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コラム 政治・経済

2014年11月05日

柔軟性こそ日本が生き残る道

日銀が10月行った「追加緩和」。市場があまり期待していなかったこともあって、思いのほかよく効いている。為替は円安に振れ、なかなか上がらなかった株価も上昇した。

ただ現在の金融緩和はどちらにしても「時間稼ぎ」にすぎない。金融緩和だけで経済の実体がよくなるわけではない。時間を稼いでいる間に、成長力をつけるという本来の課題を何とかしなければ、やがては日本経済は沈没するだろう。

そういった見方を悲観的にすぎると考える人も多いだろうと思う。しかし今いちばん問題なのは、日本経済の基盤なのである。それは人口だ。人口不足=労働力不足という考え方をすれば、労働力の不足を高齢者雇用(定年延長)や女性の労働力化で補えるという主張にも一理ある。

しかし人口が減っているからといって、労働力だけが不足しているわけではない。人口が減れば需要も減る。需要不足が日本経済のデフレ基調となり、企業が国内で工場を増やすことができない理由となっている。

国内で工場が増えない、すなわち生産力が増えないということが、「円安の恩恵」がなくなっている理由だ。極端に円高に振れていたとき、企業は海外へ工場設備を移した。その結果、円が安くなったら輸出が増えるという相関関係が薄れてしまった。プラス面が小さくなったことで、たとえば輸入に依存するエネルギーが高くなるというマイナス面が大きく出るようになった。円安歓迎だった経済団体も、円安の負担に触れるようになったのは、まさにその現れだ。

内需が構造的に減っているのは自動車販売を見ればよく分かる。日本国内における自動車販売台数がピークを記録したのは、1990年、バブルがはじけた年だ。その年、自動車の総販売台数は約780万台。しかしこのところ500万台前後である。省エネ車を優遇したりしても、それによる上下はあるが、基本的にこの程度であり、しかも傾向的には減っていく。

理由は簡単だ。自動車需要が増えるのは自動車が買えるほど豊かになったという背景があった。それは高度成長期の話で、ある程度普及してしまえば、買う人が増えなければ自動車の販売は伸びない。そして買う人とは基本的に若い人なのである。

今年1月に新成人になった人は123万人である。日本経済の高度成長を「需要者」として引っ張ってきた団塊の世代は、260万人ほどいる。すなわち自動車の潜在需要層は半分になったということだ。これを考えれば、自動車がかつてのような量を売ることは不可能だ。外国メーカーが日本から撤退するのは、競争に負けたからではなく、日本市場に伸びしろがないからだ。

需要が減るという意味では、金融だけでは最後まで残っていた。それは日本の個人金融資産が1600兆円もあるからだ。銀行や保険会社、証券会社がその資産を獲得すれば巨額の手数料が手に入る。その意味では、まだ日本市場はおいしい市場だった。しかしそれも変わってきている。今年10月、シティが日本における個人業務から撤退すると決めたのは、経営状態という個別の事情もあるが、それよりも日本という豊かなマーケットですら魅力がなくなったということを意味している。

そうなると、日本経済の需要を取り戻すという意味でやれることは基本的には一つしかない。イノベーションによって新しい産業を興すことである。

新しい産業とは、モノ作りを発展させるという意味もあるが、情報という側面に注目して従来のモノだけでなくそこに情報という付加価値をつけていくということだろう。情報産業、たとえばGoogleやTwitterやFacebookなどでは日本はもはや周回遅れどころか2周か3周遅れてしまった。もはやこれを取り戻すのは不可能だ。

しかしモノと情報を結びつけるという意味では、日本企業も太刀打ちできるだろう。情報家電と呼ばれるようなものをもっと本格的に利用しやすい形に進化させるとか、あらゆるものが統一されたナンバーで管理されるとか、考えるべきものはいくつもある。家電製品とインターネットを融合させたときに何が起こるか、アイディアの勝負でもある。

部分部分では、日本企業のノウハウや技術力は世界トップクラス。しかしいろいろなものを応用して融合させていくという発想ではアメリカ企業の柔軟性に負ける。頭を柔らかくして将来のビジョンを描く、それが日本の競争力を取り戻す道なのかもしれない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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