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2012年01月25日

過剰なルールは、人の成長を阻む

「人を育てるには、多くの経験をさせることが重要だ」という意見に、異論がある人はいないでしょう。「受身だ」「挑戦しない」などと最近の若者に苦言を呈する人が多いのも、「そんな姿勢では経験不足になるから、成長できないよ」と言いたいのだと思います。結果がどうであれ、それはよい経験になるのだから何でもやってみろ。経営者も、人事部や多くの上司も、そう思っているはずです。

私が不思議に感じるのは、そう思っているなら、何故やたらとルールを作って、それを守らせようとするのか、ということ。「もっと積極的に!」「失敗を恐れず、挑戦しなさい」と言いながら、一方ではルールで縛って「あれをするな。」「これをするときは、こういう手続きと許可を得ろ。」と規制を押し付けている会社は多いし、どんどん増えているようです。言われる方からすると、「どっちなんですか?」と聞きたくなるような矛盾を感じるでしょうが、言っている方は、恐らくその矛盾に気づいていない状態なのだと思います。

昨年末に、学生時代の友人二人と久しぶりに飲む機会がありました。二人は、誰もが知っている有名企業の管理職です。そこで失礼ながら驚いたのが、彼らのITに関する知識や使い方のレベルの低さ、ITに対する考え方の稚拙さや偏見でした。話を聞いて私は、彼らがそうなった原因は、社内でのインターネットの使用に関して、会社が厳しい規制をしていることではないかと考えました。不健全なものが含まれるという理由で、ブログは全て見ることができない、中立性(?)や信頼性(?)に欠けるサイトにはアクセスできない。加えて、誰がどんなサイトをいつ見たかが監視されているので(少なくとも、そう社内広報されているので)、色々なサイトを見ようという気がなくなる。そんな話を聞き、過剰な規制が、彼らのITリテラシーを低下させているに違いないと思ったわけです。

ご存知のように、ネットの世界には、沢山の有益な知識や情報があふれています。行政のホームページや新聞社のサイトのようなものではなく、”無名の”個人や企業のブログやコラムにそれはあります。知識や情報を素早く入手できますし、それによって様々な視点から物事を思考できるようになります。ところが、友人の会社のように有益な情報へのアクセスを制限してしまうと、知識や情報の入手経路が狭まり、入手する速度も落ち、視点も自分本位の偏ったものから脱することが難しくなります。つまり、アクセス制限とは有益な知識や情報からの隔離であり、仕事のレベルを上げる、人を育てるという観点ではまったくのマイナスと言わざるを得ないのです。

彼らはこう言います。「ネット上にある情報は玉石混交だし、信用できないものもあるだろう。それを見分けるのは難しいし、安易な利用は危険だ。」まったくその通りで、誤った知識や信用できない情報も、ネット上にはあふれんばかりでしょう。そして、信用できない情報があるかもしれないサイトへのアクセスを規制すると、確かに、組織の安全は担保されます。しかし、だからといって安易に過剰な規制に走るとどうなるか。彼らを見れば明らかですし、彼らの会社の部下たちも同じようになっているに違いありません。

友人の一人は人事部長ですが、最近、採用担当者から「フェイスブックページを使って、採用活動がしたい」と言われたそうです。彼は部長として、「費用対効果の検証や、成功事例などを調べて提案するよう」に命じ、その後、上がってきた提案を「まだメディアとして初期なので、定着してからのほうがよい」と言って却下したそうです。(既存の媒体ではなかなか採用できなくなってきている中、無料で、大したリスクもないのでやってみればいいのですが、ソーシャルメディアを使う意味がよく理解できなかったのでしょう。)なによりこのケースは、新しい取り組みをリスクとみなして、せっかくの若手の挑戦、貴重な経験の機会を奪ってしまっている典型的な例と言えるでしょう。

インターネットに関する社内規制の例を挙げましたが、他にも会社には様々なルール・規制があり、増え続け、運用も強化される傾向にあります。ルール・規制の強化が組織運営の安全性を高める一方で、副作用として人の成長を阻んでいないか、と考える必要があるでしょう。ルールが社員の挑戦を阻み、経験不足に陥らせ、結果として成長を鈍化させる可能性。監視・手続き・チェックの強化が、社員の行動範囲や興味・関心を限定してしまい、情報の収集力の低い、感度の鈍い、視野の狭い人材になってしまう可能性。これらに気づかねばなりません。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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