2017年09月08日

たくさんある出会いの中でついていく人を間違えない

山本昌

山本:
ジャイ(=山﨑武司さん)とは仲がいいですね。もう風貌通り『ドラえもん』のジャイアンに似ているので、僕はずっとジャイと呼んでいます。2人とも、現役の頃からラジコンやスポーツカーといった趣味が同じで、小さい頃に夢中になったものを延々やり続けています。はっきり言って、ガキなんですよ(笑)。あと2人とも下積みが長かったので、お互いエリートっぽくないところが、近いところなのかなと。

山﨑:
今では2人とも野球談義を熱くするようになりましたけど、若い頃は野球以外の話ばかりしていましたね。

山本:
本当に遊びの話しかしなかったよね。この人は本物志向で、マニアックなスポーツカーが好きなんです。車屋さんで「ジャイはこの車が欲しいだろうな」と思っていると、数日後に本当にその車を買ってくる(笑)。

山﨑:
昌さんは3つ上の先輩です。野球界では、3歳上の先輩といったら口もきけないのが普通ですが、昌さんはお互い二軍で鳴かず飛ばずの時代に、思いの外、僕と喋ってくれたんです。昔のドラゴンズの野手陣を考えたら、3つ上の先輩とはほとんど交流ないですからね(笑)。

山本:
まあまあまあ (笑)。そうだよね。

山﨑:
ほとんど交流ないですよ(笑)。それに投手と野手とでは、もう人種が違うのかと思うくらい性格が違います。昌さんは自分にないコツコツと努力できる持続力があるので、羨ましかったですね。

山本:
古い時代から一緒にプレーをしてきて、昔の強制的にやらされる野球から今の合理的な考え方の野球まで、過渡期を経験しているのは大きいよね。

山﨑:
昔は悔し涙を流して、泥水をすすって。なんでここまで練習をしなくちゃいけないんだろうと思っていましたよね。

山本:
あとジャイは人を騙したり、嘘をついたりしないところが好きですね。真っ向から自分の言いたいことを主張して、周りに理解してもらう。僕はよっぽど悪かったら注意しようって、黙っちゃうタイプなんですよ。

山﨑武司

山﨑:
もうね、性格が正反対。あと、ドラゴンズの若手時代に行ったロサンゼルス・ドジャースへの留学。僕も昌さんより1年早く派遣されたんですが、昌さんはアメリカから帰ってきたらスクリューボールと細かいコントロールを身に着けて、ドーンとブレイクしました。

山本:
ドジャースのアイク生原さんとの出会いは、僕にとって非常に大きかったですね。「上から投げなさい」「ボールは前で離しなさい」「低めに投げなさい」「ストライクを放りなさい」。ピッチャーの基礎を口酸っぱく言われて、一軍でプレーできるだけの力をつけてもらいました。ピンチの時にど真ん中に投げたとしても5割は打たれるが、5割は打ち取れる。フォアボールを出すくらいなら、甘めのまっすぐの球を打ってもらえ。でもその球を少し低めに投げれば、ホームランにはならない。野球は確率のスポーツですが、人生も確率論です。ビジネスマンの方にも言えることではないでしょうか。

山﨑:
僕は野村監督と出会わなければ、この場で取材を受けてはいないと思いますし、今頃、何をしていたか想像もつかないですね。楽天に移籍して30代後半で、「お前が何も考えずにここまで野球をやれたのは、ある意味天才だ。でもこの歳になって、無意識でプレーをするお前はただのバカだ。このスタイルで野球をやれると思ったら、大間違いだぞ。その後の人生においても、お前は絶対つまずくぞ」と、野村監督に人生を全否定されたんですよ。

山本:
長く現役生活を送れた秘訣については、鳥取で動作科学を研究するワールドウィングエンタープライズの小山裕史先生との出会いに尽きると思います。毎年、先生とピッチングフォームを練り直せたことが大きかったですね。イチロー選手もお世話になっている先生です。僕が30代に差しかかった頃のプロ野球界は、ピッチャー35歳定年説というのがありました。僕のキャリアハイは2年連続最多勝を獲った1993年、1994年だったのですが、翌年怪我をしてしまうんです。これは先輩の例に漏れず自分も引退かと思い、過去の考え方は全て捨てて、小山先生にお任せしようと。大事なのは、たくさんの出会いがある中で、僕はついていく人を間違えなかったことですね。

長く一線で活躍するためのモチベーション

山本昌

山本:
40歳を超えてからは、ファンの方々から本当にいろんな声援をいただいて。その声に応えたいと思ってプレーを続けたからこそ、50歳まで現役でいられましたね。

山﨑:
今、プロ野球界は、誰でも150キロのボールを投げられるような時代になってきているんですよ。僕はバッターの立場ですが、平気で150キロ超えする若手に僕らベテランの人間がついていくのは、本当に大変なことなんです。

山本:
選手時代の晩年になると、契約している以上、球団に恥をかかせてはいけないという思いはありました。いい加減なことをしていると、チームメイトに迷惑がかかるので。毎年6月ぐらいになると調子が悪くて、今年で引退かと覚悟を決めていたのですが、8月になると何故か活躍できました。最後の何年かは、夏頃に「ああ、来年も野球ができる」と思いながら投げていましたね。

山﨑:
僕は昌さんとは逆で、長くプレーをするには諦めが肝心だと思いました。歳を取ると、走力、飛距離、パワーヒッティング、体力の回復、これら全てができなくなるんです。野球選手って、自分の全盛期をイメージして練習すると、必ず選手生命が終わってまうんですよ(笑)!

山﨑武司

山本:
あははははは(笑)。

山﨑:
ある時、1996年の中日全盛期の山﨑武司を追い求めて練習していたら、ジャイアンツの原監督に言われたんです。「山ちゃん、昔みたいなイメージでずっと野球をやっていちゃダメだぞ。ホームラン王を獲った時の自分を1回捨てろ。それでもう1回、自分の新しいスタイルを作らないといけないよ」と。原監督の言葉が、晩年最後の伸びしろでしたね。そこから体力が衰えても、どうやったらボールを遠くに飛ばせるかを試行錯誤した結果、2007年にパ・リーグのホームラン王が獲れました。

山本:
あと、いい加減なことをしている人の元に運は来ないね。

山﨑:
来ないですよねえ。

山本:
球場の整備担当の方が引いてくださった白線をズケズケと踏まないとか、ゴミが落ちていたら拾うとか。小さいことですけどね。あと試合に行く前は儀式として、グラブとスパイクは綺麗にしていましたね。50歳までずっと続けていました。

山﨑:
一流選手は、道具をすごく大事にしますよね。僕なんて、アメリカ留学中にバットを引きずって歩いていたら、アイク生原さんに「コラーッ!」って怒られて。でも活躍するようになってから、道具の扱いも変わりましたね。きっかけは、野村監督に僕の野球人生を全否定されたからです(笑)。

ベテランとしての歳下との接し方

山﨑武司

山﨑:
野村監督は選手にうるさく注文を付けるイメージがあると思いますが、実際はすごく優しい言葉で喋ってくれます。僕に対しては、「お前、子供の頃野球が好きだったろ?今は嫌いだろ?野球を好きにならなくちゃいけないだろ?だったら、試合に臨むまでの最低限の準備をしてこなくちゃダメじゃないの」って。「天気が良いのか、風の向きはどうなのか。今日の投手はどんな状態なのか。全部頭に入れて試合に出たら、前より成績は上がるんじゃないの?」。子どもに諭すように簡単に野球を教えてくれました。大嫌いだった野球を、また大好きにさせてくれたのが野村監督でしたね。

山本:
僕もアドバイスする時は、歳下を否定しないようにしていますね。鳥取の小山先生がそういうスタンスなんです。動きも野球も100パーセントの正解がないので、例えマイナス要素のある動きだとしても、他の動作が良ければその選手は大成するかもしれないですしね。

山﨑:
打ち方については、各々スタイルがあるので何も言いませんでしたけど、チームリーダーとしての佇まいについては、後輩にうるさく言いましたね。お前のその振る舞いを見て、さらに下の若手がどう思うのか、自分がどういう立場でいるかを認識しているのかと。楽天にいた時は、嶋、鉄平、聖澤をしばきましたねえ(笑)。

山本:
しばくって(笑)。でもジャイは曲がったことを一切言わないので、彼が怒る理由を周りが真剣に考えると思うんですよ。その場を取り繕うことも、意見の帳尻合わせもしないので。

山﨑:
今挙げた3人は、僕が楽天を退団する際に号泣して、日本一になった時に「あの時、先輩に叱ってもらえて良かったです」と言ってくれたのが嬉しかったですけどね。3人とも立派な選手になって。僕は一旦怒らないと気が済まないですが、昌さんは怒る寸前になると、相手にしなくなる一番怖いタイプ。シャッターをガラガラ閉めちゃうから。

山本:
もうね、心の門を閉めちゃうの。お前、もう来るなって。めったに怒らないのだけど、僕の顔が変わる時があるみたいなんです。それを当時だと中堅の小笠原とか山井が察して、「山本さんを怒らせてはいけない!」という空気を作ってくれましたね(笑)。

親子ほど歳の離れた若手とプレーをして思うこと

山本昌

山本:
選手生活の後半は二軍の外野を走りながらブルペンが見えるので、若手や中堅ピッチャーの状態を常に把握していました。何か聞かれたら答えてあげようと準備をしていました。中堅投手は一緒にプレーした時期もあるのでアドバイスしやすいんですが、若手投手は難しいですね。良いものを持っているからプロ入りしているので、ルーキーならば8月、9月を過ぎるまで見守ってあげないといけません。若い選手の特徴としては、技術的に頭でっかちな子が多いですね。今の時代、何でも調べられるので、アマチュアも素晴らしい練習をしているんです。そういう若手に「アマチュアと比べて、プロの練習はどう?」と聞くと、コーチのいる前で「アマチュアのほうがキツいっすね」と平気で言う子もいて(笑)。理論として知るだけでなく、体感して技術を突き詰めてから喋ってほしいというのはありますね。

山﨑:
若い子は、成功で得ることばかり考えているのがもったいないですね。成功報酬的な時代になっているので、そういう考えになるのはやむを得ないのだけど、失敗から学べることもたくさんあるのに、危なそうなことには手を出さない。

山本:
あと特徴としては、そつなくこなす平均的な子が多いですね。プロ入りしてすぐに、カットボール、ツーシーム、チェンジアップなど、いろんな変化球が投げられるしね。

山﨑:
今の若い子は知識があるし、器用だし。みんな頭がいいんですよ。

山本:
でも平均点的な子は、野球界に限らないと思うのですが、1.5軍の便利屋でベンチ要員でしかなり得ないんです。生き残っていくためには、誰にも負けない自分の得意分野を伸ばすことが大事だと思います。鬼のように球が速かったり、鬼のように飛距離が伸びたり。とにかく人より、突き抜けることが大事です。他の技術は、もう後づけでいいんですから。

山﨑:
野球界でも会社でも同じだと思うんですが、入団や入社といった一斉のスタートラインから始めて、ライバルと差が出るとしたら、どこまで数字が残せるかという気力や自分自身への探究心だと思うんですよ。

山本:
僕は、「最近の若い子は……」と言うのが好きじゃないので、大谷翔平選手をはじめ、最近の若手はしっかりしている部分もあるなと思っているんです。僕らの時代は根性で締めつけられて練習をしてきたので、年配の人たちが若い子を昔の論理で押さえつけるのもおかしいですし、若い子たちも「そんな考え方は古いよ」と一蹴するのもおかしいですし。若い子たちはベテラン選手を見て何故こんな行動をするのだろうと考えたり、年配の人たちも若い子が何故こんな考え方をするのだろうと想像したり、お互い理解し合えるといいですよね。野球も会社も古いものと新しいものをミックスさせて、新たな色を作っていけば、未来につながると思います。

自分が組織のどの位置にいるかを常に把握する

山本:
講演に伺ったりすると、たまに寂しいお話も聞くんです。私は窓際だとか会社に必要とされていないなどと、ベテラン社員さんでおっしゃる方もいらっしゃるのですが、ぜひ考えていただきたいのは、何故その状況になったのかということです。「会社のために何かをしよう」とモチベーションを見せていたら、おそらく状況は改善できたのではないかと。一生懸命やっていれば、必ず誰かが助け舟を出してくれるはずなんです。

山﨑武司

山﨑:
僕も昔は自分勝手で、最初の中日でもオリックスでも上の人と喧嘩して、両球団とも退団したんです。自分の成績さえ良ければ、チームが最下位でもいいやと思っていました。でもそれだとなかなか良い結果が出ないんです。そこから野村監督に出会って、「チームに対して俺は何ができるのか? 一番貢献できることは何か?」と考え尽くした結果が、晩年ホームラン王に結びつきました。

山本:
野球でも会社でも同じだと思いますが、全員エースの組織なんてあり得ないんですよ。だから、会社で自分が今、どの立場にいるかを把握することが大切です。昔、ジャイも僕も二軍にいた時、次に一軍に呼ばれるのが誰なのか、自ずとわかります。僕はピッチャーで何番目なのか、ジャイは野手で何番目なのか。自分が二軍で上から数えて何番目なのかを理解していたので、一軍が近づいてくるとさらに頑張っていましたね。

山﨑:
組織の中の自分の位置の把握は、すごく大事ですよ。会社でも上司は部下に言わないでしょうけど、昇格の順番があるはずです。AとBは同じくらいできるが、Aのほうが信頼できる。野球でも同じですが、会社でも肌感覚でわかるはずです。組織の中の順序を上げていくだけでも成長ですよね。たとえ上司が理不尽だとしても、確実に部署内の順位はつけていますから。順番はなんだかんだで大事だと思います。競争がないと、良い仕事はできませんから。

山本:
組織で頭1つ抜けようと思ったら、周りの人を1人1人追い抜いていかないといけないですよね。「次に昇格するのは俺だ」という位置にいかないと。昇格が全てではないですが、会社のグループや野球ならば二軍の中で、自分が上の位置にいなくてはという気概を持ってほしいですね。

山﨑:
確かに人と張り合いたくない方もいるとは思うんです。でもベテランの社員の方も頑張って、少しでも上の次元で勝負してもらいたいです。どうせ勝負をするならば、弱い土俵ではなくて、一段ずつレベルの高い土俵で戦ってほしいですね。

山本昌・山﨑武司

――企画:中村潤一/取材・文:横山由希路/写真:三宅詩朗/編集:鈴木ちづる