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2011年05月25日

リーダーに求められる<言葉の力>

 東日本大震災という国家的な惨事に直面し、リーダーの資質が問われています。
 管直人首相をはじめとする政府や関係機関の皆さんは、一日も早い復興に心を砕いていると思います。ただ、スポーツの世界でチームをマネジメントしてきた私からすると、「それはちょっと、どうかな」と感じるところがあります。

 「人を動かす」ということは、その人の「心を動かす」ことだと私は理解しています。
 重要なゲームを迎える直前、私は選手たちにいつも問いかけます。これから行われる試合には、どんな意味があるのか。我々は何を背負い、誰のために戦うのか。満員の観衆で埋めつくされたスタジアムに立つことが、どれほど名誉なことなのか。そして、いつもこんな言葉で締めくくるのです。

「この試合には、君たちの力が必要なんだ。君たちにしかできない仕事が待っているんだ。大変な戦いになるかもしれないけれど、一緒に頑張ろうじゃないか」

過度のストレスを感じさせたり、不要なプレッシャーを背負わせても、良い結果は得られません。サッカー選手としての誇りに、訴えかけていきます。

 私の言葉が胸に響けば、選手は100パーセントの力を出してくれます。しかも、試合終了のホイッスルを聞くまで。「あれをしろ、これをしろ」と具体的な指示を出さなくても、内面から闘志が沸き上がり、やがてそれはプレーに対する責任感となる。チーム全体が一体化する原動力にもなっていきます。

 今回の震災で「言葉の力」を感じさせたのは、東京都の石原慎太郎知事だったのではないでしょうか。福島第一原発の事故に際して、東京消防庁のハイパーレスキュー隊員が放水活動へ向かうことになりました。石原都知事はこんな言葉で、隊員を送り出したと伝えられています。「東京の誇りをかけて、君たちの凄さを見せてきてほしい」と。

 ひるがえって、首相は、政府はどうだったでしょうか。レスキューに参加した隊員の言葉は、示唆に富んでいます。「上からモノを言うだけの官邸と違って、都知事は我々のことを理解してくれている。だから現場へ行けるんだ」

 私自身にも、忘れ難い記憶があります。
2011年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロ事件の数週間後、サッカー日本代表はヨーロッパへ遠征することになっていました。10月4日にフランス北部のランスでセネガルと、7日にはイングランド南部のサウサンプトンでナイジェリアと、対戦するスケジュールだったのです。翌年6月に控える2002年日韓ワールドカップへ向けて、重要な強化の機会でした。

 チームのコーチを務めていた私は、フィリップ・トルシエ監督らスタッフと、遠征を実施するか否かの話し合いを重ねていました。パリのシャルル・ド・ゴール空港も、ロンドンのヒースロー空港も、「次はテロリズムの標的になる」と報道されており、直接的な被害を避けることができても、テロが発生すれば都市機能の麻痺が予想され、我々もパニックの中に放り込まれかねない。選手の安全を考えると、遠征中止もやむを得ないという判断が強まっていました。

 我々の背中を押してくれたのは 日本サッカー協会会長(当時)の岡野俊一郎さんでした。会長は迷いのない口調で我々に告げたのです。

「世間に不安が拡がっているこういうときこそ、君たちは社会の先頭に立つべきだ。もし遠征を取りやめたら、日本の人々を不安にさせてしまう。日本代表チームの仕事には、人々に勇気を与えることも含まれているはずだ。いつも応援をしてくれている皆さんに、いまこそ勇気や希望を与えてほしい。そのためには、最善のサポートを約束する」

 胸を打たれました。「よし、やってやろうぜ」という気持ちが、全身を貫いていくような感覚を覚えたものです。

 誰のために、自分は頑張るのか。
 何のために、自分は頑張るのか。
 この二つをしっかり伝えなければ、人を動かすことはできません。

相手の心に触れ、心を包む言葉を発信することで、やってやろうというモチベーションを抱かせる。政治でも、ビジネスでも、スポーツでも変わらない、リーダーとしての大切な資質だと、私は考えます。

山本昌邦

山本昌邦

山本昌邦やまもとまさくに

NHKサッカー解説者

1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…

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