。源泉徴収として、2千円が差し引かれていた。それが、とても嬉しかったのをよく覚えている。念願だった『税金』を払った満足感があった。

以後、M氏は部署が変わったため原稿を依頼されることはなくなったのに、いまでも親しい友人だ。ぼくが困れば自宅にまで駆けつけてくれる。ところが不思議なことに、ぼくはM氏の正確な年齢や、どこに住んでいるのかも知らない。

個人情報だからというわけではなく、訊く必要もないほどM氏は、まめに手紙やメールをくれる。新聞社を定年するまでには教えてもらい、一生の付き合いをお願いしたい。いい関係を考えると、お互いの心の距離なのではないだろうか? 最近の厳しい社会環境の中で、どんどん人と人との関係が薄らいでいく時代になっている。そんな中で、ぼくには多くの、いい関係のすてきな人びとがいる。ありがたいことだと思う。

この『120センチが面白い』を65回の長い間、読んでいただいた皆さんに感謝申し上げます。
ありがとうございました。

中村勝雄

中村勝雄

中村勝雄なかむらかつお

小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

現在、作家として純文学やノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより> 車イスのうえに食事…

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