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コラム 政治・経済

2020年08月11日

国際社会における米国の動向

今年の11月には米国の大統領選挙がありますが、トランプ大統領が再選されるのかどうかが関心の高いところです。4年前にトランプ大統領が当選したとき、発言や行動が歴代の大統領とずいぶん違うと感じられたことでしょう。トランプ大統領の登場で日本でも多くの人々が米国社会に関心を持ち始めたように思えます。

今回は米国のお話を致します。日本と米国は経済的にも政治的にも大変密接な関係にありますので、今回のお話が米国のビジネスや政治の理解に少しでも参考になれば幸いです。

ISO認証取得に積極的ではない米国

まずISO9001を例にとってお話します。ISO9001は国際標準化機構(ISO)による品質マネジメントシステムに関する規格です。徹底的な顧客満足を追求した規格となっており、製品やサービスの品質向上に役立つ規格です。2018年時点のISOの発表では、日本では34,335件のISO9001の認証が取得されており、これは世界第4位の認証取得数となっています。対して、米国のISO9001認証の取得は21,848件です。米国の人口は日本の3倍弱で、GDPは日本の4倍弱であることから、米国のISO9001の取得数が日本の3.5倍ぐらいあってもいいのですが、実際は非常に少なく日本の6割程度です。この例のように、米国の企業はISO認証取得にあまり積極的ではありません。

ISO9001の規格は目的に対して企業の考え方や取り組みを問うものであって、具体的に基準値を定めてそれをクリアーしなさいということではありません。米国ではそのような手法にあまり価値を見出さないと考えられます。ISOの本部がフランスにあり、米国から見ればISOの考え方は欧州的と感じられることでしょう。

ただ、米国の企業は生産を海外の企業に委託している場合が多く、その場合に海外の企業にはISOの認証を取得するように勧めます。たとえば、アジアの国の多くは環境基準や労働基準の法整備が遅れている場合が多いので、せめてISOの認証を取得して生産をするように求めていると考えられます。日本の大手企業も協力会社にISO認証の取得を勧めます。

地球温暖化対策パリ協定と途上国

2015年に採択されたパリ協定は、京都議定書以来18年ぶりとなる気候変動に関する国際的枠組みです。気候変動枠組条約に加盟する全196ヶ国全てが参加する枠組みとしては史上初の協定です。なお、パリ協定では排出量削減目標の策定義務化や進捗の調査など一部は法的拘束力があるものの罰則規定はありません。この点は京都議定書から大きく後退しています。

2016年に当選したトランプ大統領は「アメリカ第一主義」を掲げ、兼ねてから地球温暖化に対する懐疑論者で、「地球温暖化という概念は米国の製造業の競争力を削ぐ」とも主張していました。トランプ大統領は2019年11月に正式にパリ協定から米国の離脱を表明しました。

さて、パリ協定は京都議定書に比べて様々な点で大きく変わっています。特に体制が196ヶ国の参加で成り立っている点が特筆されます。京都議定書においては温室効果ガスの削減に途上国は参加しておらず、削減の義務を負う参加国は議定書の調印の段階では日本、米国、EU等の先進国でした。一方、パリ協定では先進国は途上国の温暖化対策に対して支援することになっています。先進国が途上国に支援資金を提供するスキームがあることが、途上国がこぞってパリ協定に参加した大きな動機となったと考えられます。

パリ協定に限らず、多くの国際的な集まりでは国連の通常総会と同じように各国が1票ずつの投票権を持ち、また途上国は、先進国が途上国に活動の支援金を出すように常に要求しています。

先進国が支援金を出す場合も、先進国が支援先を選べるように望むのに対して、途上国は先進国の支援金を一括してプールし、途上国が分配する方法を望みます。先進国が途上国に支援金を出すか出さないか、出すにしても先進国が支援先を選べる方法かどうかについて、常に途上国と先進国がせめぎ合うという構図が多くの国際組織にできています。

米国は殆どの場合、国際的な機関に一番多くの分担金を拠出しています。にもかかわらず、国際組織が米国の意向に合わない方向に進んだり、また米国に反対する国に支援金が行くことは我慢がならないかもしれません。近年、米国がしばしば国際組織から脱退する理由の一つにはこのような背景があります。

国際組織の変容

近年国際組織自身が様々な問題を抱えている場合があります。IWC(国際捕鯨委員会)では各国から過激な委員が派遣され、冷静な議論ができないようです。環境関係の国際組織ではこのような傾向がよく見られます。パリ協定に関も、理念は気高くありますが具体的行動は進んでおらず、先進国の活動支援金の受け取りを途上国が待ち構えている機関になっているように見えます。

世界貿易機関(WTO)の中にある紛争解決委員会が不可解な判断結果を出すなど、その運営面で様々な批判が出されており、現在米国や日本によりWTOの改革が進められています。現在、紛争解決委員会は実質的に機能していない状態です。

国際社会には様々な組織や機関が存在しますが、その運営には経費が必要です。実際のところ総じて米国が最も多額の分担金を拠出しています。近年、米国はユネスコ、パリ協定、WHOから脱退していますが、世界一の政治的かつ経済的な大国である米国の脱退は国際組織の弱体化を招き、国際社会の混乱が一層増加します。

欧州や日本が形式や理念を重要視するのに対して、米国は実態や実利を重要視する社会です。国際的な組織の変容と、現在の米国の国際社会に対する基本的なスタンスの理解が、ビジネス等を進めるにあたって何かお役に立てば幸いです

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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