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コラム 政治・経済

2014年07月04日

見えてきたウクライナ危機の幕引き

昨年秋から始まったウクライナ危機、今年2月にはロシア寄りのヤヌコビッチ政権が放逐され、そして5月に行われた大統領選挙で勝ったポロシェンコ氏が大統領に就任した。

ポロシェンコ大統領の立場は、親EU(欧州連合)である。しかしロシアとの関係は無視できない。強大な軍事力を持ち、しかもロシア語を話す人々が多いウクライナ東部は、親ロシア色を鮮明にしている。ウクライナ軍が鎮圧に乗り出してはいるが、親ロシア派住民も抵抗を止めていない。

当初はウクライナとロシアの国境にロシア軍(最大4万と言われた)が集結していた。ウクライナの暫定政権に圧力をかけるためだ。もし親ロシア派住民を武力で制圧し、犠牲者が出るようなことがあれば、ロシア軍の武力介入もありうるという脅しだった。アメリカやヨーロッパは、ウクライナに軍隊を派遣するつもりはないと早々に表明していたから、プーチン大統領にしてみれば脅しをかけるのは楽だったに違いない。

しかしウクライナ軍の鎮圧で、双方に多数の死傷者が出てもロシア軍は動かず、6月にはプーチン大統領に与えられていたウクライナへの介入の権限も議会に返上されたのである。欧米と決定的に対立することを避けたということだろうか。

プーチンが事態の鎮静化に協力する意向を示したのは、二つ理由があるかもしれない。ひとつはすでにクリミアを併合して、最低限取るべきものは取ったからだ。クリミアはもともとロシア領だったものを、ソ連時代にフルシチョフ首相がウクライナに譲渡したという経緯がある。しかも重要な軍港があり、ロシアとしてはクリミアがウクライナと一緒にEUに加盟し、場合によってはNATO(北大西洋条約機構)に加盟するようなことは絶対に許せなかったに違いない。

その意味では、欧米もロシアの立場を十分に理解し、クリミア併合はやむを得ないと考えているだろう。ポロシェンコ大統領は返還を求めると公約しているものの、それが実現するとは考えていないだろう。そんなことでロシアと対立するより、ウクライナの経済を立て直すことのほうがよほど重要だ。

これから問題になるのは、ウクライナ東部に自治権をどの程度認めるかということだ。ドネツクでは親ロシア派住民が「ドネツク人民共和国」設立を宣言した。もちろん独立を認めるわけにはいかないが、かといって従来の制度では親ロシア派住民を納得させることはできまい。もしも分裂するようなことになれば、東部工業地帯を失うことになり、ウクライナ経済はますます立ちゆかなくなる。その意味ではポロシェンコ大統領の立場も、いかに欧米のバックがあるとはいえ、それほど強くはない。

一方、ロシアにも弱点はある。それは経済だ。ロシアは資源を輸出することで国を維持している。その資源のうち天然ガスはほとんどがヨーロッパに輸出されるが、EU諸国はロシアへの依存度が今以上に高まることを警戒している。2006年には、ウクライナ経由のガスパイプラインがストップしたこともあったし、先月にはパイプラインの爆発もあった。このため、EUはロシアからのガス輸入をむしろ減らして、中東からLNGを買ったり、あるいはトルコ経由のパイプラインを敷設したりというエネルギーの安全保障を図っている。これはロシアにとって頭の痛い問題だ。

しかも世界のエネルギー情勢は、アメリカのシェール革命の余波で中東の天然ガスが余り、それが欧州に向かっている。つまりロシアには今のところ「切り札」がないのだ。先ごろ、中国を訪れたプーチン大統領は、習近平主席と天然ガスの契約をまとめた。大々的に世界に発表された契約だったが、ロシアは西に売れない天然ガスを全部中国に持って行くつもりはないとされている。中国に価格主導権を握られるのを警戒しているからだ。

ロシアのそうした立場を考えれば、プーチン大統領にとって、クリミアさえ手にいれれば今回のウクライナ危機では「勝者」ということになるだろう。ということは、ウクライナ東部で再び親ロシア派住民による「反乱」が激しくならないかぎり、それぞれの当事者にとってこれで幕引きとなるのだろうか。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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