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2017年01月10日

再生可能エネルギーの動向と展望

 2012年にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度が曲がり角に来ています。ここ数年、制度の改革が次々と進められています。今回は固定価格買取制度の動向と将来の展望について触れてみます。

再生可能エネルギーの固定価格買取制度

 再生可能エネルギーは自然の現象に由来して絶えず補充され、枯渇することのないエネルギーで、Renewable Energyの訳語です。自然エネルギーとも呼ばれる再生可能エネルギーは利用に当たって二酸化炭素を出さない、有害な排ガスを出さないなどクリーンなエネルギーです。また、日本はエネルギーの96%を輸入に頼っていますが、再生可能エネルギーは国内で作り出すことができますので、純国産のエネルギーとなります。

 2011年に東日本大震災による原発事故が起きました。そして2012年7月に、太陽光、風力、地熱、バイオマス、中小水力による発電に対して固定価格買取制度がスタートしました。固定価格買取制度の概要は次の通りです。再生可能エネルギー発電事業者が発電した電気は電力会社が買取ります。再生可能エネルギーの発電コストは一般の火力発電に比べて割り高になりますので、その費用は電力料金に上乗せされています。固定価格買取制度では固定された価格で一定期間、買取りが保証されます。買取価格は再生可能エネルギー発電事業者がしかるべき利益を得ることができる価格設定です。ただし、電力会社の設備的な要因等で、買取りを断られる場合もあります。
 再生可能エネルギーによる電力の買取りにおいて、細かい点では色々と制約があります。住宅用太陽光発電については余剰電力のみ買取りの対象です。家庭用燃料電池などを併設する場合は、買取価格が減額されます。風力については小型の風力発電を含みますが、中小水力発電では3万kW未満の設備が対象です。地熱についてはバイナリー発電の他、高温岩体発電等も含まれます。バイオマス発電については、紙パルプなどの既存の用途に影響を及ぼさないバイオマスを使った発電を対象とします。

2014年に買取りを見合わせる電力会社続出

 2014年9月、九州電力は再生可能エネルギーの固定価格買取制度に基づく契約の受け付けを九州全域で中断しました。再生可能エネルギーは発電量が天候に左右される不安定なものであり、発電が急増して受け付けを続ければ電力需給のバランスが崩れ、大規模停電発生の恐れが高まるためでした。
 2014年10月、九州電力に続き北海道電力、東北電力、四国電力も再生可能エネルギー買取の新規契約を当面は停止することになりました。年が変わった2015年からは、これら4電力会社では住宅用の太陽光発電は買取りを再開しました。1000kW以上のメガソーラ発電と異なり、住宅用は10kW以下を対象としていますので、電力会社にとって大きな負担にはなりません。
 固定価格買取制度の導入前の各電力会社の電力設備では、受け入れ可能な太陽光や風力による電力の量は5%程度といわれていました。再生可能エネルギーによる電力の受け入れ量を増やすためには、電力会社では送電、変電等の設備整備をしなければなりません。しかし、設備が整わないまま固定価格買取制度をスタートさせてしまったわけでした。
 大都市圏を抱える東京、関西、中部の電力会社では、元々の発電量が大きいので相当量の再生可能エネルギーの受入れを行っても、系統連携に大きな影響を及ぼしません。従って、再生可能エネルギーの受け入れが中止になることはないと考えられます。

2015年の固定価格買取制度の改定

 固定価格買取制度において、2015年1月に再生可能エネルギー発電事業者の出力制御のルールが改定されました。出力抑制とは「電力会社が買取れないので、発電した電力の出力をしないでください、または発電を行わないでください」ということです。
 出力抑制はそれまで500kW以上の設備に限定されていたものが、家庭用を含む500kW未満にまで適用拡大がなされました。出力制御の日数も、年に30日から年に360時間(太陽光)/720時間(風)に変更となりました。出力制御を行うため、遠隔出力制御システムの導入を義務付けられました。また、東京、関西、中部電力以外の電力会社エリアでは、新規接続に関しては指定ルールが適用されます。指定ルールとは無制限、無補償の出力制御です。

さらに2017年に変更される固定価格買取制度

 電力会社が発電事業の実施可能性を確認した上で認定する制度が新設されます。これは、認定されながらも、設備費が安くなるまで事業開始を遅らせて利益を得るという事を防止するためです。電力会社は事業実施中の違反時に改善命令や認定取消を行うことができます。
 また、事業用の太陽光発電に入札制も導入されます。すなわち売り価格の安い事業者が選ばれます。買取義務者がこれまでの小売電気事業者から送配電事業者に変更されます。これは電力小売全面自由化による電気事業者の再編に合わせたものです。送配電事業者とは従来の地域ごとの大手の電力会社のことです。
 なお、固定価格買取制度をいち早く実施しているドイツでは、「発電事業者が買取電力会社を探す」、「入札制度の導入でより安い価格の電気が買われる」などの改革が既に行われています。

再生可能エネルギーの展望

 ここ数年、太陽光発電の買取価格が毎年3円程度安くなっています。これは太陽光発電の普及によって、装置の価格が年々低下しているのに合わせたもので、設置者の利益は固定価格買取制度のスタート時と変わらないものです。同様なことはドイツの固定価格買取制度実施時にも見られたことです。風力、地熱、バイオマス、中小水力の買取価格が変わっていないのは、これらの装置の価格が大きく変わっていないからです。

 固定価格買取制度が大きく変容しようとしていますが、これは決して制度の後退ではありません。今は日本の固定価格買取制度が抱えていた様々な問題が整理、修正されている時期です。再生可能エネルギーのメリットもデメリットも十分に分かった上で、他のエネルギーと同様に市場原理や競争原理に従った形で利用されることは極めて望ましい姿です。そうなることによって、再生可能エネルギーが地に足が着いた形で発展していくことを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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