2018年06月11日

米国の貿易赤字問題

トランプ大統領は中国や日本、EUなどに対して、米国の貿易赤字削減を強く迫っています。今回はこの問題についてふれてみます。

輸入制限政策の発動

本年3月23日に米国は、安全保障を理由に鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す輸入制限を発動しました。事前にカナダとメキシコ、オーストラリアに対しては適用除外が発表されています。カナダとメキシコはNAFTA(北米自由貿易協定)の加盟国です。オーストラリアについては、公正で互恵的な軍事、貿易関係を約束したとして適用が除外されました。日本は米国に対して輸入制限の適用除外を強く訴えています。

安全保障を理由とした措置ですが、トランプ大統領が中国や日本、EUに対して抱える貿易赤字に不満を持ち、対抗手段としての発動したものと考えられています。

米国の貿易赤字

輸出量と輸入量の差額のことを貿易収支といいます。貿易赤字とは輸入量が輸出量より大きい場合をいいます。貿易黒字はその逆です。現在の米国の貿易赤字の相手国の上位3国は、中国、日本、ドイツです。それぞれの赤字額は次の図に示す通りです。

米国の貿易赤字億ドル(2016年))

中国が極めて大きい額で、それに日本、ドイツが続きます。日本に対する貿易赤字689億ドルのうち、526億ドルは自動車関連の製品です。

次に1990年と2016年の米国の貿易赤字の国別を示します。

米国の貿易赤字の国別比率(1990年) 米国貿易赤字の国別比率2016

1990年当時、日本は米国の貿易赤字の約40%を占めていました。2016年では中国が約47%を占めていますが、この間に中国は目覚ましい経済成長を遂げたことが大きな要因です。 米国は日本に対して、米国の自動車をもっと買うように主張したり、米国に有利なFTA(自由貿易協定)を結ぶことなどを戦略として考えています。

   

米国の貿易赤字の真相を探る

貿易赤字が増えますとその国の通貨は安くなり、GDP(国内総生産)は押し下げられます。逆に貿易黒字が増加しますとその国の通貨は高くなり、GDPは押し上げられると言われています。以上は貿易収支に関する一般的な考え方です。ただ、貿易のような国際経済を分析するときは、一層多角的な視点で考察しなければなりません。

米国は世界一の経済大国です。2016年の国別のGDPは、多い順に米国が18兆5691億ドル、中国が11兆2182億ドル、日本が4兆9386億ドル、ドイツが3兆4666億ドルです。米国はGDPの約7割を消費が占める消費大国です。中国は約4割、日本は約6割です。

米国の成長率を牽引しているのは個人消費で、米国の貿易赤字の背景には旺盛な消費によって消費財の輸入規模が大きいことがあげられます。このような米国は賃金等の生産コストが高くなり製造競争力が低下します。その結果、消費財の輸入の増加を招きます。

そもそも、貿易赤字と言っても米国にとっては輸入によって「財」が増えたわけですから、米国が豊かな証拠でもあります。 企業経営において、収入よりも支出の方が多い場合を経営赤字と言い、経営赤字が続きますと企業は立ち行かなくなります。しかし、貿易赤字の赤字と経営赤字の赤字は本質的には全く異なるものです。貿易赤字の赤字は輸出額から輸入額を単純に引き算した値で、その値はその国の「財」に変わっているのです。

今後のトランプ政権の展望

トランプ大統領が、国内の企業に対して「貿易赤字を無くせば収益が上がりますよ」、労働者に対しては「TPPを無くせば雇用が増えますよ」などと訴えることは、選挙には効果が高い手法でありました。実際に2年前の大統領選挙に勝利しました。

米国では本年11月には中間選挙があり、上院の3分の1が、下院の総てが、多くの知事や地方議員の選挙が実施されます。トランプ大統領は中間選挙に勝つために、そして2年後の大統領選挙に再選されることを目指して、「メキシコとの国境に壁を建設する」と同様に、関係国に対して「貿易赤字を減らせ」とアピールしたり、保護貿易政策を推進し続けることでしょう。

貿易赤字削減や保護貿易政策により、米国内で売る製品は米国内で製造しなさいと主張することの問題点は沢山あります。まず、コスト高の米国内で製造することは製品の価格高になり、その結果米国民は高い代金を支払うことになり、直接家計にマイナス影響を与えます。また、メキシコで製造して米国内で販売している会社のほとんどは米国の会社です。同様に、巨大な貿易赤字を作り出している中国の対米輸出において、その7割は米国の会社が製品を中国で作らせて米国で販売しているのが実情です。

今後強制的に貿易赤字を削減しようとしたり、保護貿易主義に強力に進めることは、米国の企業に大きな影響を与えることは火を見るより明らかです。日本はこのトランプ政権と後2年半、長ければ6年半付き合って行かなければなりません。杞憂かもしれませんが、トランプ政権の経済政策が米国企業に対して、「角を矯めて牛を殺す」ということにならないことを祈ります。