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2017年10月20日

タレントマネジメントの課題と展望

前号で人が輝くITの活用の有力候補として、「タレントマネジメント」の紹介をしました。
「タレントマネジメント」は一見新しい言葉のようですが、意外と歴史は古く、IBMでは20年も前には既に使っていたソリューションです。ただし、大手ではそこそこ導入しているソリューションにも関わらず、なかなか活気づいていないソリューションの1つではないでしょうか。その原因を探り、今後の展望について今回語ってみたいと思います。

IBMでは全世界20万人の社員の能力がデータベースに登録されており、重要なプロジェクトが興されると、その地域に限定せずに全世界から必要な人材が招集される仕組みとして使われています。社員は年に1回、自分の能力の登録と更新の義務があり、数百ある能力を見直します。これがまた大変な作業で、自分の大事な能力のPRの場にも関わらず、数百もあると途中からいい加減にデータを入力してしまっているというのは、なかなか言えない公然の秘密です。それをさらに上司が部下数十人の更新申請を小まめにチェックして承認していくことになります。内容や承認の精度如何に関わらず、経営者達はこのデータベースを信じて、これを元に人材の配置をしていくというのが現状です。

「タレントマネジメント」を採用する会社の規模は、当然トップやプロジェクトマネージャーが社員の能力を把握できない規模の大企業に限定されるケースが多くなります。そして社内の人事管理システム(HRM)と連携させているケースが多いようです。

人の持つ能力を「見える化」しており、必要な人材をタイムリーに見つけ出せるこの仕組みはとても合理的であり、その効果を考えれば「タレントマネジメント」はもっと普及しても良さそうですが、現実は「仕組みは入れたけれど、魂が入っていない」状態にあることが多いようです。
それはなぜなのでしょうか?

「タレントマネジメント」が普及しない大きな要因の1つは価格にあります。
現状は買取型の「タレントマネジメント」が一般的となっています。なぜなら上述したように、社内のHRMと連携することが多く、よりクローズドなシステムとして使いたいからです。ところが買い取り型だと通常1000万円から2000万円かかるシステムとなります。この費用にさらに導入費用やデザインコンサル、運営費用もかかって来て膨大な費用となります。この価格が普及に歯止めをかけている大きな要因になっています。

もちろん、人材が活性することは企業に大きなメリットをもたらすので、その効果を考えれば安い買い物になるのは間違いありませんが、それでも大企業以外では導入に二の足を踏みます。感覚的には有効だと理解しても、人材の活性化を数値で効果として出すのは難しいからです。投資対効果を数字で出しづらい以上、経営会議での稟議を通すのは難しくなります。ここは思い切って、クラウド化された「タレントマネジメント」の利用を検討して、価格のブレークスルーを図ることが必要です。これは次に述べる「タレントマネジメント」のオープン的な利用のためにも大事な発想の転換となります。

人の能力を管理する「タレントマネジメント」は、当然社内の人事システムとも連携させるのが自然の流れとなって来ます。ところが人事情報は企業の最大の機密情報ともなります。クローズドな世界での利用の検討となってしまいます。しかしここで考えてみてください。これだけプロジェクトのサイクルが早くなり、人材が多様化し、流動的になると、会社の中だけで最適な人材を見つけ出すことは困難になりつつあります。正社員だけではなく、派遣社員やアルバイトなど社内の人材が流動的にもなって来ている企業も増えています。そしてプロジェクト毎に、様々なビジネスパートナーと組み、協力してプロジェクトを進めることも当たり前になって来ました。このような環境や背景を考えると、社内の人事システムと繋げて「秘密」の世界として利用するよりは、「タレントマネジメント」はFacebookの実名でのソーシャル活動推進と同様な意味で、「才能」もオープンにして活用していくことが今後の成功要因になって来ます。このような意味でも、「タレントマネジメント」をクラウドに置いて、内外の交流に活用していった方が成功に導かれる可能性が高まります。

これからはオープンなタレントマネジメントが求められる時代

前述のように費用も抑えられて現実的です。

さて、ここで「タレントマネジメント」が普及しない最も大事な潜在課題について触れておきたいと思います。冒頭のIBMでの例でお気づきになった読者は多いかと思いますが、実は入力された「能力」の精度の低さに問題があると言われています。

タレントマネジメントを体験したことのある筆者の実感ですが、部下が登録する自己申告の能力を見ていると、社員は大きく2つのパターンに分かれます。過大PRして来る人と、過小報告して来る人です。これは面白いくらいに顕著に違いが出て来ます。そこに来て、膨大な能力の登録項目数です。入力が当然雑になります。それを上司が短期間で承認したりするものですから、それはそれはいい加減な精度のタレントマネジメントが出来上がるわけです。システムでも何でもそうですが、一旦「使えない」とレッテルを貼られると普及の大きな阻害要因となります。「タレントマネジメント」に魂を入れるためにはどうしたらいいかを真剣に考える必要があります。

最もシンプルで効果のある策が、その能力の承認者を上司に絞らずに、誰でも出来るようにすることです。これが社内の人間だけでなく、お客様だったりビジネスパートナーも承認出来るようにオープンにすることで、社員の入力のモチベーションや真剣さも劇的に変わって来ます。「タレントマネジメント」を買い取り型で利用せずにクラウド型にした方がいい理由のもう1つがここにあります。

360度に誰もがその人の能力を承認出来るシステムが、今後の「タレントマネジメント」に必須の要件となることでしょう。

いい加減なスキル承認の精度を上げるために

例えば、あるプロジェクトで英語の喋れる人を探していたとします。
検索してみたところ英語のスキルが4の人とスキルが5の人が見つかったとします。スキルが4の人は承認者が数十人いて「承認コメント」も豊富に書かれていたとします。一方スキルが5の人は数人しかおらず、どうも身内の承認のようです。コメントも付いていません。従来の「タレントマネジメント」でしたら、自動的に英語のスキルが5の人を採用していたかも知れませんが、これからはその情報の信頼度も加味して判断出来るシステムが重宝されるのではないでしょうか。アマゾンの書籍や映画の評価のように、クチコミや評価コメントも判断材料になる、そんな時代にあった「タレントマネジメント」が待ち望まれています。

前号でも書きましたが、「タレントマネジメント」が人を扱うシステムである以上、人間の感性にも訴えることが大事となります。検索結果で、文字の羅列の表の一覧で見てもピンと来ないことが多いものです。やはり検索結果は写真で見て「ああ、あそこで仕事を一緒にしたことのある、あの人か」と人間のアナログの記憶とも連鎖させる可能性を持たせることが重要です。

能力の探索は文字でしても、該当者の最終決定や絞込、最適配置といった作業は、人間のアナログな感性をうまく生かしたいものです。クラウド環境と言えども、写真の活用、配置のシミュレーションといったビジュアルな対応は、今後の「タレントマネジメント」に必要な機能となってくると思います。

感性で判断でき、最適配置できるタレントマネジメントの必要性最後に「タレントマネジメント」に携わる多くの人がまだ触れていない、筆者が感じている大事な要件を書きたいと思います。それは能力を向上し続けていくモチベーションです。自分の持つ能力を登録して終わりではなく、登録したあともどんどん切磋琢磨して、自分の能力を高めていき、、ひとの役に立って喜んでもらえるよう自分も社会も創っていくことです。「タレントマネジメント」を単なる無味乾燥なシステムインフラとして終わらせるのではなく、モチベーション誘発にも使っていけるのだとしたら、それはシステムに魂の入ることにもなります。

近年、企業の「CSR」活動の次に来るべきものとして「CSV」という言葉が流行って来ているのをご存知でしょうか?「CSR」はCorporate Social Responsibility、つまり文字通り企業の社会的責任の活動です。企業が売り上げた利益の中からコストを払って社会的責任を果たそうというものです。とてもいい活動ではありますが、あくまでも企業の利益の一部を還元しての活動になりますのでビジネスが厳しくなって来た時に、真っ先にカットされるのもこの活動になります。一方「CSV」はCreating Shared Valueの略で、売り手も買い手も一緒になって共通の価値を創り出していこうという活動になります。ビジネスそのものの活動が社会貢献にも繋がる活動になります。社会貢献活動とビジネスが同じベクトルになり、継続性が生まれるところが大きな特徴です。

この「CSV」の精神を「タレントマネジメント」でも活用出来るのではないかと考えています。自分の能力提供の対価としてお金をもらうことは、もちろん嬉しいことですし、当然のことではあります。しかし、それだけでは能力向上のためのモチベーションアップには動機づけが足りないと言われて来ています。だいたいどの企業でも営業のモチベーションアップに報酬制度を取り入れて、100%達成した営業にはボーナスを加算するとか、豪華な旅行をプレゼントするとか行っていますが、短期的な効果はあっても継続的な効果には繋がっていないという指摘があります。ダニエルピンク氏がTEDでの講演で指摘している「モチベーション3.0」でもこのことが言われています。

モチベーション3.0

 

そこで「タレントマネジメント」でもこの「CSV」の発想を取り入れ、能力を提供してもらった時に「感謝」ボタンを押せるようにしたら、モチベーションが上がると考えました。同時に「感謝」ボタンが押された時に、ボタンを押した人が予め設定した金額が恵まれない国への寄付金ともなるとすれば、能力を提供した人も、自分が能力を高めることで、自然と世の中を救うことにも繋がり、大いなるモチベーション向上の動機付けにもなります。

社会貢献寄与で能力向上のモチベーションにこのようなひと工夫、ふた工夫をして、単なる能力登録や検索のインフラとしての「タレントマネジメント」ではなく、成長を促せるインフラへ進化させていくことが未来への展望となります。

「タレントマネジメント」の先にあるものは、教育インフラになるのではないかと思っています。
実は「タレントマネジメント」で救える人は、「既に能力があるけれど、その能力を提供する機会に恵まれていない人々」になっています。しかし世の中には、まだまだ提供する能力を持ち合わせていなく困っている人達で溢れています。能力のない人に「魚」をあげて満足する世の中ではなく、能力のない人に「魚の釣り方」を教えるインフラがこれから必要となって来ます。

こういったこともITの力で大きく支援出来ると筆者は考えています。

人が輝くITは、まだまだ無限の可能性を秘めています。

井下田久幸

井下田久幸

井下田久幸いげたひさゆき

ドルフィア株式会社代表取締役

IT業界一筋で34年。SEからマーケティング、営業と幅広く経験。難しいITを分かりやすく、役に立つ情報として伝えることで、セミナー講演はいつも好評。デモを披露したり、世の中の動向とITの動向を絡めて話…

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