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コラム 人権・福祉

2008年05月01日

便利な凶器

親しい友人から奥野修司氏の本を勧められた。その中でも『ねじれた絆』は必読だと言われた。 すぐに大きな書店で注文しようと出掛けてみたが、店員さんはいくつかの方法で著者名やタイトルから、かなりの時間をかけて調べてくれたが、結局は申し訳なさそうに「お取り寄せは難しいですね」という答えだった。あふれるほどの書籍がこの国には氾濫(はんらん)している現状では、いい本だとしてもその中に埋没してしまうのだろう。

本屋さんで手に入らない『本』なら、あきらめるしかない。絵に描いた餅(もち)とは意味が違うが、餅が餅屋で買えないのと同じなのだから仕方ない。

そして深夜、月刊誌の締切原稿を書き終えて、気まぐれにパソコン電源を切らずにインターネットの検索サイトに、本のタイトルを打ち込んでみると数秒後に検索結果が出た。驚きというより簡単すぎて、あっけに取られた。

まず大手のネット通販会社のサイトの画面になり、その会社にも在庫はないが、出品者(たぶん古本屋さん)のリストととして紹介されていた。疑い心を持ちながら、試しにタイトルをクリックしてみるとマーケットプレイス商品として、その本の状態・値段・手数料・出品者の評価が掲載されていた。
支払いもネット通販会社になっていた。出品者との間に入って責任を持つということらしい。パソコン画面にむきあって、たったの15分ほどでお目当ての本を注文できてしまった。そして同じ著者の『心にナイフをしのばせて』という本の存在を知った。

内容の紹介を読み、必ず読もうと思う一冊との出会いだった。もしも上記の本をサイトで検索しなければ、その存在すら知らないままの本になったいた。
なんとインターネットは便利なモノかと驚かされた。

ところが最近、硫化水素を使っての自殺事件が多発している。ニュースによればインターネットで『楽な死に方』と検索して、自殺を実行しているようだ。
もののついでに検索してみると、そこには様々な自殺方法が、いやになるほど数多く紹介されていた。
ほかにも少年同士が『プロフ』とやらで中傷され、初対面の相手を暴行するという、とうてい理解しがたい事件もある。

なにやらため息をついた。硫化水素のことも、ましてや数分で死にいたるガスを発生させるものだとも知らなかった。たぶん自殺した方のほとんどが、この方法をインターネットで知り、短絡的に実行したのだろう。
だからといって規制するのも論外だろうし、このままでは大量殺人事件も起こりかねない。このインターネットという、とても便利な凶器をどう使うのかは、自分も他人も大切にする、という当たり前の人間性を取り戻すことしかないのだろう。
また、そうでなければ人間が人間でなくなってしまう、そう思うのは私だけではないはずだ。

中村勝雄

中村勝雄

中村勝雄なかむらかつお

小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

現在、作家として純文学やノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより> 車イスのうえに食事…

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