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2011年03月10日

新日鉄・住金合併の意味するもの

キーワードは「グローバル化」
 新日本製鉄と住友金属工業の合併合意というニュースは産業界をあっと驚かせた。鉄鋼の合併といえば、その新日鉄が約40年前の1970年に八幡製鉄と富士製鉄の合併によって誕生したことを思い浮かべるが、当時の合併は日本の高度成長と資本自由化に対応して規模の拡大を目指したものだった。これに対し今回の合併はグローバル化に対応することが最大の狙いで、日本企業のグローバル化への対応が新たな段階に入ったことを示している。
 日本の鉄鋼産業はかつて「鉄は国家なり」と言われ、歴代経団連会長を輩出するなど、日本のリーディング産業だった。しかし、プラザ合意による円高不況やバブル崩壊によって鉄鋼各社は業績悪化と設備過剰に苦しむようになった。各社は高炉の休止やリストラに取り組んだが、供給過剰は十分に解消せず、大きな課題となってきた。こうした中で2002年には、日本鋼管(NKK)と川崎製鉄が経営統合に踏み切り(JFEホールディングス)、翌年JFEスチールが誕生した。
 こうした鉄鋼業界の歴史的な経緯から、今回の合併についても「供給過剰の解消が狙い」「JFEスチールへの対抗策」などとの解説が一部メディアに見受けられたが、そのような視点で今回の合併を見ていると、事の本質を見誤ることになる。従来の鉄鋼合併・再編が主として国内的な動機からだったのに対して、今回は「グローバル化」がキーワードだ。

世界メーカーに押され気味の日本勢
 
  
実は世界の鉄鋼業界で、日本は海外メーカーに押され気味だ。世界1位(粗鋼生産量)はアルセロール・ミタル(本社ルクセンブルク)。この会社は、もともとインドの鉄鋼メーカーが次々と欧米の鉄鋼メーカーを買収して急成長した会社で、次の買収の標的はアジアといわれている。これに続いて2位から4位までは中国のメーカーが並び、5位は韓国のポスコ。6位にようやく新日鉄が顔を出す。日本勢はこのほか、JFEが9位、住金が23位、神戸製鋼所は48位という状態だ(2009年実績)。経済全体のグローバル化とともに、鉄鋼市場もグローバル化しており、このままでは海外メーカーとの競争に勝ち抜いていけないとの危機感が両社を合併へと突き動かしたのだ。両者が合併すれば、中国勢を抑えて2位に浮上する。

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 もちろん鉄鋼各社はこれまでもグローバル化への対応を進めてきた。例えば、新日鉄は米国、ブラジル、中国、東南アジアなどに進出、現地メーカーとの合弁や提携などで事業を展開している。数年前、新日鉄が中国の宝鋼集団との合弁で操業開始した上海の製鉄所を取材で訪れたことがあるが、自動車用薄板の電気亜鉛メッキなど、国内並みの最新鋭技術を展開していたのが印象に残っている。
 ただ各社のこれまでの海外事業はどちらかというと、ユーザーである日本の自動車メーカーなどの海外展開に合わせて進めていくという色彩が強かった。しかし、特に新興国の経済成長に伴う鉄鋼需要の増大を考えると、「日本のユーザー企業を中心にしたビジネスにとどまらず、独自に海外の顧客企業を相手にしたスタイルに切り替えていく必要性が高まっている」(ある鉄鋼メーカー幹部)という。その具体化の一例がベトナムだ。ベトナムでは国内のインフラ整備や産業発展が本格化しつつあり、それに対応して日本の鉄鋼各社は相次いでベトナムに進出、製鉄所建設や現地企業への出資などを進めている。こうしてグローバル化への対応を一気に加速させる中で起きたのが、今回の合併なのである。

食品業界もグローバル企業に変身
 グローバル化に対応するための合併・再編は鉄鋼だけではない。従来は代表的な内需型産業だった食品業界でもその動きは顕著だ。キリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合交渉はその代表例。その背景には、少子高齢化で国内の食品市場が縮小する一方で、新興国を中心に伸びが期待できる海外市場で拡大を図り、海外の巨大食品メーカーとの競争に勝ち残るために経営統合しようというグローバル戦略があったのだった。この話は結果的に成立しなかったが、キリン、サントリーともに独自に海外企業との提携や買収を加速させている。中でもキリンは1月に中国の食品大手との合弁事業を発表したほか、アジアでのM&A戦略を手がける新会社をシンガポールに設立する方針を打ち出すなど、きわめて精力的だ。そのほか最近ではサッポロホールディングスがポッカコーポレーションを買収するなど、食品業界では提携や買収などが相次いでおり、M&Aラッシュの様相を呈している。
 グローバル化をめぐっては、一部でグローバル化による弊害が議論されたり、政治レベルではTPP(環太平洋経済連携協定)への反対論も起きている。しかし好むと好まざるとにかかわらず、グローバル化は猛烈な勢いで進んでいるのであり、それに対応しなければ日本経済も企業も生き残っていけないのだ。逆に言えば、グローバル化に対応していく中にこそ日本経済と企業の未来がある。グローバル化への対応いかんが企業の命運を分ける時代に入ったのである。

岡田晃

岡田晃

岡田晃おかだあきら

大阪経済大学特別招聘教授

1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…

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